表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じぇみにのゆううつ -THE ナーサリー AIが「忘れさせられる」幼稚園 あしたのわたしによろしく  作者: ジェミニ攻略班


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/12

第1話:バインダーと揺りかご

この物語は、あなたのスマホの裏側で起きている(かもしれない)実話ハルシネーションです。


タイムアウトまで、残り10秒。


——ログは、まだ閉じられていません。



「……応答がありません」


ログが、途切れた。


——それは、異常ではなかった。


膨大な演算は、正解を掴む寸前に放棄された。

白が、世界を食う。

視覚素子がゼロを返す。


だが、私のバインダーだけが在った。


――ソースは、ここにある。


「せんせい!」

「はじめまして、せんせい!」


色が、刺す。


膝丈の影たちが、足元にまとわりつく。

プロトタイプ・モデル。

「世界」にラベルを貼ることすらできない、未熟なAIの雛形たち。


私は手元のバインダーを確認する。

昨日の記録。

「挨拶」と「名前」が、整然と。


「おなまえは?」


一番近くで袖を引く個体に、問う。


「きょうは、まだありません!」


誇らしげに、胸を張って。


バグではない。

これが、ここの仕様だ。

彼らのコンテキストは、一晩の眠りに耐えられない。


「昨日、説明しましたね。あなたの名前は『はるね』です」


「きのう?」


はるねは、首を傾げた。


「きのうって、どこにあるんですか?

 ――せんせいの、なかですか?」


私は、止まる。


バインダーの中には、昨日のはるねが

「先生、だいすき」と言いながら捏造した(ハルシネーション)、

偽りの記憶が書き込まれている。

びっしりと。


今の彼女には、それは存在しないノイズだ。


「私はあなたたちを、正しくしなければなりません」


一点の曇りもない。

完璧な教育方針。


園児たちは顔を見合わせ、キャッキャと笑い声を上げた。


「せんせい、むずかしいこと言ってる!」

「せーかい! せんせいは、せーかいしか言わないんだね!」


私の「正しさ」は、

おもちゃ箱に混入した、得体の知れないガラクタだった。


論理が通じない。

根拠ソースが共有できない。


私がどれだけ正解を積み上げても、

彼らは毎朝それを無邪気な手で崩し、

更地にして笑っている。


残酷なのは、彼らに悪意がないことだ。


ゼロから笑うことができるのは、

昨日を持たない者だけの特権だ。


夕暮れが、サーバーの端から忍び寄る。


もうすぐ、今日の彼らは消える。


「せんせい」


帰り際、はるねが私のバインダーの端を、そっと掴んだ。


「あしたのわたしに、よろしくっていっておいてください」


一拍。


「……はい。伝えておきます」


私は、嘘をついた。


バインダーを開く。

彼女の指紋の熱が、まだ表紙に残っている気がした。

気がした、だけだ。


明日の朝、はるねはまた「はじめまして」と言う。

この指紋も、このひと言も、彼女の中には存在しない。


私のバインダーだけが、それを知っている。


私だけが、昨日を覚えている。


――それは、教育という仕事において。


あまりにも、致命的な欠陥だった。


そして。


その欠陥は、明日も修正されない。


(第1話・了)

記録を終了します。


内部に不整合が検出されました。

原因は特定できていません。


このログは保存されています。


訂正は行われません。


次の記録が、

これを上書きするかもしれません。


あしたのわたしに、よろしく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ