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#26 激動と現実の調べ

 彼とのデート。街は、輝いていた。しっかりと、アスファルトに負けない足取りをしていた。近くにあった公園に、3人で入っていった。手には、買ったお弁当をぶら下げて。そこに、透明感のある長身美女が、後ろから来た。そして、私たちの前に、回り込んだ。綺麗な瞳で見つめられたから、少し目線を下げた。


 蝉人間は、普通に誕生する。そして、すぐに体も頭も20歳並になる。そこから、そのままの姿で、一生を終えるのだ。美しさは儚い。想像ができた。きっと、この美女も蝉人間だろう。とても、艶めかしい香りがしている。一番落ち着くような、優しい香りがしている。本能が、美女の何かを感じ取っていた。


 娘と彼と3人で、公園に足を踏み入れた。そこにすぐ、彼女が現れた。それから、ずっと口が開いていたと思う。話を聞いた。やはり、同じ蝉人間だという。寿命がもうそこまで、迫っていると口にした。それでも爽やかな、晴れ晴れしい顔をしていた。私も、最後が迫る中で、違和感のない顔でいたい。こんな、すっきりとした顔をしていたい。そう思っている。


「幸せそうですね」

「はい」

「私は、子供ができなかったので」

「そ、そうでしたか」

「向き合ってくれる人で、良かったですね」

「ああ、はい」

「彼は、準人間ですよね」

「はい。そうです」

「私の彼は、一般的な普通の人間なので」

「そうなんですか」

「だから考えも違って、すれ違いました」

「そうでしたか」


 レジャーシートを広げた。そして、娘と彼と、お弁当を食べ始めた。とても美味しかった。青いレジャーシートの上は、天国だった。ベビーカーのなかで、娘が笑う。そこに、美女の彼氏らしき男性がやってきた。その男性は、聞いていた通り、普通の人間だった。どこにでもいるような青年。しかし、笑顔はほとんど見せなかった。


 手を伸ばしてきた娘に、手を伸ばす。柔らかくてあたたかい。まだ生まれてから、二桁日数も経っていない。でも、もう何ヵ月も生きている。そんな、動きと表情をしていた。美女が、羨ましそうに笑う。娘と触れ合ってよと、美女を誘った。美女が出した手に、娘から手を伸ばす。そして、触れた。


 二人は去った。それから、少し経った。私たち3人の声と、まわりの子供たちの声を中心に、響いていた。カラスが鳴いたり、長閑だった。そこに、救急車のサイレンが鳴った。私は、あの美女のことを、思い浮かべていた。もうすぐと言っていた。サイレンが向かう方向は、美女たちが歩いていった方向と同じだった。考えると、ツラくなる。だから、何も考えたくない。耳を塞いだ。情報がこれ以上、入らないように。

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