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001・全ての始まり

「人間どもよ。我に従え」


 その日、ポラン王国でも一二を争う大都市ツレルクは都市が始まって以来の非常事態を迎えていた。近年は戦争もなく平和だった中に突如としてドラゴンが現れたのである。町中は右へ左への大騒ぎとなった。



 ドラゴン



 それはおとぎ話にも出てくる伝説上の生物だが決して空想上の生き物という訳ではない。人間等足元にも及ばない知性と身体能力、魔法に加えてこの世界を構成する精霊すら意のままに操り、異世界すら行き来すると言われている間違いなく世界最強の生物である。

 そんな彼らはポラン王国よりもはるか北にある大山脈に籠って暮らしている。そこは世界で最も精霊や魔力が高純度に存在する場所であり、人間では近づくだけで肉体が破裂しかねない場所だがドラゴンにとっては最も居心地の良い場所である。故に彼らはそこから出る事はなく、世界を見て歩きたいのならば異世界へと渡りこの世界に興味を示さない。故に人間等という矮小な存在が世界の覇者と言わんばかりにでかい顔をして生きている事が出来ていたのだ。

 そんなドラゴンが街に降り立ったのだ。恐怖を持つなという方が難しい話だろう。幸か不幸かドラゴンは都市の中心にある広場に降り立ち、人間を殺しかねない圧を放っているだけでそれ以上の動きは見せていない。いや、動きではなく口をうごかしていたが。


「聞こえぬのか! ここはこれより我が縄張りとする! 異論ある奴は前へとでよ!」


 ドラゴンは咆哮の如き怒声を放つ。たったそれだけ広場に隣接する建物は吹き飛ばされ、警戒して集まった兵士たちが血だらけで倒れていく。圧倒的な力を持つドラゴンの前には人間は立っている事さえ出来ないのだ。


「お、お待ちください! ドラゴン様!」


 そんな誰もが逃げ出す状況の中で豪華な衣装に身を包んだ男がやってきた。この都市を収める都市長であるカルモンドである。都市に善政を敷き都市に住む誰からも好かれる素晴らしき為政者は今まさに都市の為にその身を投げ出していた。

 ぎょろり、とドラゴンの瞳がカルモンドを捉え、やがて顔全体を向けた。ただそれだけでカルモンドは気絶しそうな程の圧力に襲われるがここで気絶しては都市は終わりだと気を引き締めて声を張り上げる。


「私はこの都市を収めるカルモンドと申します! ドラゴン様、何故この都市をな、縄張りにしようなどと……!」

「貴様がこの都市の責任者か。丁度いい。我に従え」


 話が微妙にかみ合っていない気がする。カルモンドは生物として完全に上位に君臨するドラゴンの一挙手一投足に命を危険を感じながらも都市の為に話を続けた。


「ドラゴン様にとって人間の土地は住みにくいと聞きます! 我々としてもいきなり縄張りにされると聞き納得などできるはずがありません!」

「ほう? 我に指図するか。面白い」


 どの辺が? とカルモンドは内心突っ込む。絶対に口に出すことはできないが。


「異世界の言葉に郷に入っては郷に従えと言う言葉があるらしい。我は気まぐれに人間が言う所の国づくりをしたくなった。故にここを拠点に縄張り、我が国家を広げていく事を決めた」

「そ、それは……!」


 カルモンドは恐らく自分が今人間史の転換点にいる事を自覚した。そして自分の発言次第で今後千年の人間が辿る未来も。ブワァッと、脱水症状になりかねない程の汗を出しながら会話を続ける。


「つまり、ドラゴン様はこの都市を王都として自分の王国を作りたいと言っているのですか?」

「そうだと言っている。無論否とは言わせない。断るのであればこの地を更地にし、次の街に行くだけだ。ここを更地にすれば次の街は否とは言うまい」


 まさに人間の常識は通用しない相手だと理解させられる言動だった。人間ではそのような事は不可能だしやったとしても統治は失敗するだろう。しかし、ドラゴンが相手ならば誰もが諦める事となる。目の前のドラゴンはそれを理解して言っているのだ。


「どうする? 我が縄張りとなる事を了承するかそれとも農耕がしやすい更地に戻るか、好きな方を選ぶと良い」

「よ、喜んで縄張りに加えらせていただきます!」


 拒否権など最初から存在はしない。カルモンドはとんでもない事になったと自覚しながら勝利の雄たけびとも言わんばかりの咆哮を上げるドラゴンを前に死にそうな気分でひざをつくのだった。


気まぐれに書いていきます

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