第23話 成長
「それでスルガさん。いつまでついてくるんですか?」
「いや、あそこで偶然会ったのも何かの縁だと思うし、一緒に回らないか?」
あれから景品をもらって教室を一緒に出たとこまでは良かったのだが、ナディアは一人ズカズカと前を歩いている。因みに俺がもらった景品は小さい熊みたいなぬいぐるみだ。ナディアはパーフェクトで生徒による宅配サービス付きのソファなど貰えるはずだったのだが、それを断るとお得意の笑顔で「あちらの人と同じぬいぐるみを頂けませんか?」と俺を指して言ったのだ。
また、そんな行動が『あの生徒会長についに男が』などという嬉しいような嬉しくないような噂を生み出したりもしていた。いらないなら俺にソファくれてもよかったのにね。
「偶然、ですか? 偶然ってなんでしょうね。わたくしの前を歩いてたと記憶しているのですが」
「ぐっ」
こいつ、やっぱり俺に気付いてわざと入ったのかよ。質わりぃー。
「それに男性のこと苦手ってはっきり伝えましたよね? これはそれを知った上での嫌がらせでしょうか?」
「ちげぇよ」
別に嫌がらせをしに来たわけじゃない。俺はそんな悪趣味じゃねえよ。
「一緒に回る相手もいねえから、誘いに来たんだ」
「さっきは偶然と言っていませんでしたか?」
「お前、俺の時だけ性格捻くれすぎじゃないか……」
「貴方に隠す必要もありませんからね」
ああ、特別になれたのなら良かったよ。
「あーもう、回る相手がいないんだ。もし時間あるなら一緒に回ってもらえないか」
「それでしたら、どうぞ。良かったですね。これで寂しくないんじゃありませんか?」
そう言って手に持っていたぬいぐるみを俺に押し付けてきた。
寧ろ余計に寂しくなっちゃっただろ、これ。見た目的にも精神的にもさ。
「あー! リネットお姉ちゃんの彼氏さんだぁー!」
女の子の高い声が響き、こっちにとてとてと可愛らしく走ってくる。その後ろには一人の少年ともう一人――リネットがいた。
「こら、マユカ! 冗談もそれくらいにしないと怒るぞ」
「はーい」
リネットが大声を上げた女の子の頭を撫でる。少女の顔もとても満足気だ。
んー、この子たち見たことあるような…………あっ! デートした日に会った子どもたちか。
「この子たちってあの時の」
「ああ。今は親戚の家で面倒を見ているんだが、暇がある時に様子を見に行ってたらこんな感じでな」
「親御さんの方は?」
「ああ、問題ない。今は家事の手伝いや庭の手入れなどを毎日熱心にやられているほどだ」
「そっか」
それにしても少し見ない間に変わるもんだ。髪がボサボサで痩せ気味だった子どもたちは今じゃ髪を綺麗に整え、元気な姿を見せている。
「あー浮気―! お兄さん浮気してるよ! お姉ちゃん!」
「ああ、これは浮気だな」
隣にいるナディアを見て、そんなことを言い出す子どもたち。そんなナディアと言えば。
「メッ、です。あまりからかったりしてはいけませんよ? それはそうとわざわざ遊びに来てくれたんですね。今日が貴方たちにとって良き一日になるよう陰ながら応援させて頂きます」
この通りの猫かぶりだ。ここまで俺との差があると清々しくて何も言う気になれない。リネットの方も『確かにしてしまったがあれは本当に仕方なくだな』とかブツブツ言っている。
「は、はい。ありがとうございます……」
「愛人さんありがとうございます!」
兄はいっちょまえにませた態度を取るようになってるし、妹の方は昼ドラの影響を受けすぎた子どもみたいになっている。
ナディアは聞かなかったことにしたのか、二人の頭を黙って撫でるだけだった。
「なあ、リネット。一体どんな教育してんだよ。特に妹」
「それはまあ、マユカのことをお願いしている家の人がだな、その手の話によく縁があって、マユカのことを特に気に入ってるから、そういう話も世の中に出た時の為にと教えているのだそうだ。私も教育に悪いと止めてはいるのだが……はあ……」
「あ……ああ。そうだったのか」
その家に預けたままでいいのだろうかと若干心配になったりもしたが、可愛く笑う少女の顔を見てるとどうでもいいと思えてしまった。
「騎士団の方はどうしたんだ?」
「事情を話したら快く送り出されてしまった。それにしてもスルガこそ生徒会長とこんなところで何していたんだ?」
「ついさっき輪投げやってる最中に偶然会ったんだよ。偶然な」
「あー! それ可愛い!」
リネットと話している途中にナディアに撫でられているマユカは俺の手に持っているぬいぐるみを指してそんなことを言ってきた。
「ほら、やるよ」
「やったー」
俺はナディアにもらった少しリボンなど装飾が施されている方のぬいぐるみを渡した。
「ほれ、お前にも」
男はあまりこういうのは欲しがらないと思ったけど。
「お、おう。一応貰っとく」
そう言って受け取ってくれた。こっちも手荷物がなくなって正直助かる。ベッドしかない俺の部屋にあんなぬいぐるみ二つ置いても浮くだけだからな。
「ん~~~~」
リネットが小さく唸る。そう言えば意外と可愛いもの好きだったな。このぬいぐるみもリネットの可愛いセンサーに反応していたらしい。
すると、俺があげた装飾の少ない方のぬいぐるみを待ってましたとばかりに少年があげた。
今の動き出しの早さから見て多分読んでたな。こうなることを。
「はい。俺やっぱりこういうの興味ないし、よかったらリネットお姉ちゃんがこれ貰ってくれない?」
「いいのか……。ありがとう」
「そんな礼言われることでもないってーの」
その歳でそこまで女の子に気を遣えればもう兄なんかじゃなくて、男として合格だよ。
前会った時、偉そうに叱ったことを思い出し、少年に対する評価を更新しておいた。
――グゥゥゥゥ。
「リネットお姉ちゃん、お腹空いた~」
顔をほんのりと赤めながら、少女がリネットの制服の袖口を引っ張る。お腹を鳴らしたことで恥ずかしがる姿はやっぱり一人前の女の子だ。
「あーわかった、わかった。では私たちはそろそろ行かせて貰う。ではな」
「バイバーイ!」
そう言ってリネットと少女がお昼を求め、去っていく。
「お前はいいのか?」
「前言えなかったから。あの時は母さんのこと、ありがと。じゃ」
言うべきことは全部言ったと、少年もリネットたちの後を追って行った。俺はそれを何となく見送る。
生意気な。ガキがかっこつけやがって。
「悪い。回る相手いなくなっちまったから、一緒に回らないか?」
「全く、意図的に手放したと思うのですが……。まあ、仕方ありませんね。貴方には借りもありますので」
何とかナディアがパーティに参加し、俺はさっきリネットたちが去っていった方角に手を合わせると、ぬいぐるみを持って行ってくれたことに改めて感謝するのだった。




