閑話 2
閑話2話目。
またとてもくだらないです。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
* ○○をかけての勝負 *
「佐々木さん、ウノやらない?」
「ウノ⁉︎ やるやる‼︎ 私強いよー‼︎」
「マジで⁈ あっ、シキもやるだろ?」
「何でおまえらと遊ばなきゃいけないの?」
「相変わらず冷たいなーツンデレ王子‼︎ やりたくなったら言えよ! 配るぞー‼︎」
やりたくても出来ないんだよ。
赤、青、緑、黄色。この四色を駆使して行うゲームのウノ。俺が一番苦手としているものだった。
それはもちろん、色が分かんないから。
黄色は分かる。薄いから。
あとの三色は全部濃いめのグレーだ。
多少のコントラストはあるように思えるが、元の色が分からないから比べようがない。
トランプなら負ける気なんてしないのにと思いながら隣に座る彼女を見た。
相変わらず俺の周りに集まり騒いでる男子の中に混じってる紅一点。
いや、自然過ぎるだろ。
もうちょっと抵抗とか恥じらいとかないのか。あったらあったで彼女っぽくなくて何か嫌だけど。
横顔の彼女は口元に笑みを浮かばせながら、次に出すカードを選んでいた。
何で色が分かんないんだろ。何だか悔しい。
そう思ってしまうのは、すっかりこいつらに絆されてしまった証拠だろうか。
頬杖をつきながら彼女のカードを横目で覗いていた。
その視線に気付いてカードを見せてくる。
「どう思うシキくん? 黄色がねぇ…」
彼女が黄色と言った瞬間に右端に持っていた黄色のカードが色を付けた。
いつ見ても不思議な感覚だ。
色を持たないモノクロの俺の世界で、彼女が色を紡ぐと物に色が灯る。
まるで魔法をかけられたようなその光景に俺はいつも魅せられる。
「おい、聴いたか⁉︎ 佐々木さんは黄色がないぞ‼︎ ドロフォー行け、行ってしまえ吉田‼︎」
「ガッテン承知‼︎ とぅ! ドロフォーで黄色!」
先程の彼女の発言を聴いていたであろう他の男子が、少なくなっている彼女の枚数を増やそうとドロフォーのカードを出した。
あー…騙されてる。
「持ってないなんて言ってないよー! 黄色のドロツー‼︎ はい、本橋くん‼︎」
「…おい、吉田。俺の枚数だけがどんどん増えていくんだけど…」
「くそー‼︎ また佐々木さんの策にハマってしまった! すまん、本橋‼︎」
「すまんで済むか! あー佐々木さんの次イヤだ…誰かリバース出してくれ」
そう、さっきから見事なほどに彼女の策にみんなが嵌まっていた。いやみんなと言うか主に吉田が。
意外なことに彼女はこういうカードゲームが得意なようだった。
そしてその被害を被るのが隣の人間になる。
本橋、哀れ。
程なくしてウノは終わった。二回の勝負は見事に彼女の一抜けで終わっている。
彼女が早々に抜けるものだから、残ったやつらのゲームのウダウダ加減が酷いのなんのって。
結局二回ともビリだったのが吉田。二回目は15枚も残っていた。
何がどうなってそんなに残った?
「あー悔しい! 佐々木さんをギャフンと言わせてみたい‼︎」
「ぎゃふん‼︎」
「ちがーう‼︎ ウノで勝ちてー‼︎」
いつもの昼休みの光景だった。
ちなみに今は五時限目。古典が自習になりその時間までウノをやってるこいつらは、そうとう熱中している。
どうやっても彼女に勝ちたいらしい。あんまりうるさくしてると怒られるぞ。
ホントにアホだな。
その光景を呆然と見ていた俺の方を吉田が物凄い勢いで向いてきて、本橋たちと何やら話し始めた。
その姿を何度も見ている。こういうときのあいつらはろくでもないことを考えてる。
怪訝な目つきで睨みつけていると、吉田がコホンとわざとらしく咳払いをしてから、改まって話し始めた。
「ねぇ、佐々木さん。もう一勝負しない? だだウノやるだけじゃつまらないから賭けよう!」
「いいねー! 何賭けるの⁉︎」
「もし、佐々木さんが負けたら…」
「負けたら…?」
「シキが一位のやつとキス!」
「えーーー‼︎」 「はっ?」
俺と彼女が言ったのは同時だった。やっぱりろくでもないこと考えてやがった。
隣の彼女をみると顔を青くさせて「シキ君の貞操が…操が…」とオロオロと訳の分からないことを呟いてる。
女の子がそんなこと言うもんじゃありません‼︎
大きく溜息をついてその場を何とかしようと口を開いたとき彼女がいきなり大きな声を出した。
「私が! 私が勝てばシキ君の唇は守られるんだよね⁉︎」
「佐々木さんは強いからね。こっちだって負ける勝負は挑まないよ! こっちには秘策があるんだよ…ふふっ」
何やら怪しげな目付きでこっちを見てきた。
「今回はシキも参加でーす!」
「はっ? 何で俺が…」
「自分の唇が俺たちに奪われてもいいか? 俺たちは嬉しいが佐々木さんは悲しむぞー?」
嬉しいのかよ‼︎
やっぱり変な事考えてた…あー正直面倒くさい。でも唇奪われるとかマジ勘弁。咲季とだってまだ…って何考えてるんだ俺は。
ルールはこうだった。俺が勝てば好きなやつとキス出来る。但し負けるとビリのやつとキス。
そして彼女が負けると俺が一位になったやつとキスすることになっている。
つまり俺は何が何でもキスすることには変わりない。相手が選べるか選べないかだけの違い。
何かこのルールおかしくないか。俺だけ被害を被ってるだけのような。
つまりは何が何でもこいつらは彼女に勝ちたいのだ。
簡単に言えば吉田たちの代わりに俺が彼女に勝ってくれってこと。
やっぱり俺の貞操が…。
しかし、この勝負に彼女が乗らなきゃ何の問題はない。
よく考えろ、俺の唇は咲季にかかってる。
「いいよ! 勝負のった!」
乗ったよ…乗っちゃったよ。
そうだ…咲季はバカだった。
多分、最後に言った勝ったら一ヶ月毎日アイス奢るってやつに釣られたんだ…。
自分の身を守るのは自分しかいないか。
「頼むシキ‼︎ 佐々木さんに勝ってくれ‼︎」
仕方ないなと、大きく息をついた。
キスをすると言うのもただの冗談なんだろうし。
それに、彼女に勝ちたいという気持ちがあった。彼女には負けたくない。
それは俺のプライドが許さない。
適当にカードを取り咲季の耳元で囁く。
「どれがどの色?」
「2が緑で、4と6が青。5が黄色と赤だよ」
みるみるうちにカードが色付いていく。その色を出来るだけ目に焼き付け、どんどん色褪せていくカードを見つめ色を失ったモノクロのカードのコントラストを覚える。
黄色は大丈夫。緑は少し薄め。赤と青はやっぱり見分けが付きにくい。でも青の方が少し濃いかな。
出来るだけ脳裏に焼き付けた。
「負けないから」
彼女に笑顔を向けると顔を紅潮させて、小さく何度も頷いていた。
ダメだ、可愛い。
その後は、まぁ、見事に俺が勝った訳で。
俺の唇が男に奪われると言うことはなかった。
「じゃぁ、約束通りシキにはキスをしてもらいまーす! 誰とする⁈」
その約束も有効だったのか…。
しかもそのキス顔やめろ。吉田、気持ち悪い。
クラス中の視線がこっちに向いている。またこの状況か。
心臓、痛いってば。
「シキ誰を選ぶ‼︎ 俺でもイイぞ!」
「誰が選ぶか。咲季」
不安げに顔を俯かせていた彼女の腕を掴み、引き寄せる。
彼女の顔が近付き、長い睫毛の奥に隠れた大きな瞳に映る自分の姿が見えた。
唇に目線を移してからふっと笑い、後頭部に手を当てて額に唇を落とした。
「ご馳走さま。唇は別の機会に」
後頭部から手を離しながら耳元で囁くと咲希の顔が茹で蛸のように真っ赤になり、口をパクパクさせていた。
「ホントにやりやがったー! 見せつけやがって!」
「くそー! 羨ましい! これも計算かよ、腹黒王子!」
「腹黒‼︎」
「真っ黒黒‼︎ かっこいいなぁこんちくしょうが!」
「リア充爆発しろ‼︎」
「うるさい、黙れ。非リア充」
クラス中が大騒ぎになりワイワイ騒ぎ始めた矢先、俺の一言でみんなが凍りついた。
その絶妙なタイミングで隣のクラスで現社を教えていた担任が登場。
葬式のように静まり返った教室を見て「静かにしろよー」とだけ言って出ていった。
まぁ、今日の勝負はやって儲けたのは俺だけかな。
今度こそは唇を、何て考えていたのは余談である。
ウノの正式ルールとは異なっていると思いますが、独自ルールです。ご了承下さい。
ウノ、私大好きです。