184列車 終着と出発
2月下旬。もうすぐどこの高校でも卒業式がある。しかし、そういかない高校も現実存在しているか・・・。僕は自動車学校に通ってはいるけど、なかなか運転のノウハウというものをつかめずにいた。
「はぁ。もう自動車学校なんて来たくないんだけどね。」
萌にそう漏らした。
「・・・ナガシィってどっちで免許取りに来てるわけ。」
「えっ。オートマだけど。」
(オートマかよ・・・。)
「オートマで難しいとか言ってるわけ。マニュアルならわかるけど。」
「あれ。萌ってマニュアルなの。」
「えっ。私だってオートマだよ。マニュアルなんて運転操作がメチャクチャで覚えられないもん。」
「・・・あー。もう車なんてどうでもいい。」
「どうでもいいわけないでしょ。来てる意味ないじゃん。」
「いや。もうそれでいいよ。交差点の5倍危険が潜んでる道路なんて走りたくないし・・・。いいよ。俺の交通手段チャリだけで。」
(交差点の5倍の危険かぁ・・・。)
「そう言えば、萌ってもう路上走ったりした。」
「えっ。うん。」
「じゃあ、何とか合格してよ。」
「・・・。」
萌は僕から視線をそらして、
「はぁ・・・。私もぐれちゃおうかなぁ・・・。」
「えっ。萌はぐれるなよ。そしたら、運転できる人いなくなるじゃん。」
「・・・そうだね。」
今日は偶然にも終わる時間が同じだった。久しぶりに二人で電車に乗った。まぁ、それまで来るのが2000形でないことは分かっていたから、結構時間が経たないと来ない列車を自動車学校の暇つぶしできるところでつぶしてからだが。
「ナガシィ。3月1日遊びに行っていい。」
「えっ。いいけど、お前その日自動車学校無いの。」
「あるわけないでしょ。その日まで自動車なんか運転したくないし。それに、ナガシィ自動車学校行く日が少ない分遊びまくってるんでしょ。」
頭に手をやった。
萌と返った時間はほんの一瞬で終わってしまった。帰ったら僕は萌が言ったとおり離れに入って模型で遊ぶだけ。今日は午後が暇だったからという理由で萌も来ていたけど、自動車学校で結構疲れているようにも見えた。僕もその気持ちは分かる。車の運転は疲れるということが。というよりも僕と車は相性的に言って1000パーセント合わないと思っているから、余計疲れるのだろう。
3月1日。卒業式。女子のほうは涙を浮かべている人が少なくなかった。男子のほうは必死に我慢しているように見えた。僕だって我慢していた。こういう時に流すようなものではない。卒業式が終わると全員で最後の話をしていた。ここに残る人や同じ学校に行くあてがある人はそれからも同じだというのに・・・。僕はそういうのが嫌いだし、足早に抜け出そうと思った。
「永島。ちょっと待てよ。」
宿毛に呼び止められた。
「中学の時と同じかよ。そんなに早く帰ったっていいものないだろ。もうちょっと他のやつらと話なんかしないのかよ。」
「前言っただろ。」
僕は一言言ってから、抜け出した。
「クラス会の時は呼ばなくていいんだよな。」
宿毛が確認するように聞いてきた。
「それも中学の時と同じ。絶対にクラス会呼ぶんじゃないぞ。暇な時が多分ないから。」
「毎日暇だろ。」
宿毛はそう言ってからすぐに、
「ああ・・・。そうだったな。」
僕にかすかに聞こえる声でそう言った。
「大阪いって、そこでくたばるんじゃないぞ。必ず、ここに戻って来い。」
「必ずね・・・。保証はないけど、戻ってくるつもりだよ。」
僕はそう言うと宿毛の姿が見えなくなるのを確認して、すぐその場から消えた。
宗谷学園では・・・。
「黒崎。前も言ったけど・・・。」
ちょっと切り出しづらい。顔がほてるのが分かる。それを乗り越えない限り言葉にならない。何とか口を開いて、その声を出した。
「俺は・・・お前のことが・・好きだ。」
小さく黒崎がうなづいたのを見る。
「それで、すぐ付き合いますじゃなくて、一つだけ。黒崎に頼みたいことがあるんだけど・・・。」
「何。」
いったい何をお願いしてくるのだろう。
「ごめん。2年。2年だけ待ってくれないか。」
目を閉じて、頭を下げた。そして、さらに続けた。
「俺、名古屋の専門学校に行くんだけど、その間俺は学校の勉強のほうに専念したいと思ってる。だから、黒崎と付き合うっていうのはそのあとになる。それでも、俺を信じて待ってくれないかってこと。」
「・・・待つよ。」
小さい声で回答が返ってきた。顔を上げる。
「何年でも待つよ。だから、ちゃんと2年間頑張ってきてね。」
「・・・ああ。必ず戻ってくる。こっちに戻ってくるときはメールするからな。」
と言って走り出した。
(俺。お前に誓って、頑張って来るよ。この2年で、俺はお前を俺のものにする。)
一息つくと、どこからともなく薗田と磯部が出てきた。
「全部聞いちゃったよ。梓。」
「えっ。」
それを聞いたとたんに我に返された。顔が一気に真っ赤になったと自分で感じた。
「やっぱり、梓は鳥峨家君のことが大好きなんだ。いいなぁ・・・。」
うらやましそうな声は磯部。いないんだなぁ。彼氏が・・・。今はそんなことどうでもいいかぁ・・・。端岡の姿もあったけど、坂口の姿だけはなかった。もう帰ってしまったのだろう。他の人と話してる余裕はないのだろうか・・・。
「あっ。鳥峨家が梓に告るところ録音し忘れてた。」
薗田が頭を抱えてその場にうずくまった。
「いやぁ。安希まだチャンスはあるって、梓の結婚式の時に録音しとけばいいじゃん。」
「違うでしょ。結婚式のときは録音じゃなくて録画でしょ。梓と鳥峨家の熱愛キスシーンを撮るために。」
「そんなの撮らないでよ。」
「いや、絶対撮って、小学校・中学で同じクラスだったやつと一緒に見てやる。」
「・・・。」
そんな話は・・・。鳥峨家が走って行った学校の正門のほうを見た。
(これで、よかったんだよね。)
あの時感じたことは何も間違ってないということを確信した。
一方。
(永島のやつ。どこ行ったんだ。あいつに言いたいことあったんだけどなぁ・・・。)
探し回っていると永島ではなく宿毛の姿が目に入った。宿毛に永島がどこが聞いてみた。
「ねぇ、宿毛、永島どこにいるかわかる。」
今さっきこの学校からいなくなった。
「永島だったらもう帰っちゃったよ。」
「えっ。」
「・・・何かあいつに言いたいことでもあったのか。」
宿毛は察したようだった。
「いいたいことがあったら、俺から伝えとくけど。」
「いいよ。自分でいわないとダメって思ってるから。」
そのこととは。あの日のことである。もしあの日。永島があの場にいなかったら、自分は今どうしていただろう。自分も趣味を全く生かそうとしないところに行って満足していただろうか。恐らくそんなところに収まってしまっているだろう。あの日から自分人生が変わってしまったといっても言い過ぎじゃないくらい変わった。永島のおかげだし、一度はお礼を言いたい。
「・・・そう言うことあいつに伝わるかなぁ。」
宿毛がそう独り言を言った。
「どういう意味。」
「いや、あいつ、そういうのが嫌いだからなぁ。自分の気持ちの問題って思ってるからだと思うけど、気持ちが変わったぐらいじゃあ、あいつは突っ返すと思うなぁ。」
「・・・。」
睨みつけるような目つきをすると、
「あっ。これは俺の偏見だから、気にしないで。」
と付け加えた。
「・・・。」
「榛名。」
留萌に呼ばれた。
「最後ぐらい、全員で集合写真でも撮らないって醒ヶ井が言ってきたからさぁ。」
留萌はあたりを見回すと、
「あれ、永島君は。」
と聞いてきた。
「クラスの人に聞いたらもう帰っちゃったって。」
「はっ・・・。あいつ。勝手に・・・でも私たちはまだ専門で同じかぁ・・・。」
留萌はそう言ってから、箕島たちが集まっているところに戻っていった。それについていくと、写真撮影を提案した醒ヶ井、箕島、佐久間の姿があった。こういうことを提案するのは佐久間じゃないのかと思ったが、それは置いといた。
「さぁ、全員で失業式の看板の前で写真撮るぞ。」
(卒じゃなくて・・・。)
(あながちウソじゃないかぁ・・・。)
というのは今日を持って自分たちは学生という職を失うからだ。そういう意味では卒業式は失業式になってもおかしくはない。まぁ、聞こえは悪いが・・・。
「あれ。永島のやつ見つからなかったのか。」
「醒ヶ井が見たんじゃないのか。」
佐久間がそう言った後に、
「全員の集合写真が撮れないじゃん。付き合い悪いなぁ・・・。」
と文句を言っていた。
「まぁ、あいつがこういうこと嫌いなだけだろ。いるやつだけでも撮っちゃおうか。」
箕島がそう言うと全員で卒業式の看板の前に立ち、誰の母かは知らないが、写真を撮ってもらった。
そのあと室蘭と落ち合い、久しぶりに3人で帰路に就いた。
「高校3年間あっという間だったね。」
萌が切りだしてきた。
「そうだな。」
一言答えを返す。
「ナガシィ。一人暮らし、できる自信ある。」
「あるわけないだろ。誰かの助けなしに生きてける自信がない人が・・・。」
そう言ったけど、今ここでこれは困るというのが自分でもよく分かっている。これを克服しない限り、僕は何も勝ち取ることができないのだ。
「2年だよね。」
「ああ。」
「2年でどうにか出来なかったらどうする。」
「その時はその時考えるさ。でも、今は将来のために頑張るだけだろ。」
「うん。」
「俺は絶対にこの2年で、俺の夢を実現できるようにする。それで文句ないだろ。」
「それは私も同じ。」
「じゃあ、お互い頑張ってこようぜ。燃え尽きるまでな。」
「うん。」
萌と手をつないだ。この手のぬくもりに僕は誓う。この2年が僕の勝負だ。そして、この2年で僕が破れたら、その時は何も残っていないということだ。
大きく息を吸い込んだ。
(やるぞー。)
声に出さない声がこだました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
本当にありがとうございました。なお、遠い未来に永島光が生きていたら、これの続編を作るつもりです。話は当然、笹子観光外国語専門学校が舞台になり、2年間でのナガシィたちの成長を描いていきたいと思います。そこには善知鳥先輩の従弟や鉄道カメラマンの天才と呼ばれる人もいるという設定です。また、宿毛たちの進学先瀬戸学院大学のほうのストーリーも混ぜるつもりです。あらすじ通りになるように頑張って真似のできない自分だけのストーリーを作っていきたいと思います。
そうだ。本当に作者から言いたいことが一つあります。これ書いたのおっさんじゃありませんよ。年齢明言できませんが20歳以下です(事実)。