双月、天穹に満つ(11)
「おい嬢ちゃん、手を貸すぜ?」
近づいて来て面貌を開け、出来るだけにこやかな笑みを浮かべて語り掛けるガサキマを、青い髪の少女はちらりと一瞥する。その間にも四体の銀の鎧は絶え間なく竜に攻撃を仕掛けている。
「あなた方が出入り口の陰で、何かもぞもぞしているのは気づいていました。いつになったら出て来るのかと思いましたよ。私がお婆さんになる前に会えて嬉しいです」
青い髪の少女は半ば冗談めかしてそう言うが、その額には汗が浮かんでいた。
「こいつは熱烈な歓迎じゃないか」
ガサキマはそう言って目をくるりと回すと、面貌を閉じた。それが合図だったかのように、彼の部下たちも床を滑るように移動しながら部屋の中へ入って来て、魔杖の攻撃を竜に向かって放った。
閃光が視界を覆い、連続して爆音が鳴り響いた。
竜が高い嘶きを上げる。
だが、視界が回復すると、そこには赤い鱗に傷一つ負わず、赤い瞳に怒りを宿した竜の姿があった。
『あの攻撃を受けて、まさか無傷なのか……』
装甲魔動機兵の一人が愕然として呟く。自然とその足が止まった。竜は目ざとく動きを止めたその装甲魔動機兵に気づくと、そちらへ向いた。
『馬鹿野郎! 足を止めんじゃねえ‼』
ガサキマがそう叫び終わるより早く、竜の前足が素早く伸びた。鋭い鉤爪が足を止めた装甲魔動機兵を襲う。避ける間もなくその圧倒的な暴力の前に引き裂かれるかと思われた刹那、銀の鎧の一体が体当たりをして装甲魔動機兵を弾き飛ばした。
高い金属音が鳴り響くとともに、竜の攻撃を背に受けた銀の鎧の一体が部屋の端まで飛んでいき壁に激突した。その背には深々と爪の跡が残り、厚い外装がひしゃげて、傷跡の窪みの底の破れ目からは何かの管が幾本も覗き見えた。それでも暫くの間、銀の鎧は立ち上がろうと足掻いていたが、やがて小さく痙攣すると絶命したように動かなくなった。
『すまねぇ、助かったぜ』
側に寄って来て礼を言うガサキマに、青い髪の少女は一瞥もくれる事もなく、前を見据えたまま言った。
「おかげで貴重な自立装甲兵が一機駄目にされてしまいました。あなた方がわたくしの邪魔をしに来たのでなければ良いのですけれど」
ガサキマの機体から苦笑いの声が漏れた。面貌の奥では目をくるりと回しているのだろう。
『そうカッカするなよ。俺がこの段平ですぐに帳尻を合わせてやるからよ』
「お早めにお願いしますよ。出来れば、全員が黒焦げにされる前に」
『おうよ! 悪いがあいつに隙を作るのを手伝ってくれないか』
青い髪の少女は黙って頷くと、大きく手振りをして銀の鎧に指示を出した。残った銀の鎧は個別に意思を持つかのように有機的に、だが一分の隙も無く連携して竜に対峙する。一体が側面から竜に飛び掛かると、もう一体は反対側から低い姿勢で踏み込む。もう一体はシアンの傍で不測の事態に備えながら、隙があれば切り込む気配を見せている。
四人の装甲魔動機兵は距離を保ちながら、魔杖から攻撃を放ち続ける。竜の外皮にこそ傷をつけられないが、その攻撃が当たるたびに竜が怒りに満ちた咆哮を上げるところを見ると、多少の痛みは与えているらしい。
その間もガサキマは竜を中心に円を描くように走り、竜の隙を窺っている。
リュードッグだけが、離れた場所で剣も抜かずに事の成り行きを見つめていた。緊張に張りつめた表情を見る限りは戦意を失っているわけではないらしい。
やがて装甲魔動機兵の魔杖の攻撃が止んだ。杖の魔力を使い切ったのだ。装甲魔動機兵たちはそれぞれ杖を投げ捨てると背負った大剣を引き抜いて構えた。
杖の攻撃が止んだのを見て、竜は素早く飛び跳ねたり身を沈めたりする銀の鎧よりも、薄鈍色の魔動鎧の方が与し易いと見たらしい。装甲魔動鎧の一体を目掛けて顎を開いた。その顎の奥が赤く光る。
『避けろ!』
ガサキマが叫んだ。
だが、竜に狙いを定められた装甲魔動機兵は、竜の鋭い眼光に足が竦んだらしい。横っ飛びに跳んで灼熱の吐息を避けようとしたが、一瞬その動作が遅れ避けきることが出来ず、炎に飲まれたかに見えた。その寸前に二体の銀の鎧が竜の前に立ち、灼熱の業火を遮り装甲魔動機兵を庇った。
灼熱の吐息が止んだ後には、動く事のなくなった銀の鎧と、最悪の事態を逃れた魔動鎧の姿があった。だが、その庇われた装甲魔動機兵も無傷とはいかず、膝を着いて動けずにいた。
次回は11/13(日)に更新します。




