終章 「小さな世界達の終わり」 その2
目的地は、唐突に表れた。
それは、高山が工場の角を曲がろうとハンドルを回している時だった。
「カズっちストーップ!」
「うぉっ!?」
いつかも見た気がする突然の停止命令に、今回は慌てることなくゆっくりと車を止める。
「なんだ?」
「あれ!」
それだけ言って、黒田は大通りに見える青い道路標識を指さした。
そこには「湾岸」だの「臨海」だの海沿いを連想させるワードがずらり。
そしてそこには、
「葛西……臨海公園」
初めて見たその公園の名前に、三人は写真でしか見たことのない砂浜を思い浮かべた。
「行くか」
高山はそう言うと、素早くシフトレバーを「R」に入れた。
その声は、いつもよりちょっと低くて。
なんか嫌な予感がする、と感じたのは児玉だけだった。
ここから先に見える高速道路と思わしき陸橋までは、これまでと変わらない太い道路が続いている。
でも、今そこには車がほとんどない。見晴らしがよい道路だった。
そして大通りまでバックを終えて、高山の手によってシフトレバーが「D」に戻る。
その瞬間、児玉はその見晴らしのよさを恨んだ。
高山を止める間もなく、非力な軽自動車のエンジンは今まで聞いたことのない音を鳴り響かせる。
「「ひぇぇぇぇーっっ!!!」」
女子二人が悲鳴を上げるも、高山は気にしない様子で加速を続ける。
二十キロ、四十キロ、六十キロ……。今まで体験したことのない速度で車が走る。
スピートメーターがあっさり一〇〇キロを超えたあたりで、
「あ、やべっ」
と高山が舌打ちした。
目の前には、ぽつんと止まっている一台のトラック。
「「「危ないっ!」」」
幾分か冷静な判断をすることが出来たのかは分からないが、車はぐいん、と右に急カーブすると、中央線をあっさりと超え、反対車線に飛び出る。
体勢を戻そうと反対にハンドルを切ってまた揺れて、を繰り返しているうちにだんだんと制御を失ってきた自動車はだんだんと歩道の方へ寄っていく。
「おい止まれぇぇぇ!」
さすがにこの状況がやばいと気づいた黒田が、サイドブレーキを思いっきり引いた。
「ちょっとまてぇぇぇぇ!」
高山は予告なしにかかった急ブレーキには対応しきれなかったのか、ハンドル操作が一層おぼつかなくなり、歩道に乗り上げるのを避けるように思いっきり左に切った。
車はいつかの出来事を再現するように、後輪を派手に滑らせて歩道ぎりぎりで止まった。
ただ、後ろから「ガン」と音がしたのを除いて。
……。
「やっちまった」
「「やっちまったじゃないっっっ!!」」
女子二人から盛大なツッコミが入った。
とりあえず損傷具合を確かめよう、と車外に出る。
「これで動かなくなったらシャレにならないね……」
児玉が不安そうにつぶやいた。
もう一つの小説を書くようになってから、むしろ執筆のペースが上がっているように思える今日この頃です。
(気のせいです、ハイ)




