第103話 はると私
なんて―――。
なんて、答えを返せばいいのだろう。
泣きながら。
震えながら。
感情という感情を、両手いっぱいでぶちまけるかのような言葉を零して。
あなたは私を、じっと見ていた。
そんな眼で見ないでよ―――揺らいでしまうから。
そんな声で訴えないでよ―――泣きそうになるから。
そんな想い、見せつけないでよ。
縋ってしまい―――そうになるから。
わかってる、こんなの、ひなの刷り込みと変わらない。
たまたま、目が覚めた時に、隣に居たのが私だっただけ。
お義母さんでも、琥白でも、白乃さんでも。
隣に居た誰かが、大事にしてくれたら、きっと今のはるは同じようなことを想ってたはず。
ずっと、大事にされてこなかった、小さな子どもが、初めて誰かに手を握られたから。
それが、世界の全てだと、想ってしまっただけ。
だから―――。
「 」
いなせ。
「 」
誤魔化せ。
「 」
縋るな。
「――――――――――」
泣くな。
「――――――――――――っ」
零すな。
「―――――――――――っぁ」
想いを。
願いを。
未練を。
愛を。
「っぁぁぁあぁぁぁぁぁ―――――――――」
隠さないと、ダメなのに。
「うぁぁぁぁぁああっああっぁ――――」
止まらない。
「ぁ――――――――――――――――」
止められない。
零れる雫も。
崩れた言葉も。
溢れるほどの泣き声も。
なにも止められない。
どうしたらいいの。
どうすればよかったの。
何も、何も。
もう、わからないの。
辛かったの、苦しかったの。
悲しかったの、泣きそうだったの。
あなたが、私を忘れたことが。
想い出が、無意味になってしまったことが。
あなたと、手を繋いだ、あの誓いの夜を。
夜、たった独りで、想い出すことが。
あの日、貰った、ささやかな、救いすら。
全部、なかったことに、なってしまった、ような気がして。
ねえ、はる。
「黒江」
名前を呼んで。
「黒江」
手を離さないで。
「黒江」
もう、独りにしないで。
「黒江――――大好きだよ」
あなたがいない、夜のベッドは。
どうしようもなく、冷たくて、凍えてしまいそうだったから。
私は、きっと。
もう、ずっと。
あなたなしでは、生きられなくてしまっていたから。
泣きじゃくる私に、あなたは同じように涙を零しながら、じっと微笑んでいた。
記憶なんてないはずなのに、本当は私なんかのこと、気に掛けてる場合じゃないのに。
それでも、あなたは。
私の手を、離さないでくれていた。
ずっと、わかっていたこと。
結局、私はもう、とっくの昔に。
あなたから、離れられなくなっていた。
「記憶なんて―――もういいの」
「想い出せなくても―――もういいの」
「私のことも、ずっと忘れた、ままでいいから」
「そばに居て」
「独りにしないで」
「ずっと―――ずっと――――」
「私の隣で笑ってて」
「おねがい」
「それだけで」
「私はもう、それだけで――――充分だから」
「愛してるの――――はる」
誰もいない公園の。
朝の冷たい、静けさの中。
私達の泣き声だけが響いてく。
寄り添うように、抱き合うように。
灰色の空の下、吹きすさぶ風の中。
そのぬくもりに、縋りあうように。
私達は、互いの名前を呼び続けてた。
きっと、もう、いつかの姉妹には戻れないけど。
それでも、どうかと。
まるで、何処かへ祈るみたいに。
ただ、二人っきりで泣いていた。
離れないで。
そばに居て。
あなたの隣に、私をいさせて。
それだけで、幸せだから。
だから、どうかと、祈ってた。
顔も知らない神様に。
ただ縋りつくように。
あなたと二人で。




