生徒会役員選挙
生徒会役員選挙は始まった。
すでに書記候補や副会長候補の演説は終わり、今は生徒会長候補の演説に移っている。
観客は疲れ果て寝てる人も多数いる。
当然だ。
ここは冒険者になるための学校。
政治家になるためじゃない。
この世界には選挙なんてほとんど行われない。
それなのに100人を越す人間の演説なんて聞いていたら眠くてしょうがない。
アレスも待合室で寝ていた。
まぁ、飽きるよな。
なんで一日で全部やるんだろう.....
そんな中アパッチの演説が始まった。
アパッチは生徒会長に立候補したらしい。
「みなさんこんにちはコルア・アパッチと申します。
みなさんは今のままで満足していますか?
私はさらに強くなりたいと思っています。
そのためは、1級や2級の冒険者を招待し、実践経験を豊 富にさせる。
その機会を増やすべきだと思います。」
アパッチの演説の内容はこうだ。
まず、強くなりたいから他の冒険者を招待し、経験を積ませる。
冒険者学校を好成績で卒業した生徒が井の中の蛙だったなんて話はよくある。
アパッチの話が終わると会場は拍手喝采だった。
間違いなく今回の選挙で最大の敵だ。
後はみんなで仲良く暮らすためにとか、校内のちょっとした所を改善する。みたいな感じだった。
目立った公約があるわけではないが、安全策と言える。
安全策でも彼女には実績がある。
となればかなりの強敵と言える。
他のやつはまぁ、なんというか似たり寄ったりだった。
校内をよくしたい。
そのためには私が必要だ。
なんというか、具体性がなかった。
俺も眠くなってきた。
100人以上の話を聞いてると、流石にそろそろ眠くなってくる。
「そろそろ始まりますのでご準備を」
きたのは選挙管理委員会の人だった。
「ササササ、ハジマルカラジュンビシヨウカ」
俺はアレスを起こす。
「豊、また緊張してるの?」
「トレディアは大丈夫なのか?」
「僕はもう慣れたよ」
「すげぇな」
アレスが起きた。
眠そうな目を擦りながらこっちをみる。
「豊、大丈夫よ!なんとかなるわ!」
寝ぼけているのだろうか、何が大丈夫で何がなんとかなるのか....
俺らは待合室を出てステージ袖に待機する。
全身が痺れるような感じ、体は震えて寒気がする。
「大丈夫だよ。豊くん」
莞爾が励ましてくれる。
ステージにいた人が話し終わった。
賽は投げられたのだ。
俺らは4人でステージにでる。
会場はざわつき始めた。
いい出だしと言える。
まず初めに話し始めたのは莞爾。
「みなさんは、現状の生徒会の制度でいいと思いますか?私は、非常に脆弱であり、もし、この学校で最も権力の 強い生徒会長が間違ったほうに行けば我々も不利益を被 ることになるとは思いませんか?」
会場のざわつきはさらに激しくなる。
今まで校内を変えようとした人はいたが、生徒会の制度についていろいろ言うやつはいなかった。
「そこで我々4人は、生徒会長という制度を廃止。この4人が話し合って方針を決める、評議委員というものを創設したいと考えています。いわば生徒会長の権限を4分割することで暴走を防ぐことができるのです」
ここで話し手はトレディアに変わる。
「さらに我々は、部活動というものを新たに作りたいとっています。部活とは、放課後に学校の勉強とはまた違った活動をすることです。剣術に関する部活動や魔術に関する部活動といった、ことをしてみようと思います」
観客はポカンとしている。
まぁ、実際説明むずかしいしな。
そこはぜひ体験して理解してほしい。
話し手はアレスに変わる。
「後は『学割』というものを作るわ。みんなが授業で狩った肉や授業で作ったスクロールなんかを街に提供することで、ここの生徒なら下町の市場や店で、対象のものが安くなるというものよ!」
会場がざわめく。
主にはおお〜とかすげ〜とかそんな声だ。
話し手は俺に変わる。
「そのほかにも、この学校には、冒険者の他に騎士になりたくて入学した方や、貴族の方もいます。なのでこの学校の名前を冒険者学校ではなく『ライナット王国立魔剣術玲瓏学校』に変えたいと思います」
俺はなるべく大きく手を動かし、体を動かす。
観客一人一人に目を合わせ、これでもかというぐらいに抑揚をつけて話す。
「我々は『生徒会制度の廃止』『評議委員会の創設』『部活動の創設』『学割制度の導入』『この学校の名前を改変』この5つを公約として掲げたいと思います。あとは、みなさんはこの学校を変えたい、変えるべきと思うなら我々に投票をお願いします。」
終わった。
俺らは壇上から降りる。
会場は拍手で溢れた。
これはアパッチに引けを取らないのではないだろうか。
選挙は今日行われ、明日には結果が出るらしい。
8000人を超える人の結果が1日でわかるのはマジックアイテムを使っているからだとか....
俺らは演説も終わり、寮に帰ることにした。
「俺ら、当選するかな」
「きっとするわよ!」
「僕らはやれることをやった。後は待つだけだよ」
「きっと私たちなら受かってますよ」
みんなの言う通りだな。
さっきまでの俺を信じよう。
俺らは寮につき、飯を食って寝た。
その日はいつもよりもよく眠れた。
次の日、俺らは学校に向かう。
ドキドキの結果発表だ。
朝一番、校舎に一枚の紙が張り出されていた。
生徒会役員選挙の結果
当選
高城 豊
アレス・クロエル
山本 莞爾
トレディア
公約により生徒会副会長、書記の選出なし。
俺らは当選したのだ。
思わず俺はその場で叫んでしまった。
他3人も叫んでいた。
「おめでとう、豊」
後ろから声をかけてきたのはドニエルだった。
「ああ、ありがとう」
「まさか生徒会の制度そのものを壊すとはね」
「そうでもしなきゃ勝てないからな」
「君たちが当選したから、副会長候補や書記候補の人は泣いていたよ」
そうか、俺らが当選したから、副会長や書記はなくなった。
どんなに自分がいい演説をしても会長次第で意味がなくなってしまったのか。
ものすごく悪いことをした。
あとで評議委員会以外の何かで採用しなければな。
なんだろうか、そう言われると昨日の候補者にめちゃくちゃみられてる気がする。
まぁ、しょうがないのだが。
そんな時だった。
学校に数台の馬車が止まった。
その馬車は豪華絢爛で、気品がある。
そんな馬車から執事らしき人が降りてきて、ドアを開ける。
そこから出てきたのは華麗な衣服を見にまとった金髪の髪の長い少女。
身長は150㎝前半。
言わずもがな、ロースターだ。
ロースターがこちらに歩み寄ってきた。
そして俺の目の前に立つ。
ドニエルは跪いていた。
俺もそれをやった方がいいのだろうか。
「貴方が、新しい生徒会長さん、いえ、評議委員会の方ですか?」
「はい」
なんというか、慣れないな。
かしこまったロースターはいつになっても見慣れない。
いつもだったら『豊さん!当然おめでとうございます!』とかって言うのに。
「貴方はなんでも、素晴らしい公約を掲げてくださったとか。」
「いえ...まあ....」
「わたしも、微力ながらご尽力させていただきます。セバス、あれを持ってきてください」
そう言って出てきたのは金属でできたプレート。
装飾もされてある。
すると、数人が馬車から降りてきた。
その人たちは校門の前に行くと、そのプレートを一瞬にして校門に取り付けた。
一体どんな魔法を使ったのだろうか。
校門にプレートを取り付ける魔法だろうか。
そこに書かれていたのは『ライナット王国立魔剣術玲瓏学校』の文字。
「それでは、私は失礼致します」
そう言うとロースターは馬車に乗り去っていった。
「豊!よかったじゃないか。ロースター陛下に話しかけていただけるなんて」
「え、ああ、そうだな」
「しかもこんなプレートまでもらって、応援していますなんて言われたんだからな!頑張れよ!」
周りはざわついている。
過去にこんなことはなかった。
なぜ、今回はロースターが来たのだろうとか、そんな話だ。
まぁ、サプライズはあったが、俺らはこれからこの校内を変えなければいけない。
今までの生徒会制度を大きく変える。
いわば生徒会革命だ。




