05
今日もこんな時間からウィスキー?
カウンターでグラスを傾ける中川さんは様になる。
一日一杯だけの贅沢よ。
そう言いながら父にグラスを差し出す。
父はそこに特製の冷えた焙じ茶を注ぐ。
あら、そのグラスでお茶?
これがなかなか、美味しいんよ。ずっとコーヒーだと胃がもたれるからね。
だったら家に帰ってゆっくりしたら?
私は隣の席に腰を降ろす。
私がそう言うと、中川さんは首を振る。
分かってないなぁ。ここでレコード聴きながら過ごすのがいいんよ。かなでちゃんもおるしね。
カタンッと音がするのは、父がコーヒーカップを置いてくれたからだ。
関西弁は苦手だけれど、中川さんのイントネーションは耳に温かい。
中川さんはどうしてこっちに住んでるの?
いつも関西の話を楽しそうにしていて、帰りたいっていう話もよく耳にしている。
話さなかったけ?
うんと小さく頷く私。
本当は何度も聞いているけれど、中川さんは毎日この話をするまで帰ろうとしない。
息子がこっちで結婚してね、孫が三人いるんよ。それも三つ子でさぁ。男、女、男。まぁ、いいバランスさ。
そこまでは決まり文句になっている。
長男の敬がな・・・・
今日の主人公は上の子かと、中川さんに顔を向けて話に聞き入る。
孫との生活の為に故郷を離れた理由は、奥さんの死にあるらしい。同時期に古い付き合いのバンドメンバーが亡くなった事もあり憔悴していた中川さんをこっちで暮らしていた息子が呼び出した。孫の面倒を見て欲しいとは口実に過ぎないが、三つ子だと言われては受け入れるネタとしては都合が良かった。
・・・・まぁ、こんな感じだよ。
そう言いながら不器用なウィンクをするのも決まり事になっている。
そろそろお店の手伝い始めないとね。
私はそう言いながら腰を上げる。
コーヒーカップは自分で洗い場に持って行く。
勉強もしっかりしないとあかんよ。
母が大きく頷く姿を肩の向こうで感じた。
大丈夫よと少し大きく声を出す。




