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004・愚か者の末路

 時は少し遡る。ドラゴンから提供された鱗や角、爪等がツレルクの新たな産業として軌道に乗り始めた頃、そんな特産品に目をつける者たちがいた。それはツレルクと隣接するデンバ・リオワ伯爵である。元々王家直轄領にして特別都市として何かと優遇され、富を生み出してきたツレルクを欲してきていた伯爵は今回のドラゴンの襲来を最初はザマァないと軽視していた。これでかの都市が廃墟となればいいと考えていたのだがまさかドラゴン由来の素材を売ることでさらなる経済基盤を手に入れて復活するとは完全に予想外であったのだ。


「このままではいけない!」


 伯爵はそう考えると無謀なことにドラゴン討伐のために兵を挙げたのだ。悪逆なるドラゴンによって支配された王家の都市を奪還する。名目はそのようにして挙兵した。その数は五千。一般的な領地持ちの伯爵家が出せる兵が大凡3千ほどであり、リオワ伯爵はかなりの無茶をしてか数を揃えていたのだ。

 これだけ入ればたかが一匹のドラゴン等簡単に討伐出来る。そう考えていた伯爵は縄張りを荒らされたと判断したドラゴンの奇襲を受けて早々に考えが甘かったと認識させられることとなった。

 ツレルクへと続く街道を進んでいた伯爵軍に対してドラゴンは先制攻撃を行った。異世界にすら行き来が可能であり、いくつもの世界を滅ぼしてきたこのドラゴンにとってたかが5千の軍勢など敵ではない。しかし、自らの脅威を正しく理解できていないことだけはその動きから分かっていた。空を飛べるドラゴンに警戒するために上空に対して注意を払っている様子もなく、増してや行軍する兵士たちはツレルクで略奪することを考えるなど勝ったきでいるのだ。領主が領主なら領民も領民といったところだ。

 そのため、ドラゴンは自らの脅威を再認識させるために手間を掛けることを決めた。最初は単純なブレスを放つ。これはドラゴンなら誰もが使うことができる攻撃方法であり、ドラゴン同士の喧嘩では先ず使用されることはない。鱗を貫くには威力が足りないからだが人間相手には必殺の攻撃となる。このブレスによって前を行軍していた五百人が一瞬で焼き殺された。そしてブレスに合わせて魔法を展開し、ブレスが通った場所に炎の壁が出現した。これはブレスよりも高威力かつ高い維持性能と魔力消費がほぼないに等しいという燃費のいい魔法だった。無論、人間がこれを展開させようものなら何千の人柱を用意したうえで術者が命と引き換えに発動させるほど大規模なものとなり、成功率も対して高くはならないだろう。

 前を封じた後は後方にもブレスと魔法を放ち同様に炎の壁を作り上げる。人間が通ろうものなら瞬時に炭と化す高い火力を誇る壁に挟まれた伯爵軍は大混乱に陥るがここからがドラゴンの本番だった。

 この世界を司る精霊に干渉して伯爵軍周辺の空気を変化させる。徐々に酸素を減らし、熱を籠もらせ、湿気を増やす。まともに呼吸すら出来ない高熱の牢獄が完成した。鎧を着た兵士たちはあまりの熱さに脱ぎだし、馬は耐えきれずに崩れ落ちていく。体力のないものはその命を終わらせていき、ドラゴンへの恐怖を心に刻んでいく。

 しかし、縄張りを荒らされるというのはドラゴンにとっては屈辱的な行為だ。これがドラゴン同士なら問題はないが相手は縄張りの代表にも見たない木っ端な存在だ。ドラゴンにとっては侮られているに等しかったのだ。

 故にこんなもので終わらせるつもりはなかった。ドラゴンは回復魔法を生き残っている伯爵の兵士に使用する。間もなく命が潰えようとしていた伯爵をはじめとする兵士たちはかろうじて生き延びたがだからといって環境が改善したわけではない。再び低酸素高湿度高熱の牢獄で苦しみ藻掻く事となった。


「愚かなる人間たちよ。われは慈悲深い。貴様らを死なさずに縄張りまで返してやろう。何死にそうになったらわれが回復させてやる何度も何度もな」


 それはまさに絶望の宣告だった。どれだけ苦しみもがこうとそこから逃れることはできないと、逃すことはないとドラゴンは言っているのだ。その証拠にそうこうしている間にも回復魔法は発動し、兵士たちの肉体は元通りになっていく。

 兵士たちはやがて藻掻くことさえなくなり、ただ永遠にも続くとさえ感じられる苦しみから解放されるのを祈るのみとなった。彼らが解放されるのはそれから2日経過した頃であり、解放された彼らは肉体的には五体満足であったがその頃には心が完全に破壊され、誰一人としてその場を動けるものは現れることはなかったのだった。

 この一件はまたたく間に王国中に広がることとなり、ドラゴンの恐ろしさを再認識させる事となるのだった。



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