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金目姫  作者: 辰野ぱふ
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ナカ町へ (2)

「ふむふむ。ミューリに会えないと思っているのかな?」

 とマシシがニヤニヤとジョシュの顔を覗いた。

「え? そ、それは…」

「おいおい。この1年半、わしは君のママにお金を届けたんだよ。それに、君、最初にジョシュ・クラウドって言ったら、そりゃ、ミューリのだんなってことだろ? そんなこと、

誰も気がついていないと思っていたのか?」

 マシシがからかうように言った。

「だって…」

「マシウスが知らないわけないだろ! だって、天気予報をやっている奴と結婚したってことはわかっていたし…、君、最初に天気予報のクラウドって認めちゃったからね」

「え?」

「ハハハ。だまされたのは君さ」

「え? だまされた?」

「そうさ。君はマシウスに気押されて怖くなり、別の人の名前を言ったのさ。それはつまり、マシウスに秘密を作ったってことなんだ。そしてその秘密を守ろうとする力が君を強くしたのさ」

 ジョシュは目を白黒させた。

「君をだましたおわびに、金目姫の秘密を話そう」

とマシシが胸を張って、話し始めた。

「金目姫とは、サルクネリのパブで歌っていた何人かの歌姫たちなのだ。館の中でマシウスの部屋に行くまでに、星が描かれたいくつものとびらを見ただろう? あの一つ一つのとびらに、一人一人の歌姫が住んでいたのさ。マシウスは彼女たちの一人一人を愛した。だが、暗い地下で歌ううちに歌姫の心もどんどん暗くなってしまうのだ。そして歌う気力が無くなり、寝込んでしまう。マシウスは歌姫が亡くなるたびに悲しみ、思い出を封印するように、その部屋を封印した。そして新しい歌姫を迎えた。彼女たちののどの器官は金属のパイプに置きかえられ、遠い地方まで運ばれて、一人の姫になったのさ」

「くそっ! これからまだミューリもパイプにするつもりなのか!」

 とジョシュは腹を立て、その勢いでマシシに向かって行った。

「おっと! 落ち着きたまえ!」

 マシシがそう言うと、大きいスーメルクの男がジョシュを後ろから羽交い絞めにした。

「もう、金目姫の中に新しいパイプは入らない。金目姫の中にはマシウスの悲しみ、姫たちとの思い出が詰まっている。もう新たに生きている姫を迎え、悲しみを増やするつもりはないのさ。君はまんまとマシウスの脅しに乗っただけだよ」

 マシシは、ケケケケと笑った。このはげおじさんが、こんなに陽気な人だったとは、ジョシュはちっとも気がつかなかった。ジョシュの力が抜けると、ジョシュを捕まえていたスーメルクの大男も力を抜いた。

ザックザックザック、ギュールギュールギュールと音を立てながら、ソリはナカ町に入って来ていた。しばらくぶりに見たナカ町は、ぼんやり晴れていて、そんなうすぼんやりの日の光の中でも、人はうれしそうに外に出て、日の光を浴びていた。

 ザッカライのパン工場の門が開いた。

 大きい守衛さんと、数人の守衛さんが門の横に並んだ。

 ソリの中にパンを詰め込むのを、ジョシュも手伝った。パンを詰め込むと、がんじょうなスーメルク人たちは持って来ていた空のパン袋を投げるとソリに乗り込み、マシシもソリに乗り込んだ。

「あれ?」

 とジョシュはマシシを見た。

「まただまされたね!」

 とマシシは言った。

「どうぞ、ご自由に。またスーメルクで働く気があったら、ここに来ればいいさ」

 ぼうぜんと立っているジョシュに、マシシはさらに言った。

「あ、それからね、君、今度会う時があったら、わしのこと呼ぶ時、様はいらないからね。ただのマシシでじゅうぶん。マシウスもね!」

「ブハハハハハ」と、ジョシュの後ろで、守衛さんたちがごうかいに笑った。

 ソリのとびらが閉まり、ハアハアと白い息を上げて、灰色狼たちがソリを引っ張って帰って行った。 

ザックザックザック、ギュールギュールギュール

 ザックザックザック、ギュールギュールギュール

 音が繰り返されるたびに、それは遠のいていった。

 パン工場のとびらが閉まる前に、守衛さんが言った。

「ほら、どいたどいた、じゃまじゃま」

 そして、ジョシュはパン工場の外に追いやられた。

 守衛さんは守衛所の上半分のとびらをあけて顔を出すと、

「ミューリも、ミューリのママのターリ、お姉ちゃんのゾーリも忙しくて、またまだ帰る時間じゃないから出て来ないよ。でも、君に会うことは楽しみにしている。ブハハハハ」

 ジョシュはなんだか夢からさめたような気分だった。

「どうする? ここで待つ? 君の家で待つ?」

 そう言われて…。

ジョシュは迷わず家に帰ることにした。ふところには金貨がある。ナカ町の市場に行ってキャベツを探そう。そして、スープを作ってみんなを待とう。ほかに何かおいしい物が見つけられるかもしれない。鍋がなかったら、近所に借りに行けばいいし…。たぶんきっと、今日は少しはマシなスープが作れるって気がする。それに、多少まずくても、食べられさえすれば、たぶんきっと、どうにかなる。

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