表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

受難するユリは反撃す 2

前回の話の続きです。

 離乳食が始まってからもエリの大食いは続いた。

二つ並んだベビーチェアに座らされているのだが、ユリの口にお母さんがスプーンを運んでいる僅かな間もエリは待てない。「マッ、ンマンマ。ア゛ヤク!」と力強いぶりぶりした足で床を蹴ってイスをガタガタいわせる。

お母さんはしょうがなく、エリの口に二回、ユリの口に一回というようにスプーンを運ぶことにしたようだ。

・・・しかしこれでは自分はエリの半分しか食べられないではないかっ。考察の結果、ユリは二つの方法をあみ出した。


まず、飽きっぽいエリが食べるのを止めても自分は最後まで食べるのだ。辛抱よく最後まで食べきる。これが大切だ。

そして狙ったのは夜だ。夜はお姉ちゃんとエリが寝てしまう。この五月蠅い二人がいないとお母さんを独り占めできる。そうしてユリは夜泣きを始めた。めんどくさがりで大雑把なお母さんは「はいはい、泣きたいんなら好きなだけ泣きなさい。」と誰もいない台所に連れて行って降ろしてくれる。そうしてそこら中の電気を明々とつけてベビーボーロを飯台の上にざっと出してくれる。これは食べなればならない。大好物だがいつもエリに獲られてしまうのだ。ユリは泣き止んでそれをしっぽりと食べ始める。その側でお母さんは、うとうとするという日々が続いた。

それを心配したおばあちゃんが、誰かから聞いて来て「ニワトリの絵を描いてそれを逆さにして」台所に貼った。これで夜泣きを止めるそうである。(はなは)だ眉唾物の話だがそこまでされては夜に起きるのも(はばか)られる。ユリは夜泣きを止めることにした。


ユリは泥の中を転げまわるのが大好きだ。お母さんが目を離したすきを狙って頭にも泥水をかけたり、口の中に入れてみたりもする。そうしてお母さんが「きゃ~、あんた何をしてるのっ。」と言いながら、慌てて裏口まで連れて行って水道でバシャバシャ水をかけて洗ってくれるのも気持ちいい。

ただ、裸んぼでお母さんが服を持ってくるのを待つのは少々寒い。ユリはそこらで遊んでいたエリのスカートを「脱いでっ。」と脱がしてちゃっかりと自分で()いて遊ぶことにする。エリは食べ物にはこだわるが、服に関しては頓着(とんちゃく)しないのだ。


幼稚園では、困ったことが一つあった。ユリはきく組だったのだが、大きい組の先生に「ゆり組さぁーん、お部屋に入りなさぁーい。」と言われるとどうしてもその先生の方へ走って行ってしまう。あれ?違うのかなぁとウロウロするのだが、どうしても呼ばれている感じがして毎回困ってしまう。園長先生がその度に喜んで園長室の窓から見てたなんて知らなかった。

きく組の斎藤先生にはいつも褒められる。先生の助手とまで言ってもらっている。斎藤先生は新人の先生だからみんなで助けてあげなくちゃね。それにエリの手伝いも必要だ。お弁当のハンカチの蝶々結びが苦手なので教えなければならない。「ユリが甘やかすから、エリが覚えようとしないのよ。」とお母さんは言うがそうなんだろうか。


小学校に上がると病気がちなエリの守りをしなければならなくなった。しかしエリは使えることもある。図書館の本をほとんど読んでいるので読書感想文を書く時には大変便利だ。エリに本のあらすじを話させて感想文を書くのである。その代わりに苦手な算数は助けてあげる。双子的助け合いだ。お姉ちゃんは羨ましがるがこればっかりはしょうがない。


お母さんに似て本以外には飽きっぽいエリは勉強が出来る癖に続けようとしない。ユリは最初はすぐに覚えられないが、これも食べ物と同じ方法でやっつけることにした。つまり辛抱強く繰り返して最後まで諦めずにやりきるのだ。これでクラスでトップスリーにいつも入る技を身につけた。


そして最大級に助かったのが修学旅行でおこずかいを忘れた時だ。

エリのおこずかいを半分貸してもらって、家へのお土産は二人で買った。双子だからこそ出来ることだ。

エリは「自分ものを買うお金が無くなった。」と今でもその時のことをぶちぶち言うが、赤ちゃんの時からかけられた迷惑を思うならいいとこ勝負だろう。


高校でも勉強を頑張った。しかし宿題は文系のものはエリがして、理系の教科はユリがしたが、さしたる成績の変動はなく大抵トップクラスに入っていた。エリとユリが大学に受かった時にお母さんは「百万円が次々と翼を広げて飛んでいく。財布の底にはホコリもない。」と嘆いていたが、国立大学に受かって親孝行もしたと思われる。なにせ理系で私立だったら一家心中とまで言われてたからね。頑張りましたよ。ただ三人全員が県外の生活をしたので、育英基金に頼るしかなかったが・・。


そして・・・最近、最大の反撃の成果を上げたのだ。お婿さんという軍師を得て、とうとう実家を乗っ取ったのだ。

ふふふっ。姉たちよ私の許しを得て実家に入り浸るのじゃぞ。

次なるは、「母」という天下取りじゃ。エイエイオーエイエイオー。



こうしてユリの反撃・進軍は続いている。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

また子育てエッセイなどでお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ