表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/14

1-13:アオートの胚 上

 この地下迷宮から抜け出す手段は二つ存在する。一つは物理的に階層を上がっていくというもの。そしてもう一つは、ジョウントという名の転送装置を活用することである。地下空間は一層だけでも広大であり、移動そのものにリスクも伴うので、戻るには転送装置を使うのが一般的な方法になる。


 ジョウント装置は、この地下空間の様々な階層、様々な場所に存在している。かつて栄華を極めた時代に、住民が瞬時に目的地に移動するために活用されていたらしい。一万年前の機械が動くというだけでも凄まじいことだと思うが、この装置の肝は「一度行ったことがある場所にしか移動できない」という点にある。


 転送装置の利用者はその前に立ち、転移したい空間を脳裏に思い描く。それも可能な限り正確に、かつ立体的にだ。それ故に白黒の写真で転送先を見ただけでは装置を起動させることは難しいし、転送に失敗すると二度と現世には戻ってこられなくなる。シュライク曰く、「次元の狭間を彷徨うことになるのだが、人の身など瞬時に爆発四散する」ということらしい。


 装置を正しく起動すれば、ジョウント同士が連結し、装置間の移動が可能になる。装置が起動しさえすれば他の者もゲートに入れるので、理論上は行き先を知っている人間が一人いればいいことになる。


 だから、未だ痛む腕に抱えた少女を連れて帰ること自体は、装置にたどり着けさえすれば可能だ。そしてその肝心の「装置にたどり着く」という点に関して、ただいま絶賛難航中である。


 先ほどアザレアという女が「辺りのモンスターは全滅させてきた」と言っていたのは嘘ではなく、今のところは道中で敵に襲われる気配はない。一応シュライクに辺りの様子を探らせているが、確かに問題ないとのこと。


 難航しているのは単純に、自分が満身創痍で歩みが牛歩の如くだということ。しかしあまりに時間を掛ければ、どこからかモンスターが湧き始め、ピンチに陥るかもしれない。


 一応、銃とイクストルでの応戦は不可能ではないが、体を動かすことが難しいので、それこそ大量に来られたら終わりだろう。第六階層のモンスターは強力であるし、この状態で襲われるのは不安が残る。


 なお、モンスターとは、かつて一度なにがしかの邪神の眷属となった者の成れの果てである――これらがこの地下迷宮の大部分を徘徊する、ないし地上世界においても僻地で散見されるモンスターの正体である。


「……こんなことなら、あの女を連れてくれば良かったのではないかね?」


 シュライクの言い分には一理ある。少女を運び終わってからの放逐でも良かったかもしれない。あの女の力ならば、少女を運んでもらうなど容易であるし、モンスターが襲ってきても簡単に撃退してくれたに違いない。


 だが、あの時はなんというか、変にやり切った後で格好つけていたという部分もあるし、何より――。


「……利用するだけ利用して、俺の目の前から消えろ、なんていうのも気まずいじゃないか」

「捨てた犬に後ろ髪を引かれる、みたいな言い訳だな。そんなことなら、生半可な情などかけるべきでなかったのだ」

「ごもっとも……だが、もう遺跡に戻るよりは、ジョウント装置を目指す方が早い。アイツのことは忘れて……それより、少し休憩しよう」


 パンタグリュエルを利用したケースのことも想定はしていた。そのため、途中で安全に休憩できる場所は事前に調査済みである。まさか、こんな大きな荷物を運ぶことになるとは夢にも思わなかったが。


 休憩ポイントは、これもまた古の時代のものである。先ほどの石造りのピラミッドとは違い、こじんまりとした建物だ。単純に壁や天井が残っており、外から化け物たちに多少は気付かれにくくなるというのがメリットのひとつ。建造物は特殊な素材でできており、音や臭いを外に伝えにくくなっているので、多少の安全は確保できる。あとはこの地下空間に雨こそ降らないものの風は吹くので、冷気から体を守れるというのもメリットである。


 この建物は以前はちょっとした倉庫であったらしいのだが、一万年の時の流れの中で内部は荒れ果て、瓦礫や何かの残骸が散乱している。本来はこういったものの中に意外な宝があったりもするらしいのだが、自分にはそれを判断できる審美眼がない。


 この地に住んでいた人々は現在よりも遥かに進んだ文明的な生活を営んでいた。今もその時代の技術力には打ち勝てておらず、この地下迷宮から発掘される物品の大半は「最新の科学技術を用いても何の道具だったか分からない」ことが多いくらいである。


 シュライクに逐一聞けば、それぞれの道具の用途も分かるのかもしれないが、コイツ曰く「豚に真珠、猫に小判」などとネチネチ言ってくるので、最近はもう聞く気も失せている。超古代文明のガラクタを足で掃きのけ、多少は綺麗になったスペースに少女を横たわらせ、自分は近くの瓦礫に腰掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ