閑話 ~ あるMMOでの会話 ~
マスターゼロの世界です。
異世界と何ら変わらない、かもしれません。
クレイスモア共和国の街ファーステン。
人族だけではなく獣人族、エルフ族、ドワーフ族、海洋族、魔族と多彩な種族が入り混じって構成される、MMO形式のオンラインゲーム『Another Life』における拠点だ。
当然のことだが、NPCだけでは成り立っていかない。多くのプレイヤーたちが自分のキャラクターを作成してフィールドへ参加させ、行動することで経済を回し、国として成立している。
稼働開始からすでに5年8か月たっていて、この業界では古株のゲームとなってきていた。
その街の中の一角にある冒険者ギルド『フォルケスの牙』は、初心者から高ランク冒険者まで多数のプレイヤーが所属し、毎日相当な賑わいを見せている。
その2階にあるギルドマスターの部屋には、今、3人の人物が集まっていた。
「儂の店に来る奴からは、ここ最近、話を聞いていないな」
そう話すのは鍛冶屋を営むワレント。ドワーフ族らしく背こそ小柄だが、袖口から覗く腕の太さに、鍛え抜かれたものがある。自分の背丈ほどもある槌をふるって作る武器防具は、この街でも高評価だ。
「アタシの店のお客からも、とんと噂を聞かないねぇ」
見るからに怪しげな黒いとんがり帽子に黒ローブの格好をした婆さまは道具屋のギン。魔道具だけでなくポーションの類も置いてあり、何より一流の『鑑定眼』を持っているため、ギルドへの貢献もしている。
「ふむ。となると、やはり消えたのか、別のところに行ったのか」
ふたりの言葉に首をひねる中年男性がギルドマスターのカインだ。人族でありながら、他種族の集うこの街のギルドマスターまで上り詰めた強者で、元AAランク保持者でもある。
荒くれ者の扱いもお手の物で、以前ギルドの判断に不満を持った半端者たちが徒党を組んで襲撃した時も、15人いたならず者どもを一人で対応して傷ひとつ負わなかったという武勇伝が流れている。その猛者が今は弱り切った表情で顎を撫でている。
「一体、どこで何してるんだろうねぇ、あの親父は」
とんがり帽子をいじりながらギン婆さんが愚痴る。
「あいつの凝り性は半端じゃないからな。とんでもないところに行ってる可能性も捨てきれんな」
腕組みしたまま、目の前をにらんでつぶやくのはワレント。
「以前にも消息不明だったことはあるが、今回はちと長すぎる。ワレントのいう事もありうると思いたいが……」
「馬鹿正直に捜索依頼を出すこともできないしねぇ、まったく」
「滅多なことにはならないと考えるが、な」
「あの、エーアイとか、か?」
「ああ。あのシステムはワシにもギン婆さんにもよくわからんシロモノだ。それだけに、登録者の生存には人一倍気を使うだろうと思う」
「マスター登録ってのはかなり重たい縛りがあるはずだし、大丈夫だとは思うけど……」
「ギン婆さん、何か気がかりなことでもあるのか?」
カインが尋ねると、ギン婆さんの顔が曇る。
「どうもね、マスターの体調に不安があるんだよ、アタシャあ」
「儂はとんと気づかなんだが、そうなのか?」
「ワレントがわかるなら重症さね。いえさ、顔色とかじゃないんだ、ちょっとした話し方とか息継ぎなんかで、おかしいな、と思ったことが何度かね」
「ちょっと待て。それは……プレイヤー本体、という意味か?」
「ああ、それだよ。あのマスターゼロ、てのはプレイヤーだと思ってる」
「じゃ、今回のことはプレイヤーの都合かもしれないと?」
「アタシャそう考えてるよ」
「なるほどなぁ……もう会えねぇかな、あいつに」
カインがつぶやく。
「馬鹿なこと言うなっ!」
ダンッ!と、テーブルを叩きつけてワレントが吼える。
「あいつはそんな弱っちい奴じゃねえっ!簡単に殺すな!」
「落ち着きなよ、ワレント。アタシの思い違いかもしれないんだからさ」
「いずれにせよ、こっちは待つしかないんだ。気を長くして、な」
「……すまん。ちと頭に血が上った」
「いいって事さ。今度会ったときに1発殴ってやりな」
「そうだな」
「今日はここまでにしよう。お互い、仕事に差し支えるようじゃまずい」
「ああ、じゃあね」
「失礼する」
ふたりを送り出すと、カインは机に積んである書類の処理を始めた。だが、すぐに手が止まる。どっしりと構えているように見せたが、本心では彼もギン婆さんの言う事態を想像していたのだ。
「最悪、これっきりの縁になるかも、知れないな・・・」
ひとり呟き、頭を振って仕事に戻ったのだった。
ゲームの世界編です。現実世界とのシンクロもあります。




