#25 激動の仲間たち
怖かった。すごく怖かった。無言で近づいてきたから。青年が、目を見開いて、すり足気味で近づいてきた。笑っていて、無精髭を持っていた。手首には、灰色のリストバンドがあった。私の彼と同じだ。たぶん、準人間なのだろう。灰色のリストバンドは、準人間の証だから。
亀のように、のろまだった。ゆっくりと動いていた。青年は、やや彼に似ていた。呼吸が、あまり上手くいかない。でも、向き合うしかない。たぶん、私の噂を何かのきっかけで、受け取ったのだろう。私に何かを求めるように、鼻を膨らます青年。私の彼のライバルに、なろうとしているかのような青年。私は、鼻で息ができなくなった。
苦味がある。こんな苦しい人が、何人も何人もいるんだ。世の中には、同じ待遇の人がたくさんいる。でも、口は重かった。何を言っていいか分からない。唇に、接着剤は付けてない。でも、開く気がしなかった。青年からの言葉を待つ。彼がいないと、とても不安になる。ひとりは、心細い。口の中で、舌は落ち着きを失っていた。
「あの人。いつも一緒にいる人。旦那さんですよね?」
「そうですけど」
「あの人、僕と同じ準人間ですよね?」
「はい」
「あなたは、蝉人間ですよね?」
「そ、そうですよ」
「僕も助けてください」
「はい。いいですけど、どういう風に」
「一緒にいてもらって、サービスを受けます」
「あっ、はい。わ、分かりました」
連れていかれた先は、病院だった。目に焼き付いている、白が中心の世界。足を踏み入れただけで、彼がまぶたの裏に浮かんだ。私が数日前に、生まれてきた病院。私の実家のような場所。懐かしさが、もうある。色んな感情が、絡まり合っていた。そして、気が付くと立ち止まっていた。
ぞわっと、背筋がなった。何かに、冷たいもので、なぞられている。そんな感覚だった。それは、いい感覚だった。同情の気持ちも、滲んできてはいた。ことあるごとに、私は助けられている。予約しないでも、サービスが受けられる。病院やお店で、優先してくれる。蝉人間のわがままは、叶えなくてはならないルール。それが、この国。青年を、助けない訳がない。配偶者じゃなくても、友達でも、数回は助けられる。そんなルールだ。
準人間は、身分が一番下。だが、蝉人間と一緒なら、特別な待遇を受けられる。底にいたのに、そこから急に、山頂に行くようなもの。出来るだけ、応えてあげたい。美しい呼び出し音、みたいなものが、度々流れている。いい音だ。求められることに、悪い気はしない。助けることが使命だから。声が、ドンと耳に入ってきた。青年の『おーい!』という声だった。青年は、白い空間の遥か先を、のろまに歩いていた。




