72_難航中のお部屋探しの解決法_3
その日、仕事が終わったライガは、
頼んでいたペンダントの値段を確認しに例の工房へと向かう。
カラン、カラン。
「お待ちしておりました、ライガ様」
「どうも。」
「そしてヴェルデさんも、ようこそ。」
「ピーッ!」
とライガの肩が最近のお気に入りのヴェルデが返事をする。
「あの、値段って出ましたか?」
「ええ。ただ、この作品にぴったりな取り寄せた部品がちょっと割高になってしまいましてね。それで、金額はそんなにかからないと言った手前、大変申し訳ないと思いまして、もし宜しければ、代金の代わりになる物で手を打っていただけないかと思いまして。」
「代わりになる物?」
いや、そんな代金に代わりそうな大層なモノ、俺が持っているわけが...。
「ええ。“聖樹の小枝”なんですけどね。このクワッツの森の中にあるようなのですよ。ライガさんなら、職業柄、手に入るのではないかと思いまして。」
「...。」
なんだろう、それらしい物ピンポイントで持っているぞ、俺。
「これ...とかどうですかね。ちょっと黒いの交じってますけど。」
「おお~!これです!これですよ!さすが、ライガさん!一点の曇りのない聖樹の小枝も良いですが、このちょっと苦しんだ気配のありそうな黒い線が螺旋状に入っているのが、また良い!あの作品にピッタリですっ!」といつも冷静な店主が、珍しく興奮している。下手すると、片足上げながら、クルっとターンまでしそうである。
「彫金中心のアクセサリーの工房と思っていたのですが、木も取り扱っているんですか?」
「ええ。木や皮や、その他“色々と”変わったアイテムの作成も取り扱っておりますよ。ライガ様ももし、気になる物がございましたら、何でもご相談くださいね。これも、別のお客様に頼まれたアイテムの材料でしてね。まさか、こんなに直ぐに手に入るとは!さすが、ライガ様。ありがとうございます。」
「いえいえ...。」
と何とも言えない顔をしながら、店主から目線を外し、カウンターの隅に目をやると、何やら手のひらサイズのカードの束が置いてあった。
「トランクルーム?」
「おや、お気づきになりました?昔から付き合いのある縁者が、最近独立しましてね。ちょうどこのクワッツに店を構えたんですよ。商い自体は、彼の祖先が代々行っていて古いのですが、なにせ、場所がちょっと裏通りなので、お客様が全然来ないと嘆いておりまして、私のお店に紹介カードを勝手に置いていったのですよ。」
「物の保管サービスですか?」
「まあ、簡単に言うとそうですね。ただ、“ちょっと”特殊でして。もし、良かったら、ライガ様もいかがです?今なら、開店記念と私からの紹介でだいぶお安くご提供できると思いますよ。」
「武器や、武具なども預けられるでしょうか?」
「ええ、問題ないかと。しかも、一年中、夜昼関係なく預けた物を取り出せますので、大変便利ですよ。私も、利用させていただいております。」
「...。一度話を聞きに行ってみようかな。」
あの大量の武器武具が別の所に置いておけるのであれば、エンツォに紹介してもらった部屋でも大丈夫かもしれない。
「そうですね。話聞きに行くだけでも、大変面白いと思いますよ。その際は、是非このカードをご提示して下さい。」
と言って、カードの束から一枚抜いて、店主は何やらサラサラと書いている。
「カリス...トラトラ...とお読みするのですか?」
「おや、今まで名乗っておりませんでしたね。失礼しました。カリストが名前で、ラトラが家名になります。少々長い名前ですので、もし宜しければカリストとお呼びください。」
「ありがとうござます。珍しいお名前ですね。」
「え、ええ。私の祖先の出路がちょっと変わってまして。」
「そうですか。」
店主の様子が、あまり、突っ込んで聞いてほしくない内容だったらしく、ライガはそれ以上質問はしなかった。
「それでは、お代も先に頂いてしまいましたし、直ぐにでも作成に取り掛かりますね。出来上がりは、2、3週間見ていただければと思います。」
「わかりました。また、その頃伺います。」
そう言うと、ライガは工房を後にした。
「そういえば、結局いくらなのか教えてくれなかったな。」
と思いながら、トランクルームに翌日尋ねることに決め、ライガはその日家にそのまま帰ったのだった。