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エンキリZ  作者: 雨月
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H7:日和、得たもの

 俺、縁切乙はエンキリと呼ばれる一族だ。色々な男女関係を見てきた。基本は破局した人たちだけどな。

 そして、自分がそっちの関係になるとは思いもしなかった。

「俺、日和のことが好きだ」

「え? すみません、聞こえませんでした」

 朝食の片づけをしている日和はにこっと笑っている。くそぅ、かわいいじゃないか。

「あ、そうだ乙さん。ここにおちょこがあるじゃないですか」

「ん? ああ」

 いつの間にか、足元にお猪口が置かれていた。

「そのおちょこが穴だと思って覗き込んでみてください」

「……わかった」

 よく分からんがここは従っておくか。

 四つんばいになって右目で覗く様にする。

「それで、さっきの言葉を言ってください」

「え、この体勢で?」

「ええ、そっちのほうが聞こえ易いと思いますので」

「……わかったよ。俺、日和のことが好きだ」

「無様ですね」

「え?」

「まぁ、いいですよ。付き合ってあげても。まずは、私のつま先でもなめてください」

「はい、ありがとうございます。日和様」

「語尾にぶひってつけて下さいよ」

「ぶひいいいっ」



――――――



「って、なんじゃそりゃあああっ……なんだ、夢か」

 目を覚ましてほっとする。ここは、日和の部屋だ。どうやら、日和の部屋でねむっていたらし……い?

「すぅ、すぅ」

 俺の隣にはワイシャツにショーツ姿の日和がいた。

「うっ……」

 鼻につんときたので慌てて抑える。

 朝の日差しは、まだ強烈ではない。時刻を見るといつもより一時間ほど早かった。

 もう一度、日和を見た。

 愛しさがこみ上げてくる。好きになれた自覚を、俺に与えてくれた。

「……って、いつから俺は好きになったんだ」

「認めろよ」

 脳内天使紅蓮が現れる。無駄に神々しいオーラを放っていた。

「もうこれ以上、悩む必要もないだろ」

 天使の言うとおりだ。

「認めたな?」

 ああ、そうだよ。俺は、日和が好きなのだ。

「じゃあ、次は告白だな」

 告白?

「そうだよ。だって、そうだろ。瑠璃ちゃんも練習していたからな」

 そうだな。だが、俺には必要ない。朝食が食べ終わったらすぐにするさ。

「待て、お前さんは夢のことを忘れたのか?」

 いや、夢は夢だろ。

「あれはな、パラレルだ。お前さんがその道を選ぶと、そうなるんだ。なにより、ムードがない」

 ないだろうとは思いつつ、俺は紅蓮が言うことも最もだと思った。

 朝食を食べ終え、日和は食器を洗って俺はテレビを見ていた。

「日和」

「何ですか?」

「今日の予定、確かなかったろ」

「ええ、まぁ。それが?」

「今日、羽津市が一望できる岡の上の公園に行こうぜ」

 俺が言った後、テレビのお天気お姉さんは告げる。

「今日は夏一番の暑さを記録することでしょう。熱中症には気をつけましょうね」

「いいんですか、乙さん。暑いの嫌いって言ってましたよね」

「……いいんだ。それどころじゃないから。景色を一望できるのなら構わんさ」

「ばりばり雨も降りますから、気をつけてくださいね」

 お天気お姉さんめ。今日はやたらと調子に乗っているじゃあないか。

 俺の苦々しい表情を見て、日和は笑っている。

「大丈夫です、行きましょう。お弁当作りますね」

「ああ、頼む」

 安堵感を覚えて俺はテレビを変えてやろうかと思った。既に、お天気お姉さんの姿はおらず、占いの話に変わっている。

「その占い、良く当たるって女子の間で人気なんですよ」

「へぇ、そうなんだ」

 どうせ、気休め程度だ。それでも占いって言うのを日本人は信じるからなぁ。ちなみに俺の誕生日は一月十一日だ。つまり、山羊座。

「一位は山羊座の男性。気になるあの子に告白しようね」

 よっしゃ。

 いやぁ、信じるもんだね。嬉しいよ。

「この豚がって罵ってもらえるよ」

 既に、夢の中で完遂しちまってる……。

「今日のワーストワンはかに座の女性。気になるあの人からお誘いを受けたら大ピンチ。別の女の子と付き合っていると告白されます」

 そのとき、キッチンで包丁を叩きつける音がした。

「ひ、日和?」

「……その占い、良く当たるって評判なんですよねぇ」

「あ、当たらなければどうということはない」

「当たったら、大惨事ですね」

 そうですね、まな板が切れるってよほどのことですもんね。

「……ふむ」

 ふと、神のお告げか知らないが……つい、胸を見てしまった。

 そうですね、まな板(日和)がキレるってよほどのことですもんね。

 ご機嫌斜めが天気に影響したのか、外に出て数分後に雨が降り始めた。たどり着く頃には雨脚も強く、俺ら以外に人は居ない。屋根はついているのでぬれる事はなかった。

「はぁ、最悪な気分です」

 ムードもへったくれもねぇって奴だ。

 だが、ここはそれを乗り越えていこうと思う。

「食う前に、言いたいことがあるんだ」

「女ですか」

「いや、違う。占い引きずりすぎ」

「ぶぅ」

 むくれた表情も可愛いが、ここは流させてもらおう。

「俺、日和のことを好きになっちまった。どうすりゃいいんだろうか」

「……そんな告白、嫌ですよ」

 そういってぷいっとそっぽを向いた。

「悪い。俺、お前のことが好きだ」

「……また別の告白してください」

「お前が欲しい」

「もっと、だだ下がりのテンションをあげてください」

「お前の味噌汁を毎日食べさせてくれ」

 思えば、ここ最近は毎日食ってるな。

 それから俺は様々な告白を続けた。

 数分後、ようやく日和が顔を上げてくれた。

「合格です」

「上から目線だな」

「じゃあ乙さんとは付き合いません」

「そうか、短い関係だったが楽しかったよ。じゃあな、日和」

「わぁっ、ちょっと待ってくださいってばっ」

 腕に抱きつかれて、引き止められた。

「出会ったときと印象が違うよ」

「それは……あくまで乙さんの前だからです。乙さん以外ではきちんとした態度を取っていますからね」

 そうだったかな。

 ま、いいや。

「夏休みも、もう終わるんですね」

「そうだな」

 二人で雨の止まない羽津市を見渡す。

「夏休み前に告白していたらなぁ、楽しい夏休みを過ごせていたんだが」

「そうですか? 私は充分、楽しかったですよ。それに、夏休みはまだ終わっていませんからね」

「仕事あるだろ」

「確かに。その通りですが時間なんてたくさんありますよ。乙さんさえよければ私はあの部屋に居続けますから」

「そう、だな。まだいてもらおうかな」

 歯止めが利かなさそうだけれど、多分大丈夫だ。何の根拠もないけどな。なぁに、お金はあるし、どうにかなるだろ。

「乙さんのお師匠様にこのこと報告しますか」

「まぁな。一応しておくよ」

「じゃあ、あさっていきましょうか……小姑のところへ」

「おいおい、師匠をあまり怒らせるなよ」

 そして後日、俺は師匠に付き合うことになったと告げに行く。

 その時、日和が小姑なんて言ったせいで大変なことになるのだが、また別の話だ。


今回で最終回です。当初の予定通り、放り出すことなく終わらせられてほっとしています。もうちょっと話を広げるつもりでしたが各々の話のせいで混乱を招きそうで(読者ではなく、作者側の)出来ませんでした。次回作は[気になる]シリーズをもう一度の予定です。

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