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エンキリZ  作者: 雨月
43/44

T7:千春、見つける

 朝起きたら、千春がいなくなっていた。



―――――――――



「ついに、破局かぁ」

「うわああああああ、やめろ、紅蓮っ。そういうこと言うの、マジ止めろっ」

 調査部部室で俺は男泣きしていた。携帯電話、自宅電話……連絡したのに無反応。失って初めて気づく大切な存在……なんて、いなくなる前から大切だって知っていたよっ。

「ちゃんと部屋の中は探したの?」

「探したっ。トイレも、下駄箱も、どこもかしこも預金通帳の中も探した」

 早百合の言葉に俺は力なくそう答えた。

「あ、あの、乙さん」

「何だ、三枝」

「元気出してください。その、乙さんさえよければわたし、今晩泊まりますよ」

「いや、それはいい」

「そ、そうですか。慰めようかと思ったんですけど」

「お気遣いに感謝する」

 三枝は意外にいい奴である。そんな優しい人間に迷惑はかけられない。

「乙先輩、千春先輩が出て行くようなことしたんじゃないですか? たとえば、喧嘩が原因なんじゃないかな」

 波崎の言葉に俺は脳みその中の記憶を穿り返してみた。

「……してないと思う」

「んじゃ、何か変なことをしたんじゃないのか」

 変なこと、ねぇ。

 思わず俺は無言になってしまった。

「あ、これは思い当たった顔だな」

「ち、ちげぇわい。胸に顔をうずめたり、その他色々とちょっかいだしていたけれども、それと出て行く理由が繋がらないっ」

「うわ」

「乙先輩の変態」

 男は変態なんだよ。好きな女の子限定だけどな。それ以外に対しても変態だとポリスメンに追いかけられて人生に縛りを加えることになる。

「まぁ、真面目な話、何かこれまでと違ったところなかったのか」

 紅蓮の言葉に俺は聞き返していた。

「何かって?」

「顕著な例で言うのなら、態度だろうな。よそよそしかったとか、冷たかったとかだ。普段と違うことが怪しいんだよ」

「ん、普段より優しかったな。色々やっても、怒らなかったから……いたっ」

「あんた千春になにやってるのよっ」

 早百合、痛いぞ。別に俺は千春にへんなことしてない。文章に書き起こしても○○○や○○○○が伏字になるわけないだろ。自主規制にならずにちゃんと表示されるぎりぎりのラインだと俺は思うね。どうせ、規制がかかったとしても一文字程度さ。全部が全部、消えるわけがない。

「他に、何かないのか」

「そういわれると……そうだな、両親の話をされた」

「両親の?」

「ああ、千春の両親の話」

 言っていいものかどうか悩んで、なんとなく早百合を見た。

「問題はないでしょ。千春は広められても問題ないことしか言わないからね」

「そっか」

 俺は調査部に千春の両親の話をしてみせた。みんなは、どんな気持ちを抱くのだろうか。

「彼女のデリケートな話を他人にするのは男的にどうかと思うわね」

 まず真っ先に戴いたお言葉は早百合からの批判であった。

「何で俺はあっさり手を返されるのか」

「人徳のスキルが足りていないんだよ。まず、調査部の個々と親密になっておかないとだな」

「そして、私とさらに仲良くなるんですね」

 三枝の目が輝いている。何故だろうか。

「……で、俺はどうすればいいのだろう」

「てめぇの罪は二つだ。そして、俺が裁く」

 紅蓮に何故だか罪人扱いされてるし。

「何だかよく分からないうちに罪人にされちまった。波崎、助けて」

「あ、警察ですか? ええ、罪人が……」

 ホームだと思ったら実はアウェーでした。四面楚歌とはこのことか。囲まれたら致し方ない。逃げ道は空か地中しか残っていない。天上人になって反撃ルートか地中人になって侵略ルートを選ぶ権利がもらえたってわけだ。

「それで、俺の罪って何よ」

「一つ、いちゃいちゃしていた。二つ、彼女が出て行ったのに悠長に部員とふざけている」

 ふざけているのはお前らだ。

「よって、極刑。ムービーの刑」

「ムービー?」

 はて、ムービーの刑とは何ぞや。

 もしかして、いつぞやのユーマや、おばけ関係のムービーを見せられるのだろうか。

 そう思っていたら、早百合がビデオカメラを回し始めた。何ら、問題なさそうだ。

「あの、乙先輩」

「波崎?」

 気づけば紅蓮が三枝を抑えており、早百合は俺達から離れて構えている。

 波崎は俺の手をとると、自身のお腹に持っていった。薄着のためか、ぬくもりが右手に伝わってくる。

 千春とはまた違った温かさだった。

「わかりますか?」

「え、何が?」

 お腹のぷにょり具合? ちょっと指でお腹をやさしくつまもうとしたら動かれた。

「ひゃふっ、も、もう、動かないで下さいよっ」

「ごめん」

「ふ、ふむぅ、何だか意外と乙先輩って従順なんですね。これは千春先輩やら日和が惹かれるのもなんとなく、分かる気が」

 よくわからんが、大人しくしていよう。

「ふにょおおおお、瑠璃、代わって」

 紅蓮に掴まれながらも、三枝は一生懸命騒いでいた。

「夕暮れの部室での出来事、覚えていますか」

「いや、知らん」

 覚えてないぞ。何のことだ。

「初めてだったのに、ものすごく激しくしてくれましたね……あの時の子ども、出来ちゃいましたよ。パパ」

「ぱ……」

 パパだと?

 困惑した俺の胸に顔をうずめて、瑠璃は動かない。

「大好きです」

「むきょおおおおお」

 もはやサルになってしまった三枝ではあるが、紅蓮も頑張っている。エンキリ相手にあそこまで頑張れるとは意外と凄いな、紅蓮。

「よし、カット。いやぁ、波崎ちゃん、いいものが撮れた」

「本当ですか。よかった」

 いや、良くないだろ。

「あああ、乙さんが……乙さんがクズに、クズにされてしまった」

 部室の端っこで、三枝が涙している。

 まぁ、それは置いておくとして。

「どういう意図でさっきの茶番を撮ったのかわからない」

「先輩に見せようかと思って」

「さっきの動画を?」

 見せても何ら変わらないと思うが。

「それより、その動画絶対に他人に見せるなよ。波崎が学園にいられなくなるぞ」

「おっと、まさかの瑠璃ちゃん脅迫用の動画になってしまったのか」

「ええっ、私ですか」

「瑠璃が言うことを聞かなかったら学園のネット掲示板に貼っておこう」

 瑠璃は上級生思いのいい奴である。本当、とばっちりだ。

「うう、酷い、せっかく恥ずかしさを我慢してやったのに」

 思えば、ほかにも告白の練習なんて恥ずかしい真似をしているからな。

「だったら、あたしに代わってくれても……」

 三枝がそういって二代目立候補と書かれたたすきをかけて手をあげていた。

「三枝ちゃんには恥じらいが足りてない気がするんだよな」

「紅蓮先輩に何が分かるというのでしょう」

「スリーサイズと今日の下着の色」

「ひっ」

 冗談かもしれないがその手の冗談は止めておいたほうがいいぞ、紅蓮。

 瑠璃にも変態と罵られ始めて紅蓮はさすがにへこんでいた。その後も、三枝からの蹴りやら何やら食らい始めていた。

「ま、脱線はともかく……千春のこと、もっと信じてあげなさいよ。もし、信じられなくなったらわたしのところに来なさい」

 俺の肩を叩き、早百合は笑っていた。

「何、あんたも俺のこと慰めてくれるの?」

 冗談っぽく訊ねると軽く頷かれた。意外だ、絶対にうぬぼれるんじゃあないといわれる覚悟していたのに。

「当然。だって、友達の彼氏だもん」

「……俺、早百合の友達じゃないの」

 しばらく俺の顔を見て、早百合は満面の笑みで頷いた。

「まぁね」

「ひどい」

「親友だからね。姉さんのことで世話になったから今度はわたしが世話してやるわ」

 千春がいないのは寂しいけれど、俺にはまだ、皆がいる。

 こういうことを実感する機会なんて早々ないな。

「思ったんだけどさ、エンキリは糸が見えるのならその糸を伝って会いに行けばいいんじゃないの?」

「……残念ながらまだ俺は自分の糸が見えるほど能力は高くないんだよね」

「そう」

 それが出来れば楽だろう。

「さぁて、そろそろあの変態を助けてあげるかな」

 そういって三人に早百合は向かって言うのだった。

「ありがとな」

 ぽつりといった俺の言葉は誰にも届いていないのだろう。

「おい、今あいつありがとうって言ったぞ。ぼったくるチャンスだ」

「え、本当ですか。じゃあ、乙さん、私と結婚してください」

「……まった、日和。その役目今日はわたしに」

 騒ぎ出す部員に俺はため息をついた。

「殊勝ね。千春がいないとやっぱり寂しい?」

 早百合の言葉に俺は首を振った。

「違うさ。身近な友達のありがたさを痛感しただけだ」

 騒ぐ部員を見て俺は改めてこの部活に入れてよかったと思った。まぁ、部活として機能していない気がするけどな。



――――――――



 千春がいなくなって一週間が経った。

 俺はまるで抜け殻のような生活を送っていた……というわけでもなく、そこは部員達のおかげでちょっとした寂しさを紛らわすことが出来ていた。

「ん?」

 アパートへ帰り着くとちょうど三人の親子がいた。

「え、千春?」

 連絡もなくいなくなれば、その逆も然り。まるで猫だと感じた。

「乙、ただいま」

 ぽかんとする俺と違って、微笑んでいた。これが一ヶ月や、半年、一年だったらもっと違った反応を俺はしていたかもしれない。

 彼女のことを信じていたためか、ちょっと帰りが遅くなった程度にしか思っていなかった。

「それでその、そちらの二人は? もしかして、千春の両親?」

 目鼻顔立ちは全然違うようだが。何だか、俺に似ている気がする。もしかして、千春は俺の遠い親戚だった?

 しかし、いや、待て。両親だと? 両親連れて俺の部屋に戻ってくるってどういうことだ。あれか、結婚かお付き合いの確認にやってきたのか。

「大きくなったな、乙」

「本当ね」

「へ?」

 幼少の頃、あっているということか。ふむ、やっぱり親戚?

「この二人は乙の両親。わけあって、乙から離れて暮らしていたの」

 自分の彼女からそういわれて、俺は困惑するしかなかった。

 いや、でもまぁ、せっかくつれてきてもらったんだし……。悪いよな。

「え、えっと、お父さんとお母さん?」

「そうだ」

「そうよ……あなた、まだ乙は困っているみたいね」

「そりゃあそうだろうな。うん、乙。お前が落ち着いたとき、私達と会える様になったら話をしよう」

「そうね。それがいいわ」

「は、はぁ。俺もそれでいいですけども」

 二人はそういって帰っていった。当然、残ったのは俺と千春だ。

 俺の頭の中では疑問符で一杯一杯だ。

「あの、どうして?」

 今更、何故に俺の両親が現れるんだ?

「そりゃあ、将来結婚を認めてもらうには親に聞いたほうがいいでしょ。私、あなたの師匠は苦手なのよ」

 師匠とも会っていたのか。ふむ……まぁ、俺は馬鹿だから考えてもしょうがないな。

「言いたいことは色々とあるけれどさ、千春」

「うん、何?」

「おかえり」

「ただいま」

 今は、千春が帰ってきたことだけを喜ぶとしよう。あの二人のことは、今後千春に聞けばいい。

 なに、時間はたっぷりとある。焦らず、二人でやっていければ上手くいくのだ。


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