33_職人街の特殊具工房_後編
あれから、4時間。
たっぷり、そしてビッチリとマリオとマッシモは道具の仕様について、話を進めていった。
話が終わった頃、マリオはまだ話足りないような、そして、新しい道具にワクワクした顔をしていた。
が、一方のライガはぐったりしていた。
確かに、勉強になる事は多かった。
多かったのだが、さすがに、専門外4時間は辛い...。
しかも、途中お茶の変えが出たとはいえ、休憩なし...。
ちなみに、マリオは何を考えているのか、ここぞとばかりにミスリルで全ての道具を作ろうとしていたが、潤沢な予算があるとはいえ、完全に予算オーバーなのは明らかだったので、ライガは全力で止めたのだった。
イバンがライガを付けたのは、ひょっとしたらこの為だったのかもしれない。
ライガは、新たな知識の詰め過ぎでぼーっとした頭の中の霞の向こうで、イバンがサムズアップしている幻想が見えた気がした。
「おーい、ダリア―!」
「はーい!」
「この内容で、概算見積もり作ってくれねえか。」
ダリアと呼ばれて出来来たのは、最初に対応してくれたマッシモの奥方だった。
「はいはい。」
と言ってエプロンで濡れた手を拭きながら、こちらへと来る。
「えっ、こんなに?ちょっと時間貰って良いかしら?」と言って受け取った紙を持ってまた下がっていく。
「ちょっと工房の様子を見てくる」と言ってマッシモも奥へ下がっていった。
ライガは、ショーケースの中が気になり、マリオの解説を聴きながら、一つ一つ見ていった。
「あの棒みたいのは、何だろう?なんか先端の形状がちょっと違うような...。」
「あれっすか?あれは、歯を抜く時に口が途中で閉じないように差し込む棒っすね。
ちなみに、こっちの鋭利な奴が血抜き用の道具で、あっちのナイフがアーマーサイトンの角用のナイフっす。」
「何で、アーマーサイトンのナイフは、他と違うんですか?」
「えーと、何だっけかな...。」
「それはな、アーマーサイトンの角は他と違って“毛”の集まりだからだ。素材が違えば、道具も変わってくる。」
と奥の工房から戻ってきたマッシモが答えを言う。
「「なるほど!」」
「アーマーサイトンは、この変じゃあまり見かけないからな。知ってる奴も少ないだろう。ちなみに、この球の半分の形をしたものは、新商品なんだが、目玉を綺麗に繰り抜く用の道具だ。魔物の大きさにジャストフィットさせる為に、調節機能付きだ。」
「へ、へぇ~。」
なんだが見ていると、拷問道具を見ている気分になったライガ。
自分の身体のとある部分がキュッと縮こまった気がしたが、気のせいと思う事にした。
「お待たせしました。
とりあえず、概算は出したけど、正式なのは、また後で作ってギルドまで届けるわ。」
「あっ、いえ。とりあえず、これイバンさんに見せて、ちゃんと内容を決めてから正式見積もりの作成で良いっすよ。」
「本当?助かるわ!」
ちらっと見たが、やはり結構な金額になっていた。
多分、素材や本数の調整で、こっちに上がってくるのは、これの約三分の二程度には圧縮されているだろう...たぶん。
マッシモの工房を出て二人は、夕暮れの中、西大通りの方を目指して歩いていた。
「そういえば、イバンさん家って、確かこの辺っすよ。」
「へー、そうなんだ。」
「おっ、ほら、噂をすれば、あれ、ニコラちゃんじゃないっすかね。」
「本当ですね。よくあんな遠くにいるのに、わかりましたね...って、アレ彼女の様子、
おかしくないですか?」
見ると、フラフラと右に左にとなんだが酔っ払っているような感じの千鳥足だ。
「あっ、危ない!」
と言うと、イバンの娘ニコラは、その場にうずくまってしまった。
急いで彼女の元へと駆けつけようと走り出すと、横の小路から男が出てきて、あっという間にニコラを担いで、走り去ってしまった。
「「え?」」
突然の事で、マリオは、状況が把握せずに茫然としていると、両肩にライガの手が、マリオの肩をグッと押してきた。
「マリオさん。良く聞いてください。俺はこれから彼らを追います。あなたは、急いで、ギルドに戻ってギルマスにお知らせください。ギルマスが居なければ、副ギルマスでもかまいません。二人ともいなければ、次に偉い人の指示を貰ってください。
良いですか、“絶対に”イバンさんに最初に伝えないでください。
これは、生死に関わるので、絶対に、絶っ対に守ってください。
さあ、行ってください。」
言い終わると、いつも穏やかなライガではなく圧力を感じるライガに慄いていているのか、カクカクと顔を縦にふるマリオの身体をクルっと180度回転させ、ポンっとマリオの背中を押す。
「あと、場所は後でお知らせしますので、“空を見てろ”と、合わせてお伝えください。」
と後ろからライガの声が聞こえた。
マリオは振り返ると、もうその場にはライガはいなかった。
マリオは、何か起きたのか把握しきれず、戸惑っていたが、任された自分の使命を思い出し、冒険者ギルトに向かって、必死に走っていくことに専念した。




