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第24話 魔法劇

 遊ぶのもいいがお互い朝から食事を取っていないということもあって、学内をブラブラしながら軽く食べ物を探すことにした。流石に有名人のナディアと歩いていると、人目を集めるが、とりあえず無視だ。


「それにしてもやっぱりいい性格してるのな」

「急に何ですか?」

「さっきの輪投げといい、子どもたちの対応といい、こっちはひやひやさせられっぱなしだ」

「輪投げに限っては貴方から仕掛けてきたじゃありませんか。わたくしは頂いた分を返しただけですよ?」


 こんなことをさらりと言ってきちゃう辺り、ホントいい性格してるよ。俺のあれは故意じゃないって分かってて言ってんだろ、これ。だって、ナディアスペシャル決めてたもんね。あの技をできたことがなによりの動かぬ証拠だ。

 それに俺だけ注意されたんだぞ。子どもが真似したら危ないからって。これだから縦社会なんて嫌いなんだ。人間皆平等であるべきだろ。


「そうですね」


 俺は俯きながらそう答えた。

 それから適当に歩きながら色々見て回っては、食事をとり少し駄弁っていると、レイラとの約束の時間が近づいていた。


 レイラは魔法劇とか言ってたが、まあ、劇は劇。お次は俺の演技力を目の前の少女に見せてやるとしますか。


 俺が劇に出演することはさっき、そこらの壁に貼ってある自分のクラスのポスターを見て知っていた。


 例え台詞が少なかろうと本物ってのはオーラみたいなもので分かるもんだ。だからここらでいっちょ本物を教えてやるとしよう。


「なあ、俺午後からクラスの出し物で劇やるんだが、それを観に来てくれないか?」

「嫌と言ったらどうしますか?」

「土下座でも靴磨きでもなんでもやる」

「何ですかそれ。まあ、今日一日は特にこれといった予定は入れていませんので、お付き合いさせて頂きます。貴方には迷惑かけてしまいましたからね」

「んじゃ、決まりだ。俺はこの後少し呼ばれてるから一回教室に戻るわ。絶対に来てくれよ」


 念押ししたし、これなら観に来てくれるはずだ。


 俺はそこで一旦ナディアと別れると、教室に向かった。




 この学園にも体育館みたいなホールがある。そこが俺たちの今日の舞台だ。

 本当はナディアがちゃんと来ているのか確認したいのだが、そんなことをする暇はない。いや、正確に言うなら確認したくないと言うべきか。

 俺は心底この劇に誘ったことを後悔していた。


「ねえ、ダイキ。もっとシャキッと気合入れなさいよ。せっかくの晴れ姿なんだから」


 まだ舞台の幕が下りたままのステージの上でレイラがそんなことを言ってきた。


「これのどこが……」


 俺は二メートル近く積まれた円柱の形をした箱に触れた。

 外は茶色で塗り固められ、所々に何かで引っ搔いたような傷跡が残っている。寧ろこれは残したと言うべきか。そして一番上がこれまた驚くことに緑色の紙をぐしゃぐしゃに丸め、それをいくつも集めてくっ付けただけだ。ボリュームだけは凄いが。

 落ちないようにする工夫なのか焼き鳥みたいに紙の中心をワイヤーで通してるけどさ、もっといい方法はなかったのだろうか。


 まあ、要するに俺の約は木だ。何の面白味もないツリーだ。


「かなり手間かけたんだから感謝しなさいよ?」

「せめて感謝するポイントを教えてくれ」

「ほら」


 レイラは自慢げに円柱型の箱の後ろに行くと――パカッ。

 後ろがドアみたいに開いた。


「ちゃんと開閉式にしたんだから」

「…………」


 これはあれか? 下から被るような手間がなくて便利とか言いたいのだろうか。


「むぅ~~何か不満そうな顔ね」


 そりゃ不満しかねえよ。まさかこれで俺が満足するとでも思ったのか。


「まだあるのよ! ほら、中を見てみなさい!」


 既に俺は一ミリも期待なんか抱いてはいなかった。言われたままにとりあえず中を覗いてみると。


「どうよ」

「どうって言われてもな……」


 俺の目には板みたいなのが二つ左右から飛び出してるだけにしか見えないのだが。


「ここに肩を嵌め込めれば動けるんだから。流石に私が作っただけはあるでしょ?」


 目を凝らして見てみると、確かに肩が入りそうな窪みが出来ていた。


 やっぱりレイラが作ってたか。そうだと思ったよ、その反応。何で俺のクラスはレイラなんかに任せちゃったかな。


 期待をしていなかったんだから落胆することもないわけで。


「流石レイラだな」


 俺は作り笑顔で煽てて見せた。それを見たからか聞いたからかは分からないが、気分を良くしちゃったらしいレイラが。


「ふふーん。目の前に草があるでしょ? 立つ時、足が見えないようにその辺のケアもバッチリよ」


 調子に乗っていた。


 ホントこれでどうやる気を出せっつーんだか。昔ビデオで見た自分のお遊戯会を思い出すぜ。


 そして俺はこの薄暗闇の中で気付いてしまった。レイラの目が期待という色を帯びてキラキラしていることに。


 女の子の気持ちを汲み取ることも男の務めか。


「中に入っていいか?」

「ええ、いいわよ! どう?」


 自分が作ったものの感想が気になるのか、まだ入りきっていないタイミングでそんなことを言ってくる。


「ん~…………」


 中は真っ暗だが、とりあえず窪みに自分の肩を嵌めてみようとすると――刺さった。いや狭いだろ。明らか自分の肩で測ったよな。


 劇ももうすぐ開演ということもあり、そんな細かいことをいちいち指摘してはいられず刺して立つことにする。


「着心地は悪くないが、暗いな」

「ダイキの目線に合わせて開けていいわよ。あまり大きく開け過ぎないように注意しなさい。大きさは大体指一個分ね」


 俺はナディアに何て言われるかと思い、グーパンで自分の未来を切り開こうとも考えたが、レイラとの未来が閉ざされるのも嫌な為、大人しく人差し指で小さな覗き穴を開けたのだった。




 結局俺は自分の劇の内容を知らないまま舞台に立つことになった。

 自分の演じる役が『木』ということ以外は特に分からない。俺は今、右も左も分からず、ただ直立するだけ。『木』の役を演じることにおいて俺以上に相応しい奴なんていない気がしていた。

 役が『木』ではアドリブも何もない。喋る『木』にしようと考えたが後が怖くてやる気は起きなかった。


「んーと、どこだ~」


 割と人が多い中、小さな覗き穴だけを頼りにステージからナディアを探す。


「うわっ」


 まあ、あれだけ念を押しちまったからな。


 ホールの入り口付近の壁に背を預けながら案の定劇を見に来ていた。

 ナディアは周りに人がいないところで目立たないように見ているらしい。

 そんなナディアが口元を手で押さえながら笑っている。


 目が合ったような気がしたが、気のせいだよな。

 うん、俺は用事で劇に出れなかったことにしよう!


 吹っ切れた俺は、来てくれた観客と一緒に特等席からこの物語を見ることにした。




 ちゃっかりメインの王女様役をやっていたレイラは上手いというより可愛らしい演技を見せ、そこそこ観客の心を掴み成功と言っても差支えないだろう。


 劇の内容は聞いたことがあるようでないような、オリジナルの劇だった。

 国と国で敵対している他の国の王子様と王女様が恋に落ち、互いの親が結ばれることを反対して、最後には魔法を使える王子様が王女様と自分の為に全てを敵に回して戦う話。

 物語の中で主人公が成長していくように、俺もどうしてこんな役をやらされているのかがようやく分かった。

 『木』としての役は実際にレイラの魔法をくらい魔法の戦闘シーンの演出に使われていたのだが、その中に俺が入った理由は多分安全の為だ。倒れて観客の方に火が飛んだりしたら危ないし。まあ、そこに俺の安全は考慮されてなかったんだけどさ。俺なら水魔法でびしょ濡れになっても問題ないからな。


 俺は幕が下りると、すぐに水だけ貰い、レイラの制止の声も聞こえないフリをし、その場を後にした。

後姿からでも目立つナディアのところまで一直線に走る。


「ナディア! 見に来てくれてたのに悪い。俺が呼んだのに途中で用事できてさ、劇に出られなくて」

「……? ……!」


 ナディアは驚いた顔から急に何かを納得したような顔をする。


「何を仰っているんですか。恥ずかしがらなくてもいいじゃありませんか。とても名演技だったと思いますよ? すぐ分かりましたから」


 あれだけ離れてたのに? 最初に一回だけ目が合ったような気がしたけどさ、あれで俺って認識できたのかよ……。


「自分がやる役なんて劇が始まる数分前に初めて聞かされたんだよ」


 恥ずかしくなり思わずそっぽを向く。

 俺は今回講義中の居眠りはほどほどにしようと強く誓った。


「それより良く分かったな。あんな木が俺だって」

「僅かですが、ゆっくり動いていると思ったら急に止まって、視線には敏感な方ですので、なんか目が合った気がしたんですよ。それにもう一つヒントがありましたから」


 ナディアがピンと右手の人差し指を立てる。


「ヒント?」

「はい。スルガさんのクラスのポスターですが、出演者のところでスルガさん一番最後に書かれていたじゃないですか。あれって出番の少ない目立たない役って推測もできますから。あと気軽に名前で呼ばれますが一応先輩ですよ? 構わないですけどね」

「んじゃ、先輩だけ付けるように気を付けますっと。あと一つ訂正を要求」


 どうしても一つだけ訂正しとかないとな。俺の唯一の役のポイントだし!


「訂正?」

「ああ。目立たなかったかもしれないけど、俺一番出番あったから。俺だけフルで出演してたからな!」

「…………そうですね。お疲れ様でした」


 別に嘘じゃない。どんなに場面が変わろうと、燃えようと、いたんだ。俺だけは舞台に立ち続けたんだ。だからその優しい目やめて! 


 ここに居続けペースを乱すことだけは避けたかった俺は素直にその労いの言葉を受け入れ。


「ありがとう、ございました。それよりちょっと外の空気吸いに行きませんか?」


 ステージを変えることにした。



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