終章 「小さな世界達の終わり」 その3
幸い車はバンパーを凹みだけで、運転に支障は出ないようだった。
さっきの荒い運転などなかったように、高山はいつも通りの安全運転で車を走らせる。
一体何本橋があるのか、というくらい太い陸橋の下をくぐると、急に開放的な景色になった。
道路沿いにはヤシの木のような木が等間隔に植わっており、横には鉄道の高架橋が走っている。
道が狭く、バスもいたので、いつも以上にゆっくりと走りそれらを避ける。
少し走ったところで、道路はゆっくりと円を描き、バスターミナルとなって終わっていた。
そして、石畳の道路の先には、
「―葛西臨海公園、か」
感慨深げにつぶやいた。
そう、今まで走ってきた道の果て。
それがこの「葛西臨海公園」だった。
今まで見たことのある公園―そもそも公園というものが地元にはそんなに無かったが―とは違う、子供が遊ぶ公園というよりは、国立公園とか森林公園とか、そんなな類の場所だった。
「着いたのはいいんだけどさ」
黒田が言う。
「ここでの移動はどーすんの?なんか見た感じ結構大きそうだけど」
「そうだよなぁ……」
しばし悩む。
別に徒歩でも構わないと思っていたのだが、だからといって車を放置しておくのも心もとない。そんな人はいないと思うが、万が一車や中の食料を盗られるという可能性もある。
バスターミナルの手前にはいくつか駐車場があって、臨海公園というだけあって、夏にはたくさん人が来ていたようだ。満車寸前まで車が止まっており、ちらほらと観光バスも止まっていることに少し驚いた。
公園の入り口の方にを見ると、とても幅の広いゆるやかな石畳の坂が公園の中心部まで続いていた。
車が並んで二台は走れそうなほど広い道だった。
そしてこの公園の広さである。
ということで、
「そのまま突っ切るか」
「え、車で!?」
児玉が驚いたように聞き返す。
「この公園って結構広そうじゃん?多分園内での作業は車で移動してると思うんだよ。だから、一応車で行けるんじゃない、ということ」
「さんせー!よーしカズっちぶっ飛ばせ!」
「さすがに勘弁かな!」
「ちっ、つまんないの」
「……まあ車の方が楽だしいいかぁ」
話がまとまったところで、車を少しバックさせて、ターミナルの柵が切れているところから石畳の道路に乗り入れる。
少し行ったところで、園内移動用と思われる軽トラックを発見した。
「ほらやっぱりな」
「本当だ」
道はほとんどが石畳かアスファルト舗装されたしっかしとした道で、幅もそれなりにあった。
「地図あったよ」
黒田の指さす方向に大きな園内地図があった。
「ほーう、メインの公園に鳥類園、奥は一応海浜公園で……砂浜があるのか!そしてこれは……水族館?」
「「水族館!?」」
女子二人が水族館というワードに食いついた。
「行きたい!」
「行くしかないっしょ!」
「ちょっとまて二人とも、たぶん水族館は……」
高山の言葉を女子二人は完璧に無視して、水族館の方へと走っていく。
車が気がかりだったが、とりあえず施錠だけして、二人を追いかけに水族館へと走っていった。
*
水族館とは、いわば巨大な飼育水槽の集まりのようなものである。
全ての魚は人間の手によって育てられ、電気によって水も濾過されて、二十四時間休まずにそれは続いている。
そして、今は人間がほとんど消え去った世界。電気も止まっていれば、餌をあげる飼育員もいない。
ということは?
―それに二人が気づいたのは、館内に入ってから最初の巨大水槽を見てからだった。
分厚いガラス越しに見えたのは大小様々な魚が入り乱れて泳いでいる様ではなかった。
歪んで見えるわざとらしい水色の壁と、白い砂と、ごつごつした岩場と、ほとんど揺れない海藻と。
白い砂に横たわっている魚の死骸だった。
多くの魚はそれなりに大きな種類ばかりだった。つまりはそういうことだ。
「だから待てって言ったのに……」
呆然としている二人に、そう言った。
「魚たち……、みんな死んじゃったんだ……」
黒田が悲しそうに言った。
児玉も、口にこそ出さないものの、黒田と同じような気持ちなのだろう。
小さい魚の死骸がほとんどないから、たぶん最後は食物連鎖の関係で大きい魚が生き残ったのだろう。
元より水にはプランクトンなど含まれてないだろうし、こんな狭い水槽ではすぐに酸素なども失われてしまいそうだ。こんな環境で今まで餌を与えられて育った魚たちが生き残れるはずもない。
ただ俺は、今の二人の前でそんなことを言えるほど無神経じゃあ、ない。
「戻ろう、二人とも」
「うん」
俺たちは、暗い水族館の通路を元来た方へ歩き始めた。
*




