第22話 姉とクリスマスパーティ
「お、羊宮姉妹じゃん。いらっしゃい」
「メッリー、クリッスマース!! 灰琉先輩! 黒江!」
インターホンを鳴らして扉を開けると、琥白が鳴らしたクラッカーと一緒に、私たちは八木原姉妹に盛大に迎えられていた。
軽く頭を下げた後、ちらりとはるを窺うと、お土産の紙袋を持ったままカチンコチンに固まっていた。クラッカーの音に吃驚して、ショートしてるねこれは。ただでさえ、緊張してたから。
「メリークリスマス、今日はお世話になります」
「あ…………え……あ、こ、これつまらないものですが……」
私の挨拶でようやく正気を取り戻したのか、はるは慌ててお菓子の入った紙袋を白乃さんに差し出した。白乃さんは軽く笑って、それを受け取ると、そっと身を引いて私たちを招き入れる。
「ありがと、灰琉。そういや木瀬が、ちょっと遅れるって連絡あってな。先に始めててくれとのことだから、とりあえずお前ら待ちだったんだ。ほら入れ、入れ」
「どぞどぞ灰琉先輩、いらっしゃいませ! あ、コート預かりますね! 黒江もなんか荷物あるなら貰うけど?」
「そう、じゃあ、私もコートだけお願い、琥白」
「あわ、あわわわ…………」
あれよあれよという間に、部屋の中に招き入れられる。八木原家に来るのは初めてだけど、まあ、一般的なお家って感じだ。一軒家だからうちとは違うけど、適度な生活感の中で、ちゃんとクリスマスの装飾が飾られてる。多分、琥白がノリノリでやったんだろな。
リビングの扉をガラッと開けると、話の通り、木野以外の二人、柿崎さんと、川口さんはもう揃ってた。パーティ用のご馳走が並べられた机を囲んで、私たちを見るなり、二人とも軽く手を上げる。
「よ、副会長、お疲れ」
「あ、聞いてよ黒江ちゃん。ザキの奴がねー、ちょっとつまみ食いしてたんだよ? 一人だけで。信じられる? 私も我慢してんのに」
「いやあ、ごめんって。腹減っちゃってさ」
そんな上級生二人に会釈して、軽く相槌を打ちながら、ふっと後ろを振り返る。
初対面だから多分緊張してるだろうなって思ってみたら、案の定はるは私の後ろで影に隠れるようにぷるぷると震えてた。一応、二人ともはるの同級生のはずなんだけれどね……。
「え……あ……えと」
「あれ? あ、そっか、副会長の姉ちゃんも来るって言ってたっけ。おっす柿崎です、よろしくー」
「初めまして……ではないけど、部会くらいでしか面識ないよね。川口でーす。生徒会では、書記してまーす」
二人とも割と気は優しい方だから、コミュニケーションのハードルは低いと思うけど。はるにとっては初めて話す相手ってだけで、だいぶしんどいんだよね。
そのまま、はるは私の背後でぷるぷる震えてたから、ちょっと助け舟を出そうかと少し迷う。
でも、しばらくすると、私の陰からおずおずと出てきて、そっと二人に自分から歩み寄っていた。
「…………よ、羊宮 灰琉、です。いつも、妹がお世話になっております……」
そう言って、ゆっくりと二人に頭を下げる。そういえば、ちゃんと挨拶したいって言ってたっけ。ちらりと不安そうにこっちを振りかえるはると目が合ったから、大丈夫って笑っておいた。
案の定、柿崎さんたちはちょっと、面食らってたけど。すぐに笑顔になって、手をひらひらと振り出した。
「ははは、いや、どう考えても、俺たちの方がお世話になってるよ」
「よろしく、灰琉さん。いやほんとまじで。黒江ちゃんいなかったら、絶対今期の部会もっと大変だったもーん」
「は、はい…………ありがとうございます……」
そんなやり取りを、後方でどことなく微笑みながら見ていたら、ふっと背後から白乃さんの顔が伸びてきた。……相変わらず心臓に悪い登場するな、この人は。
「お、早速、打ち解けてんじゃん。よかったな? 黒江」
ちらりと肩口の白乃さんの顔を窺うと、案の定というか、どこか意地悪げな笑みを浮かべてる。別に悪意はないんだろうけど、想定通りと言わんばかりの顔が、少しだけ癪に障る。
「そーですね。うちの姉は頑張り屋なので」
「はは、まあ、違いない」
どうにか会話を繋ごうと、必死にあわあわ喋っているはるを横目に、私は白乃さんに声のトーンを抑えながら口を開いた。
「そういえば、今日は――――」
どういう企みですか? と、そう聞こうとした直後。
バンッと部屋の電気が落ちた。
視界は突然の暗闇に……別に覆われてない。カーテンの隙間から冬の陽光がぼんやりと入ってきてる。
そんな薄暗闇の中、はるがあわあわと慌てる姿を眺めた後、私は部屋の入り口に目を向ける。そこには電気のスイッチを抑えながら、暗闇の中、不敵に笑う琥白がいた。
暗くてよく見えないけど、頭にちゃんとクリスマス帽をかぶって、サンタのコスプレまでして、手には大量のクラッカーを握ってる。私達のコートを片づけている間に、そこまで準備してきたらしい。張り切ってるなあ……。
「すりー……つー……わーん……」
そして琥白のセルフカウントダウンの音が、ゆっくりと部屋の中を満たしてく。生徒会のメンバーは、何が起こるかなんとなく察したのか、各々笑いを堪えてた。ただはるだけは何が起こっているのか分かってなくて、暗闇の中で右往左往を繰り返してる。
あのままほっとくと多分、うちの怖がりな姉は驚きのあまり心臓が止まるだろうなあ……。というわけで、そっと歩み寄ってはるの耳を両手で覆う。はるは不思議そうに首を傾げたけれど、特に抵抗はなくされるがままだ。
それと同時にパパパパンッと、琥白が盛大にクラッカーを鳴らし散らした。
「メッリークリッスマース!! いえーい!!」
「いえーい」
「っはっはっはっは、琥白ちゃん、いいよー」
「…………え? ふえ?」
そんなこんなで、白乃さん主催、生徒会+αのクリスマスパーティが始まった。
灰琉は最初、姉としてちゃんと挨拶回りしなきゃって、気張っていたみたいだけど。あれよあれよという間にパーティが進行してしまったから、タイミングを逃して半泣きになってたのが、ちょっと憐れだったかな。
まあ、そんな可哀そうな姿も、うちの姉は可愛いのだけど。
「たまに思うけど、お前の愛情歪んでないか?」
「言語化してない感想に突っ込むの、止めてもらえます?」
白乃さんの、そんな半眼な指摘をいなして、私は軽くため息をつく。
さて今日は、平穏無事に済むかなあ。……まあ、結局、白乃さん次第なんだけど。
ちらりと背後の上司を振りかえると、案の定、そこには心底悪い笑みが浮かんでた。
絶対、何か企んでるよ……。
そんな思惑が裏で走ってるとは露知らず。琥白にクリスマス帽を被せられたはるは、クラッカーを震える手で引っ張っていた。
パンという軽快な音が鳴る。
そうやって散った紙吹雪が、一つ私の頭にぽすんと乗った。
さあ、楽しい、楽しいクリスマスパーティはこれからですよ。
平穏無事に済めばいいけどねえ……。




