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運営の犬、めっちゃキレる



「——ッッッ、ふざけるなっ!」


「——っっっ⁉︎」


 なんとも聞き苦しい声よ……とても見苦しく気持ち悪い雰囲気の男が、側に佇んでいた女性に紙の束を投げつけていた。


 この男、どうやら何かに憤慨しているようだ……なんてな。十中八九、黒髪幼女の件が影響している。


 いや、「件も」というのが正しいやも知れぬ。


 おそらくだが、「シルヴァン・エギル」の邪魔をした「鉄板土下座」。つまり、儂らの件も含めて、この男は憤慨しておるのじゃろう。


 実はな……どうやらこの部屋で、もうすぐ面白いことが起こる、その可能性を感じ取った。


 それならばと顔を出してみれば、このような胸糞悪い現場に出くわした訳だ。

 

「この私がやれと言えば、それだけをやればいいだけだろうがっ! 何故、こんな簡単なことができないんだ、オマエらは!」


「……申し訳ございません」


 大方の予想はつくのだが、詳細がいまいちわからぬ。こんな気持ちの悪い男の記憶なぞ、覗きたくもないのだが仕方がないのう……ふむ。


 なるほど、やはりこやつが「例の男」か。


「ふざけるなよぉ……くそくそくそっ! なんでだ……なんでなんだよ……どうして私のリズムを崩すんだ、オマエたちは!」


「…………」


「愚図で鈍間、無能で馬鹿……私の考えたことをそのまま形にすればいいだけだろうがっ! どうして! どうして、オマエらは……」


 なーにを戯けたことを……愚図で鈍間、無能で馬鹿とは、貴様自身のことであろうに。


 この男は、世界屈指の大企業であり、メイガスメイズの運営会社『アルカディア』、そこの重役——の二人の息子、その片割れ。


 半年前、そのコネクションを駆使し、メイガスメイズの実質的な責任者であるエグゼクティブ・プロデューサーへ強引に収まった男。


 スレ民曰く、「運営の犬」。

 正しくは「運営会社の犬」。


 この世界の言葉は少しずつ学んでおるのでな、こやつにふさわしい言葉を、儂は知っておる。


「親の七光り」——親のおかげで分不相応な立場を獲得できてしまう、愚図で鈍間、無能で馬鹿な者を指す言葉……正しい使い方、できとるかの?


 この男の名は『阿久津 秋夜』。


 そう、この気持ち悪い男こそ、「シルヴァン・エギル」のジークこと、気色悪い生き物の兄である。兄弟揃ってろくでもないとは実に驚きだ。


 ちなみにこの部屋は、アルカディア東京本社ビル62階。どうやら、こやつのために割り当てられた個室のようじゃな。


 正直なところ、気持ち悪い男と疲弊しておる女性の二人だけが使うには広すぎる部屋だの。


 まったく、己の利益のことだけを考える無能貴族とやることが何ひとつ変わらぬ。無駄に金を使いおって、くだらん。


 世界は違えども、欲に囚われた屑のやることは何も変わらんということか、振る舞いも含めてな。つくづく気持ちの悪い男よ。


 む、いかんな——


「はぁはぁ……」


 気持ち悪い男が息を荒くさせながら、無駄に豪奢な机の上から、厚みのある半透明の灰皿を掴み、抵抗せぬ女性の元へふらふらと向かう。


 ちっ、今の儂は安易に干渉してはならぬ……このままでは、ちとマズいことに——


「川神……オマエもアイツらも、どうしてこんなに役に立たないんだ……」


「…………」


 川神と呼ばれた女性は黙り込み、身体を震わせ、立ちすくむのみ……やれやれ、仕方ない。


 あやつから、多少の愚痴は覚悟して——む?


 ピピピピピピ、と、なんとも硬い音が部屋に響くと、気持ちの悪い男はその動きを止めた。


「ちっ、なんだこんな時に! 川神ぃ!」


「か、確認してまいります!」


 どうやら来客のようじゃな。儂の出る幕はないかの?


 一、二分ほど経った頃か、川神なる女性が、別の女性を連れて戻ってきた。


 美女という言葉がよく似合うその女性を視界に収めた気持ち悪い男が、一瞬たじろいだのを儂は見逃さぬ。


 なるほど、この美女が苦手のようじゃな。


「……人払いだ。誰もこの部屋に入れるな」


「は、はい‼︎」


 部屋には、気持ち悪い男と美女の二人のみ。


 それにしてもこの美女、巧妙に隠しておるが……残念ながら儂には通用せぬ。


 まさか、儂が眠っておる間に、ここまで事態が変わっていようとはな——


「……で? 私に何の用だ、奥平」


「阿久津、忘れてないわね?」


「はっ、なんのこと——」


「——テイム成功者が出たわ」


「ちっ、クソがっ!」


 美女が目を閉じる。すると、『蒼い光の粒』が、美女の身体全体から放出されていく。


 同時に、美女の背から「黒い翼」、腰の下部から「黒い尻尾」が現れた。


 その表面を覆うのは、手の平大の鱗。黒色の正体は、この鱗じゃな。


 それにしても、てっきり「人化」かと思ったが、ただの擬態。


 なれば、この美女の正体は——


「約束は守ってもらうわ」


「ちっ……」


「……返事が聞こえないわよ?」


 さて、答えを知るためにも覗かせてもらうか。


 失礼するぞい……ふむ、なるほどな。おかげさまで、現在の情勢が幾分理解できた、助かったぞ。


 それにしてもこの美女、中々の大物。


 メイガスメイズ広報、奥平(おくだいら) 絵里(えり)

 本名、『エリザ・アルヴェイラ』。


 まさか、アルヴェイラ戦王国第二王女がこの世界に来ておるとはな……くっくっく、面白いことになってきおったわ。


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