シェルフィン皇国 埋没 その5
2日後。イチは王室蔵書館の前に立っていた。さっきギルドに寄ったらハシュミルから許可証を渡されたのだ。
「えらく簡単にもらえたもんだ。ま、それならそれで助かるな」
独り言を言いながら、階段を上った先にある受付へ向かった。
「おはようございます。ご用件を伺います」
受け付けにいる司書の女性が声をかけてくる。
「おはようございます。あの、イチと言います。ギルドマスターのハシュミルさんにお願いして、蔵書の閲覧許可を頂いているんですが」
「イチさま、ですか。少々お待ちください…………はい、確認できました。第3階層までの閲覧許可が出ています。こちらのリングを手に通してお持ちください」
そういうと、銀色に輝く細い腕輪を渡してくる。
「これは許可された階層までの蔵書を自動的に判断します。それ以上の蔵書に触れれば点滅し、私どもの機械にも連絡が来ます。触れることはできますが、中の知識には触れることはできません。無理に開こうとすれば、ここからの退去となり、二度と入館は叶いません。ご注意ください」
「なるほど。ちなみに階層の種別を教えてもらえますか?」
「はい。第1階層は一般書籍や雑誌が大半です。第2階層はやや専門分野、大体教科書当たりのものが該当します。第3階層は神話、伝聞、創世期の話になりますね。第4階層は専門分野関係で、ここは研究者用となっています。第5階層は禁書、皇国の歴史、犯罪者名簿等、外部には流出させられないものが含まれます。ここは通常の閲覧者も禁止されていますので、閲覧を希望される方は蔵書館長、皇国管理室長、またはそれ以上の役職の方へ申請して許可を得てください。以上になります」
「丁寧にありがとうございます。良く判りました。では拝見しますね」
受け取ったリングを手首に通すと、自動調整機能があるのか動くことなく収まった。
「なるほどね。これはなかなか高度なシステムだ」
『私から見れば玩具ですよ、これ』
「そう言うなよ。今回はお前さんの希望でここに来てるんだから」
小声でやり取りしながら奥へと進む。
蔵書館の内部は空間拡張で広げられているため、外観はふつうの公館と変わらない大きさだ。入り口で説明を受け、リングを受け取って進んだ先には内部の蔵書配置図がある。そこの行きたい部分をなぞるか種類を音声入力すると、目の前に転移陣が現れてその場と繋がる仕組みだ。
イチは『皇国の歴史』『土地の変遷』『神話』をキーワードで入力し、現れた転移陣へ乗った。
陣が光り、着いたのは広いホールだった。
ぐるりと見まわすと、壁一面が蔵書の棚で埋まり、そのまま上に伸びている。四方ともそんな状態で、どこに何があるのか見当もつかない。
「おや、初めて利用する方だね。手伝いは必要かな?」
見回していると後ろから声を掛けられた。振り向けば、銀髪の老人が立っている。
「はい、この国の歴史が知りたくてお願いしたんですが、すごい量ですね」
「ほっほ。国の成り立ちからだと優に3千年を超えるからねぇ。いくつもの危機を乗り越えてきたからこそ、この蔵書が残っている。でなければとうの昔に散逸してるわな」
「そうなんでしょうね。その年月を超える知識、他の国でも使えるといいんでしょうが」
イチの言葉にわずかに目を見張り、首を振る。
「まあ、無理だろうね。国が変わるとは民族が変わると同義語。民族が変わると前の記録は嫌悪されて破棄される。どれだけ有用な、貴重な情報も伝達されなければそこで終わりじゃよ。ここはそのことを憂いた方が、種族民族関係なく情報をとどめておけるよう設計された場所じゃ。望む情報を手にするとよかろう」
「なるほど、ありがとうございました。さっそく探してみることにしましょう」
「大まかな方向は教えられよう。ちなみにどのようなものが欲しいのじゃな?」
「えーと。ここが大陸だった時の噴火と沈没の時の情報です」
「ふむ。という事はシェルフィン皇国の前の時代、ガーナルディル戦国時代の最終期じゃな。ならば左側の奥から3段目、下から5段目あたりに固まっていよう。それでもかなりの分量にはなるがな」
「ああいえ、そこまでわかれば大丈夫です。助かりました」
頭を下げて謝意を示すと、
「構わん構わん。ここへ来る者の手助けが仕事ゆえの。帰りたいときは蔵書を戻して腕輪を弾けば受付に着くからの。では」
そう言ってまたひょこひょこと戻っていった。
もう一度頭を下げ、イチは指定された場所へ進んだ。
「奥から3番目、の、下から5段目……このあたり、か」
見れば確かにそれらしき名称が並んでいる。その中から『災害』と『噴火』をキーワードにして2~3冊を抜く。
近くにあった席に腰を下ろし、そっとめくると。
「うおっ、最初から当たり、だけど……これはまたインパクトが強い」
それは最終期に起きた災害をさし絵で解説している書物だった。しかもご丁寧にカラーで。
「これは津波、いや、単純に水害かな?」
めくるほどに悲惨な絵が続く。
「ちょおっと目に優しくない、な、これ」
諦めて次の本に移った。
読んでいただき、感謝です^^
ちょっといなおしながら書いてますので、不定期更新になります。




