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2。

 気が付くと──、私は、暗黒色に光る小さな護身用の呪刀(ダークダガー)をこの人の首もとに、沿わせる様にして突きつけていた。

 なんだか変な夢を見ているみたいだ。私が私じゃないみたいな。

 けど、『黒アリル』──って、もう一人の私が、頭の中にいたような……。なんだか、もう一人──私じゃない私の中の心の冷たい部分を感じて、話すと言葉にトゲを突き刺さしてしまうように感じた。


「最期に名前くらい聞いとくよ。名前は?」

「ハァハァ……。ブ、ブレイド……。閃光のブレイド」

「ふーん。通り名って、ワケ? カッコ良いんだね」


(──く、(くち)、悪ぅ……。な、なんか、私じゃないみたい……。『黒アリル』?のせい?)


 そう思った矢先──。

 ──『黒アリル』が、私から主導権を横取りしようとした。頭の中で。


「はいはい。アリルちゃん。もう一人の貴方──私こと『黒アリルちゃん』にバトンタッチのお時間ですわよ?」

「えー?! ちょ、や、やめてよ!!」

「はいはい。良いから、良いから。お眠りなさい……」






 


 

 私こと、『黒アリル』が想うに──。


  ──先月も居た。こう言う人たち。

 俗に言う騎士団か何かだろう。やたら、何とかの誰それとか言う。お母さんから聞かされてたけど、正直、ウザい。

 けど、名前には誇りがあるらしい。それぞれの人生を象ったような。私にだって、アリルって名前がある。けど、語るほどでもない。アリルは、アリル。私は、私。アリルも黒アリルも、二人で一つ。


「あんたって、死ぬの?」

「どうやら、そうみたいだな……」


 この人のエメラルドグリーンの瞳が震えてる。風前の灯火。

 少し風が吹いて、私たちのいる谷底の川原を渡った。真っ赤な鮮血が、太陽の光を受けて、石ころに流れ落ちる。血の匂いがした。それとは別に、涼やかな顔をしたこの人の青い前髪が、風に揺れている。

 どこか、諦めたように──、この人が幽かに笑っているように見えた。


「ハハ……。助けてはくれない──、か」


 先月も、見殺しにした。

 一個団体の騎士団だったとは言え、ただの人間の集まり。

 S級冒険者(トップランカー)──。そう言ってたっけ? 笑える。

 強そうな人も居たけど、心に惹かれるものなんて無かったから。

 そうやって、また、何処かの誰かが死ぬ。称号(ライセンス)とか階級(ランク)なんて、意味は無い。

 ただ、転がるのは屍だけ。まだ、探せばその辺にあるだろう。


「意識が、朦朧として……。短い人生だった」

 

 『魔法』なんてものを求める連中には、ロクなヤツが居ない。例え、それが国からの命令だったとしても。

 私たちだけじゃない──他人の幸せを踏みにじる奴は許せない。誰であろうと。結果的に。必ずそうなるから。それが、『魔法』なんだ。この『彷徨いの魔の森』の封印を解くことは許されない。


「最期に、言い残すことは?」


 人間としての価値──。

 

 ──私、黒アリルのお眼鏡にかなうかどうかで、生きるか死ぬかの運命が決まる。

 なんてったって、ここは『彷徨いの魔の森』。

 かつての魔王……の魔力そのものを、そのまままるっと、それ以上に凝縮させ保存している禁断の地。

 いわば、この世界における最高峰のラストダンジョン──魔王城みたいなもの。

 攻略は不可能。勇者なんてものは、もはやこの世界には、存在しないワケだから。

 いわば、私とお母さんとお父さ……まぁ、良いか──が、世界の均衡を守る番人なワケ。

 誰かを助けた事なんて、一度も無い。


 青い前髪が風に揺れるエメラルドグリーンのこの人──が、最期の力を振り絞り、肺に残っていた僅かな空気を吐き出して、何かを言葉にしようとしていた。この人の口もとが、幽かに動き始めた。



「──魔女は、可愛いかった……」








「!?」

「ふにゃご?」





「──……えええぇぇっ!!? えええぇぇっ!!?」

「あ、アリル?」

「ちょ! どきなさい! 『黒アリル』!! 私に変わって!!」

「えっ!? キャッ!!」

 

 

(あり得ないあり得ないあり得ない! ぜーったいに、あり得ない!!)


 私は、我に返って、存在すら忘れていた猫のロザリオを足もとから拾い上げ──ワシャワシャ!──と、撫で散らかした。

 そして、頭の中の私の『主導権』を、『黒アリル』から私──こと『アリル』へと奪い返した。

 

 シーンとしていた『彷徨いの魔の森』に、川原のせせらぎの音が聞こえる。

 それから、動揺してた私は、もう一度「ふにゃご!」と鳴いた猫のロザリオを黒装束の服の中に押し込んだ。

 服の中で、暴れる猫のロザリオと私の素肌が合わさって──私の心臓の音がドクンドクン──と、波打つのがはっきりと分かった。

 悪魔に心臓を生贄に差し出した時みたいに。


「ちょ! もっぺん、言って!!」

「いや、意識が……」


 改めてお顔をよーく見ると──、青くサラリと光る髪の毛に、星を宿したエメラルドグリーンの瞳。そして、儚く色白な素肌に、血色の乏しい唇──って、どうしよ!? 死んじゃうっ!?


「はわわわ……。ど、どうしよ、どうしよう!!」


 王子様の背中から、どんどん血液が溢れ出してる。川原の石ころが、真っ赤だ。


「ロザリオ!!」

「ふにゃあ?」


 ロザリオを、黒装束の懐から取り出して、ガシッと掴んで抱きしめる。

 ロザリオの黒い毛並みは柔らかく、この子の心臓の鼓動が私の胸に伝わる。


「ど、どうしよ、ロザリオ!! ──って、王子様ぁ!! 死んじゃ、ダメー!!」

「……」


 もはや、王子様は、返事しなかった。

 もっぺん、あの言葉を聞きたかった。

 人間は、魔女を恐れる。だけど、私だって、お友だちとか恋人とか──って、イケないイケない!!

 今は、目の前のこの王子様を……。


「ダメ……。魂が身体から浮き出てる」


 魔女には、当然、魂とか霊的なものが見える。悪魔だって使いっぱしりにしちゃうんだから。魔法を使いこなすんだし。見えて当たり前。

 けど、そんなこと考えてる場合じゃない!!


「蘇生魔法にゃ……」


 私の胸もとから、声みたいなのが聞こえた。


「──え? ロザリオ?」


「だから、蘇生魔法にゃ。アリル」


 黒い毛並みの猫のロザリオを抱き上げると──、ロザリオの金色の瞳が私の目を見て、しゃべった。




 




 


 


 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前半「誰だろう?」と思ったら、主人公ちゃんだったんですね。 なんか前回とは性格?が違ったので、誰なのか一瞬わからなかったです。 前回の、ちょっと話書き直したのかしら(´▽`)? そして、次…
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