46_ライガとヴェルデと住居問題
トントントン
トントントン
ノックの音が聞こえる。
ん?
トントントン
ライガさーん、いるか―い
あ、やっべ。
昨日、スヴェトラーナさん所で本買って、夜、本読みながら、そのまま寝ちまった...。
トントントン
ライガさーん
あ~返事しなきゃ。
「はーい。」
と言って、ゆっくり起き上がり、ドアを開ける。
ドアを開けるとそこには、初老の男性が立っていた。
「ああ、ライガさん。朝早くにすまないね。」
「おはようございます、大家さん。」
「おはよう。」
「あれ、俺、家賃支払うの、今月忘れてましたっけ?」
「いや、もう来月分は、ちゃんと頂いているよ。今日は、そうじゃなくてね...。」
と大家の男性は、なんだか言いにくそうにしている。
「どうしました?」
「そのね。君が生き物を飼っていると、連絡があってね。」
「あー。」
あれっ、ここって持ちこんじゃいけないアパートだっけ。
イケね。忘れてた。
「えっと、数日前に訳あって、従魔を飼い始めました。」
「そうか。申し訳ないんだけど、このアパート持ち込みは、禁止させてもらっているんだ。昔、他の入居者と問題を起こしてしまった店子がいてね...。」
「わかりました。ちゃんと引っ越し先探しますので、もう少し待っていただけますか?」
「ああ。今月分の家賃は貰ってしまっているからね。できれば、今月中に退去してもらえると...。」
「はい、わかりました。ちなみに、大家さんの持ち家の中で持ち可能な物件ってありますか?」
「いや、ないんだよ。」
「そうですか。」
「すまないね、力になれなくて。長い事、住んでもらってたのに。」
「いえいえ。こちらこそすみません。すっかり失念してまして。」
「んじゃ、お願いね。」
「はい。」
ふ~と息を吐き、ゴロンとさっきまで寝ていたベッドに再び横になる。
「ぴー?」
「大丈夫だよ、ヴェルデ。」と言って、ヴェルデの額をそっと撫でる。
シングルベッドに小さめの椅子とテーブル、少し広めのクローゼットに小さめのキッチンと、トイレとシャワー。
自分の部屋をぼーっと横になったまま眺める。
冒険者を辞めてギルドに働き始めてからずっと住んでいるから
5年...か。
結構長かったな。
色々思い出も...。
ん?
いや、待て。
家とギルドの往復で、ここには寝に帰ってるだけじゃないか?
...。
は~枯れてるな、俺。
と落ち込んでいると、ヴェルデが、コツンと頭をライガの頬にぶつけてくる。
「ごめん、ごめん。大丈夫だよ、ヴェルデ。
新しい家に移ったら、沢山遊ぼうな。」
「ぴーっ!」
通じたらしく、ヴェルデはシッポをバンバンと叩いている。
その日のお昼休み、ライガは、ギルド内の不動産屋カウンターのエンツォの元を訪ねた。
「エンツォさん。こんにちは。」
「こんにちは、ライガ君」
「ちょっと今、家を探してまして。相談にのってもらえませんか?」
「おや!ああ、もちろんだよ。結婚でも決まったのかい?」
「...。いえ。」
「あっあっ、ごめんね。ご要望を伺っても?」
「はい。単身向けの家具付きアパートで、幻獣持ち込み可のアパート。できれば、広めの収納があると。」
「ああ、なるほど。従魔か。幻獣持ち込み可能なアパートって少ないんだよね...。宿はそれなりにあるんだけど。まあ、探してみるから、ちょっと待ってて。」
「はい。よろしくお願いします。」
「候補は、いくつかあるけど、とりあえずこの三つかな。
一つ目は、ここから近くて安い、でも治安いまいち“メゾンドイライザ”」
「つまり、イボンヌ通り近くですね。」
「正解!間取りは今と同等、金額半分。」
「夜中うるさそうなので、却下で。俺だけならまだしも、ヴェルデの睡眠まで阻害しそうです。」
「だよね~。
次が、ギルドから近くて、金額は同じ。ただし大きさ半分“ホーンラビット荘”」
「クローゼットってどんな感じですか?」
「今の半分弱かな。」
「無理だぁ。」
「おや、ライガ君そんなに荷物持ちなの?意外だね。余計な物を持たないイメージだけど。」
「なんというか、俺の場合、武器や防具が色々と...。」
「あ~そういう事か。どこかに預けるとかは?」
「いや、突然の呼び出しでも対応できるように近くに置いておきたいんで。」
実際、急過ぎて対応出来てない...という不都合な事実はこの際横に置いておく。
「なるほど、じゃあこれはどうだい?
場所はそこそこ近く、部屋の大きさ今の1.5倍、ただし今の金額の二倍“レッドグリズリーホール”」
「まあ、貯蓄もあるので、二倍位なら対応可能ですね...。」
「よっし!じゃあ、内見にでも...。あ、ごめん駄目だわ。」
「へ?」
「ごめん。この物件、爬虫類、駄目だわ...。」
「そうですか...。」
ドラゴン...は爬虫類なのか?
いや、リザードで通すのだから、爬虫類系NGの部屋無理だな。
「ごめんね。もうちょっと探してくるね。」
「ありがとうございます。
俺そろそろ仕事に戻らないといけないので、また後で寄ります。」
「了解!それまでに何か頑張って探しておくよ。」
「よろしくお願いいたします。」
「はぁ~中々、部屋探すの大変そうだな。」
「ピ~。」
「はは、心配するな。ヴェルデ。何とかなるさ。」
さて、仕事に戻るか。
とりあえず“外”の仕事するにしても、“内”の仕事を片付けないといけないし。とりあえず、フロントには出ずに、引継ぎに精を出すべきなんだろうな。
であれば、ヴェルデから離れずに済むしな。
という事で、この日、終日引継ぎに精を出す事に決めたライガだったが、そうは問屋が卸さず...。
「ライガさん、すみません。」
「何だい、コモ。」
「カウンターの冒険者対応なんですけど、少し入ってもらえないでしょうか?」
「他のスタッフは?」
「全員、出払ってまして...。」
「了解。ヴェルデ、この袋に入ってて。」
「ピー!」
とヴェルデは、元気良く返事をすると、ライガの腰にぶら下げている袋にスルリと入った。




