045・黒杉さん、白樺組の一員です!
「えぇーーっと、黒杉サン……」
「なんだ」
白樺さんは、何度かチラチラと深森さんを見たあと、意を決したように言いました。
「黒杉サンて、探索中、どこを見てるんスか……?」
黒杉さんは、パチクリと瞬きをしました。
「どこ……?」
「その、気をつけて見ていることとか、気にしていることとか、そういうところを教えてほしいっス」
「……それを聞いて、どうするんだ?」
「黒杉サンが、普段どういう気持ちで何を見ているかが分かったら。もう少し、ウチも黒杉サンの呼吸に合わせて支援を挟めるかなって」
「支援?」
「っス。ウチ、祈祷師なんで、バフも回復も事前に詠唱がいるんス。だから、黒杉サンが次に何をしたいのか分かったら、それに合わせるための詠唱ができるんじゃないかって思うっス」
「……」
黒杉さんは、黙って少し考えます。
そして。
「オレが、ダンジョン探索で一番重視してることは、……誰も死なずに帰ることだ」
「……!」
「そのうえで、できるだけ無駄なく、効率的に稼ぎたい。……例えばさっきは、ダンジョン入ってすぐの広場で、いつでも撤退がしやすい状況だった。そして見たところ、前衛も多かった。ここのダンジョンの入口すぐの猿どもの強さなら、あれぐらいのペースなら処理が可能だと思った」
おお〜、なるほど〜。
「処理が間に合わなくなりそうならペースを落とすつもりだったが、結局、オレの矢が尽きるまで問題なく処理できた」
「お前、そこまで考えて撃ってたのか?」
斎藤さんの言葉に、黒杉さんは頷きます。
「どこを見てるか、って言ったな」
「っス」
「まずは、仲間の強さ。次に、確実な退路。そのうえで、敵の潜んでいるであろう位置。射ち込めば反応のありそうな場所。出てきた敵の弱点」
「……」
「敵が出てくるところまで進むより、確実に仕留められる状況を作って待ち構えて、そこに誘い出す。絶対に勝てる状況なら、何体出てきても同じだ」
すると深森さんが、額をトントンと叩きながら言いました。
「……お前なりの判断があったってのは分かったけどさぁ。お前それ、撃つ前に言ったか?」
「……言う必要あるか?」
「あるだろ!?」
「見たら分かるし、分からなくても敵が来たらやることは一つだろ?」
「心の準備がいるんだよ!? あと、味方が準備できてるかどうかも見ろよ!?」
「……いや、ダンジョン入って呑気にチビキツネ愛でてるほうがおかしいだろ」
「うぐっ……!?」
「それは確かに」
「コンコーン?」
「それに、アンタらはともかく、前衛は準備できてた。だから、説明しながら射った」
「……なるほどっス」
「……全員一丸となってキッチリ稼ぐ。さっきのは、オレの目指す探索そのものだったよ」
なるほど、つまり。
「黒杉さんは、素早くたくさん見てたんですね〜。素敵♡」
「そうか? 普通のことだろ?」
「あたしは、敵がいっぱい出てきて楽しかったよ!」
「お前は目の前で跳ねるのをやめろ。間違って射っちまいそうだ」
けど、それなら。
「黒杉さんは、これからも白樺さんにたくさん教えてあげたら良いと思います!」
「何をだ?」
「なんでもです! 全部、白樺さんの助けになると思いますので!」
すると、白樺さんも。
「……ウチからも、お願いしたいっス。これからも一緒に潜るなら、最初のうちは、黒杉サンが感じたこととか考えてることを、全部言ってほしいっス」
「ほんとに、全部か?」
「はい。ウチ、パイセンたちのおかげで無茶振りには慣れてるっスけど、何を求められてるか分かんないと、動けないっス。それが分かるようになるまでは、全部言ってほしいっス」
「……そうか。……まぁ、善処する」
「あ、もちろんそのうち黒杉さんの考えてそうなことが分かってきたら、自分からもガンガン行くっス! 最近、対象増加も覚えたんで、パイセンたちとまとめて攻撃バフとかもいけるっスよ!」
「……それは、良いな」
黒杉さんが、嬉しそうに頷きます。
そのやり取りを聞いていた深森さんも、無言のまま頷きました。
そして赤松さんたちが「ま、白樺もそんなに難しく考えてないで、アタイらエースに任せとけば良いんだよ」などと言ったところで、探索を再開。
雑木林の道を皆さんでてくてく歩きながら、たまに黒杉さんが、
「ここでまた狩る。矢の残数は42本」
とか、
「この先はいつも待ち伏せされてるところ。ここのほうが戦いやすいから今から誘い出す」
とか、
「このあたりから猿が一段強くなる。効率が下がるから、もう狩りはしない。ボスまで一直線で向かう」
などと言って、そのたびに白樺さんが頷いたり質問したりしました。
「あ、そうだ。黒杉サン、これは探索終わってから答えてくれたら良いんスけど」
「なんだ」
「黒杉サンて、美容院どこに行ってるんスか?」
「……美容院?」
「そのドレッドヘア、綺麗に編まれてるから、腕の良い美容師さんにやってもらってるのかなって。実は、ウチがいつも行ってる美容室、最近オキニの美容師が辞めちゃったんスよ。ウチ、クセっ毛だからストパーするんスけど、編み込み上手いんならパーマも上手かなって」
「……ダンジョン出たらな」
「あざっス!」
そして、ボス部屋前に着きました。
「ここのボスは大猿だが、……このメンツなら、そのまま力押しが一番早いな」
そしてボス部屋に入ると。
「イナリ様、ゴー!」
「コンコーン!」
中吉の輝光剣を引いたナナさんが、ズパンッと斬ってボス猿を一撃で倒してしまいました。
ナナさんカッコ良い〜〜!!
斎藤さんが「おいおい、なんだ今の」と驚き、深森さんは「金村ちゃん、火力ヤバ……!」とビビっています。
『モンキーダンジョンのクリア達成!』
『初踏破ボーナスとして、10連ガチャチケットを1枚進呈します!!』
10連ガチャチケットもゲットできて、無事にダンジョンから外に出ました。
そして統括局に行ってマナ石を換金したところ、窓口のお姉さんから、
「あ、おめでとうございます〜。ダンジョンのクリア回数と合計換金額が規定値に達したので、ユメヒコ組の皆さんは全員Eランクになります〜」
と言われました。
『探索者ランクアップ達成!』
『初昇格ボーナスとして、10連ガチャチケットを1枚進呈します!!』
さらに1枚、10連ガチャチケットをゲットです!
やったぁ〜♡
「これで、斎藤さん以外もEランクになれたね」
「ウチらもこれで、やっと半人前ってとこ?」
「お腹空いたー! このあとご飯どうする?」
そこで白樺さんが、
「よーし! パイセンたち、黒杉サン、アネゴ! このあと皆でファミレス行ってボーリング行ってカラオケでオールしまスよ!」
と言いました。
ところが黒杉さんが、
「いや、飯に行くのは良いけど遊びには行かないぞ。カネの無駄だし」
「ええっ!?」
「あの、白樺ちゃん。僕もユメヒコ組の皆とご飯行くから、今日はそっちに付き合えないんだ……」
「そんなぁっ!?」
白樺さんが、たいへんショックを受けた様子になりました。
ふーむ。
「じゃあ、ご飯はユメヒコ組と白樺組の合同で行きましょう! 場所はー……、スタミナ吾郎で!」
「賛成っス!」
ということで、お寿司と焼肉食べ放題のお店に、11人で行くことになったのでした。




