王都事変 前編
みなさん、いかがお過ごしだろうか。人は誰しも緊張する瞬間というものがある。それは受験だったり面接だったり、色々だ。緊張する瞬間というのはこの先を決める時に起こりやすい。言わばターニングポイントだ。そんなことを言ってる私も絶賛緊張している。
「タスケテ」
「豊、何緊張してるのよ」
「アレスはしないの?」
「これが終われば冒険者学校に入学できて、さらに強くなれるのよ?緊張するより楽しみが勝つわ!」
「すげーな...」
クーデター実行まであとわずか、すでに騎士団と魔術師達は動いている。俺らもそろそろ隠し通路からの場内潜入を開始する。合図は魔術師達が爆破魔法を撃ったら開始だ。その通路というのはこの倉庫内にある。だからここがクーデター画策の本拠地だったらしい。
「少し、外の空気を吸ってくる」
「あんまりおどおどしてると怪しまれるから気をつけてね」
アレスに心配されてしまった。そんな感じで俺は外に出る。そこには煙草を吸っている莞爾とトレディアがいた。なるほど、緊張をほぐすためか。ん...あいつら喫煙者だったか?
「お、豊かじゃないか。君も一緒にどうだい?」
「お前らって喫煙者だったのか?」
「僕は前世で吸っていたからね。トレディアもすっかりハマったよ」
「僕はあまり知らなかったけどなかなかいいものだね。癖になるよ」
そうか、莞爾の時代は煙草は当たり前だったか、だがチームにヤニカスが2人もできてしまうとは....
「この国には煙草があるのか」
「なんでも嗜好品としては贅沢な方らしいからなかなか吸えなくてね、たまたま騎士団長が持っていたものだから一箱もらってきたんだ」
「君もどうだい。」
「いや、俺はいいや、遠慮しておくよ」
ヤニカス2人から勧められたがとりあえず断っておいた。ヤニカス3人のパーティは避けたい。だがなんというか、莞爾はいいとして、トレディアの見た目は15歳程度だ。前世の感覚からすると不良少女にしか見えない。もっとも黒くて魔王のような角もあるが....
こうしてヤニカス共も一服が終わり俺ら4人は集合。それに加えて赤ちゃん姿のロースターが俺の背中にいる。
「見た目は完全に赤ちゃんを世話する依頼を受けた冒険者だね」
「確かにね」
莞爾とトレディアはそう言うと俺をじっと見た。こっちみるなよ、照れるじゃないか。いや、赤ちゃんの子守りの依頼は5級だ。馬鹿にされてる...?
爆発音が聞こえた。どうやらそんな呑気なことも言ってられなくなったらしい。すぐさま俺らは隠しの地下通路に入る。話によると城の周りには防護魔法によるバリアの様なものが城の壁に沿ってピタッと貼られており、爆破魔術程度では壊れないらしい。となればあれは完全な陽動であり、クーデター開始の合図だ。
地下通路内は狭く、暗い。莞爾が灯り魔術で明るくしているがせいぜい3メートルくらいしか見えない。
だがそんな道をかなり歩いた頃、階段が見えた。その階段を駆け上がってみると、蓋の様なものがあった。
「エクスプロージョン」
それを莞爾が爆破魔術でぶっ壊した。爆破系の魔術はエクスプロージョンと唱えるきまりでもあるのだろうか....
こうして俺らは全力で最上階目指して駆け上がった。ふと窓をみると正門にはアンテークさんが一般の兵士相手に無双していた。あの人、かなり強い....(ロースターいわく1級冒険者レベルらしい)
ときどきメイドらしい人もいたが、彼女らは俺らを通報することも止めることもなく、ただ呆然と見ているだけだった。
かなりの階数を登った。城はでかいだけあってかなりの階数だ。
「そこを右に曲がった先にある扉を開けた先に、奴はいるはずです」
まもなく暗殺対象がいる部屋に着く。そうして右に曲がった先には2人の男が立っていた。俺らは急いで武器を抜く。
「これはこれは侵入者のみなさん」
「ここから先は通さん」
護衛がいたか....
「私はヒトラー様直々の親衛隊副隊長、デルタと申します。旧王国では、副団長をしていました。隣はムキヤです。貴方達はどなたで?」
「俺たちは冒険者『震電』だ」
「聞いたことがないですね。ランクは?」
「4級だ」
「4級で我々と勝負を?」
「だめか?」
「舐められたものです。後ろにいるのはロースター王女でしょう?4級冒険者しか護衛につけない....」
見破られたか....
「あなたは父上に忠誠を誓ったはずでは?」
「ええ、ただあんな人よりヒトラー様の方がよっぽど素晴らしいので鞍替えいたしました」
「その程度の忠誠だったのね」
「ヒトラー様はそれほどまでに素晴らしいと言うことです」
そんな会話を尻目に俺はみんなに合図する。
「いくぞ」
「せいぜい即死しないよう気をつけてください」
対人戦に自信はない。が、こうなったら行くしかない。1ヶ月の特訓の成果を発揮するんだ。
「ブースト」
次の瞬間アレスとトレディアは全力で突っ込んだ。莞爾は超身体能力向上を発動する準備をしている。2対4だ今までより勝算はある。しかも今回、ロースターがくれた治癒ポーション、それを1人2個ずつ持ってきている。
アレスはムキヤと、トレディアはデルタと白兵戦に持ち込んだ。互いの攻防は互角。俺は中距離からAK-47を単発でうち双方を援護する。いままで、銃は全部弾かれたが、剣士と互角にやり合っている状態で打ち込めば敵に対してかなりの牽制になる。
「あの魔術は見たことがないですね。ムキヤは知っていますか?」
「いや、見たことがない。面倒だ、あいつから先に仕留める。『速度向上』」
そう言うと急に加速してムキヤはこっちに突っ込んできた。その速度はトレディアが追いかける速度よりも速い。急いでスペツナズナイフを召喚し両手に構える。
「武器が変わった...やはり厄介だな」
俺は奴と剣を交えた。そして始まるのは白兵戦。互いが攻防を繰り返す。ただわかるのは俺が不利ということだ。芯は外しているが体の端から削られていくのがわかる。
だが、ムキヤの後ろから斬撃が飛ぶ。トレディアが追いついたのだ。こうしてムキヤは二対一になった。おそらくは俺と早期に決着をつけるつもりだったのだろう。だが、一撃で仕留められなかった奴は形成不利に追い込まれる。
アレスは1対1でやり合っていた。互角の戦い。勝機は一瞬。そんな中アレスは賭けに出る。剣での迎撃をやめたのだ。体術だけで交わそうとした。だが、相手は猛者、そんなことは許さない。デルタはアレスの脇腹を深々と抉る突きを放つ。
「グフッ....」
アレスが声を上げる。だが、そのまま彼女は奴の剣を素手で掴んだ。剣は摩擦できる。故に握力があれば剣は切れない。完全に脳筋だが、それで奴の剣を抑えると、そのままデルタの腹の真ん中に剣で突きを入れる。互いに鮮血が舞う中、デルタが剣を無理やり引き抜き、そのまま後ろに下がる。アレスの指は遠くに飛んでいった。
だが、そんな中、アレスは冷静に治癒ポーションを飲む。そうすると、アレスのダメージはなし。デルタは腹に深々と剣が刺さったダメージが残る。アレスの作戦勝ちだ。
「超身体能力向上」
次の瞬間、俺らは反撃に出る。トレディアはムキヤに全力の一撃を喰らわせる。その間俺は奴の脇に回り込む。やつはトレディアの一撃を死ぬ気で受け止めたがそこに俺は『MG42』の集中砲火を脇から喰らわせる。すると敵は後ろに下がるが、そこにトレディアが上から氷魔術の『氷矢』を脳天にぶち込む。
ムキヤは即死だった。俺らは勝ったのだ。
「アレス!そいつは任せる!」
「わかったわ!」
そう言うと、俺はアレスと莞爾を置いて、敵の部屋の扉を蹴破る。デルタが侵入を防ごうとしたがアレスがそれを逃すはずもなく、更に莞爾が護衛に入っていることもあり、デルタはこっちにくることができなかった。
そうして豪快にはいると、そこにはちょび髭の男と、その前に立ち塞がる様に1人の男がいた。
「私の名前はターレット。親衛隊隊長だ。貴様らのチーム名は?」
「冒険者『震電』だ」
俺は平然を装いそう返す、だが、間違いなく奴は強い。
「一応聞くが、お前らは総統を暗殺しにきた、であってるか?」
「それ以外にはないだろう」
トレディアがそう言うと奴はとんでもない速さで突っ込んできた。
第二ラウンドの幕開けだ。




