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『彗星の指揮官は今日も無茶を言う』
第一章「天才パイロット、星の海へ」
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それは、宇宙暦2099年、とある新造艦の艦橋で起きた、極めて不本意な邂逅であった。
「ふっ……なるほど。これが伝説の新造艦ツクヨミ。私に相応しい舞台というわけですな」
星野コウタは、人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げる仕草をした。眼鏡はかけていない。伊達すらない。ただの素顔である。制服の襟は立っていた。本人曰く「孤高の戦士の証」だそうだ。
「コウタくーん! 待ってたよ!」
蜂蜜色の髪を揺らしながら、少女が全速力で駆け寄ってくる。美浜ユズハ。このツクヨミの艦長である。小柄な身体にブカブカの艦長服。大きな瞳はキラキラと輝き、今にも飛びつかんばかりの勢いだ。
「おや、艦長。ご機嫌麗しゅう」
「もー! そんな堅苦しい喋り方しなくていいのに! ユズハはコウタくんに会えて嬉しいよ!」
「ふっ……私は常に、この口調ですので」
嘘である。三秒前、艦橋の入り口で深呼吸し、「よし、今回はカッコよく決めるぞ」と小声で呟いていたのを、私は知っている。
「そうなの? まあいっか! それよりコウタくん、今日からユズハの専属パイロットだね!」
「専属……まあ、結果的にそういう配置ですな」
「わーい! ユズハ、コウタくんと一緒に戦えるの、ずっと夢だったんだ!」
ユズハは無邪気に両手を上げて喜んだ。艦橋のクルーたちが生暖かい目で見守っている。私はそんな光景を、少し離れたコンソールから眺めていた。
「……星野訓練生」
私は呼びかけた。本当は「コウタ」と呼びたい。でも、そんな資格は私にはない。彼は私のことなど、ただの「口うるさい少尉」としか思っていないのだから。
「おや、蒼井少尉。なんですかな」
「貴方、今日の出撃前チェックリスト、まだ提出してませんわよね」
「……っ」
コウタの気取った表情が、ほんの一瞬だけ崩れた。
「ふ、ふっ……あれは敢えて提出しないのです。私の動きは既に完璧。チェックなど不要」
「論理的ではありませんわ。規則です。さっさとお出しなさい、この……雑魚」
「ざっ……!」
彼のこめかみがピクリと動く。私は心の中で「またやった」と自分を責める。違うの。本当は「心配だからチェックしてほしい」って言いたいだけなのに。素直になれない自分が憎い。
「アイリちゃん、コウタくんいじめちゃダメ! ユズハのコウタくんなんだから!」
「……別に、いじめてなどいませんわ。規則を伝達しただけです」
ユズハはコウタの腕に抱きついた。彼は「ふっ……艦長、お離しください。私に女など不要です」と言いながらも、耳が少し赤い。気のせいだろうか。
「えー? でもユズハはコウタくんが必要だよ! 大好きだもん!」
「……その、だから、私は宇宙の真理を追求する孤高の戦士でありまして」
「ユズハ、コウタくんのそういう難しいこと言うところも好き!」
「…………」
コウタが言葉に詰まった。彼は女性に好意を向けられると、いつもこうだ。「ふっ……」で誤魔化して、逃げようとする。それを可愛いと思ってしまう私は、きっと重症なのだろう。
「コウタくん、今日のランチ、ユズハと一緒に食べよ! ハンバーグ取っておいたよ!」
「……ハンバーグ」
「うん! コウタくん、好きでしょ?」
「ふっ……私は精神の糧のみで生きる者。食事など」
「でもお腹すくよ? ユズハ、コウタくんと一緒に食べたいなー」
私は二人の会話を聞きながら、手元の紅茶を一口含んだ。ハンバーグ。先週、非番の日にこっそり食堂で彼が美味しそうに食べていたのを覚えている。ユズハはそれを知っていた。私は知らなかった。いや、知ろうとしなかっただけだ。話しかける勇気がなくて、遠くから見ているだけだった。
「……星野訓練生」
「なんです、少尉。私はこれから艦長と」
「報告書、早く出しなさい。さもないと、ハンバーグにありつけませんわよ」
「…………承知しました」
コウタは渋々、タブレットを取り出した。ユズハは「やった! コウタくんとランチ!」と無邪気に跳ねている。私はため息をつき、自分のコンソールに向き直った。
これでいい。私は彼の隣に立てるような人間じゃない。毒舌で、素直じゃなくて、好きな人に「雑魚」としか言えない。そんな私が、彼に釣り合うはずがないのだから。
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警報が艦橋に鳴り響いたのは、その三十分後のことだった。
「艦長! 前方に未確認航行物体! 数は……一機です!」
「識別は!?」
「できません! データベースに該当なし……いえ、これは通称『ドリフター』の生体反応と一致します!」
艦橋の空気が凍りついた。ドリフター。高次元を漂う未知の生命体。連合宇宙軍の最新魚雷すら、そいつの表面で次元の歪みに呑まれて消える。常識的に考えて、撤退一択の状況だ。
なのに。
「面舵いっぱーい! ドリフターさんの頭のてっぺんに向かって進むよ!」
ユズハが無邪気に叫んだ。艦橋のクルー全員が「えっ」という顔をする。私も一瞬、言葉を失った。
「艦長! 根拠は!? 常識的に考えて、接近は自殺行為ですわ!」
「根拠? えっとね……なんとなく!」
「なんとなく……!?」
私は頭を抱えた。まただ。ユズハはいつもこう。根拠なんてない。でも、彼女の「なんとなく」は、なぜかいつも正しい。私はその「なんとなく」を、必死に理論で補強する役目を負っている。
「……わかりましたわ。少々お待ちを」
私はコンソールを叩き、ドリフターの生体波長を解析し始めた。ユズハがさっき、何気なく端末に描いた落書き。ネコのような、宇宙人のような、よくわからない絵。その線の周波数パターンと、ドリフターの表面振動を照合する。
「……ありましたわ」
「わあい!」
「頭頂部だけ、高次元境界膜の位相が逆転しています。通常兵器は反射されますが、ここに強い電磁パルスを撃ち込めば、空間ごと“しゃっくり”を誘発できる。生物でいう、横隔膜の痙攣です。理論的には、撤退に追い込めるはずですわ」
「さすがアイリちゃん! ユズハの言いたかったこと、全部わかってくれる!」
私はため息をついた。本当は、あなたの言いたいことなんて、半分もわかっていない。でも、これが私の役目だ。ユズハの直感を、現実のものにする。それで彼女が笑ってくれるなら、それでいい。
「では、パイロットを出撃させます。誰が行きますか」
私が言い終わる前に、艦橋のドアが開いた。
「ふっ……私以外に、誰がいるとお思いですかな」
コウタだった。パイロットスーツに身を包み、気取った微笑を浮かべている。襟は相変わらず立っていた。パイロットスーツの襟は立たないはずなのに、どうやら改造したらしい。
「星野訓練生……貴方、チェックリストは」
「提出しました。全て完璧です」
「……本当ですわね」
私はタブレットで確認した。確かに提出されている。ただ、内容は「全て問題なし。なぜなら私だから」の一言だけだった。私は頭痛を覚えた。
「……雑魚ですわね」
「ふっ……少尉、貴女は私に厳しすぎますよ。まあいいでしょう。歴史の一幕に、私の名を刻む時が来た」
コウタは優雅に一礼し、カタパルトデッキへと歩き出した。その足取りはまるで舞踏会へ向かう貴族のようだったが、私は知っている。彼の手が微かに震えていることを。
「コウタくーん!」
ユズハが駆け出した。艦長の威厳など微塵もない、ただの恋する少女の走り方だった。
「おや、艦長。どうかなさいましたか」
「はい、これ!」
ユズハは背伸びをして、コウタの頬にキスをした。
「ぶっ……!?」
コウタの気取った表情が、一瞬で崩壊した。
「お守りだよ! 絶対に帰ってきてね。コウタくんはユズハのパイロットなんだから!」
「な、なにを……いや、ふっ……私は艦長の所有物ではありませんが」
「ユズハはコウタくんのこと、大好きだもん。だから所有物でいいよ!」
「…………」
コウタは言葉を失った。顔が赤い。私はそれを見て、胸がチクリと痛んだ。
「……星野訓練生」
気づけば、私も立ち上がっていた。手には小さな包み。
「なんです、少尉。私はこれから出撃でして」
「わかっています。これは……その、貴方の好物のチョコレートですわ。栄養補給に」
「ふっ……お気遣い感謝します」
コウタが受け取ろうとした瞬間、ユズハが間に割って入った。
「あー! アイリちゃん、抜け駆けはずるい!」
「なっ……抜け駆けではありませんわ! これは戦術的補給物資で……!」
「ユズハだって、コウタくんにいっぱい好きって言ってるもん! アイリちゃんはいつも毒舌ばっかりじゃない!」
「そ、それは……!」
私の顔が熱くなった。
「うるさいですわね! わ、私だって……その……星野訓練生のことを……」
「ことを……?」
「…………なんでもありませんわ! さっさと出撃なさい、この雑魚!」
私はチョコを彼の胸に押し付けると、くるりと背を向けて早足で去った。心臓がうるさい。顔が熱い。どうして私は、こんな簡単なことすら言えないのだろう。
「……少尉」
背後からコウタの声がした。私は立ち止まる。
「なんですの」
「ふっ……チョコレート、確かに受け取りました。帰還後に、紅茶と共にいただきます」
私は振り返らなかった。振り返ったら、泣いてしまいそうだったから。
「……お好きになさいませ」
それだけ言って、私は艦橋に戻った。モニターには、カタパルトに向かうコウタの姿が映っている。
「アイリちゃん」
ユズハが隣に立っていた。いつもの無邪気な笑顔ではない。少しだけ、大人びた表情だった。
「アイリちゃんも、コウタくんのこと好きでしょ」
「……違いますわ」
「嘘つき。ユズハ、知ってるんだから。アイリちゃんがずっと、コウタくんのこと見てたの」
「…………」
私は何も言えなかった。ユズハは小さく笑って、続けた。
「でもね、ユズハも負けないから。コウタくんはユズハのだもん」
「……勝手になさってくださいませ」
「うん、勝手にする。アイリちゃんも、勝手にすればいいよ。ユズハは、アイリちゃんがライバルでも、友達だから」
私はモニターを見つめた。カグツチがカタパルトから発進する。その軌道はギクシャクとしていて、まるで酔っ払いの千鳥足だ。
「……やはり雑魚ですわね」
「ふふ、でもユズハは、そういうコウタくんが好きだよ」
私は何も言わず、手元の紅茶を口に含んだ。冷めていた。
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カグツチのコックピット。コウタは操縦桿を握りしめていた。
「ふっ……この私が出撃すれば、戦況など一変する」
モニターに映る自分の顔を見て、彼は満足げにうなずいた。我ながらキマっている。この斜め45度の角度、まさに天才の横顔。
「ツクヨミ艦長より星野機へ。発進シークエンス、スタンバイ」
通信からアイリの冷たい声が流れる。
「了解しました。では、参りましょうか。歴史の一幕に、私の名を刻むために」
「……最後にひとつ。生きて帰ってきてくださいまし。艦長が泣きますので」
「ふっ。私が敗れる姿など、想像できませんな」
カタパルトが火を噴いた。凄まじいGがコウタをシートに押し付ける。
「ぐえっ……! か、身体が……! こ、これは想定内……!」
想定内と言いながら、視界がホワイトアウトしかけている。三秒後、ようやく加速が収まり、コウタは宇宙空間へと放たれた。
「ふっ……まずは第一関門突破ですな」
実際はギリギリだった。パイロットスーツの下は冷や汗でびっしょりだ。
モニターにドリフターの巨大な影が映る。虹色に揺らめく、クラゲのような未知の生命体。想像以上に大きい。そして美しい。
「……これが、ドリフター」
手が震えている。怖い。正直、めちゃくちゃ怖い。でも、艦橋にはユズハがいる。アイリがいる。二人が見ている。
「ふっ……私の敵ではない」
震える手で、操縦桿を握り直す。
「ツクヨミより星野機。ドリフターの頭頂部に接近し、電磁パルスを照射せよとの艦長命令ですわ」
「頭頂部……なぜ」
「艦長が『なんとなく』と。理論的根拠は私が説明済みです。貴方はただ、命令通りに動けばよろしい」
「ふっ……なるほど。つまり、私のパイロットとしての技量が試されているわけですな」
「違いますわ。貴方の生存本能が試されていますの」
コウタは薄く笑った。アイリの毒舌には慣れている。そして、その裏にあるものにも、実はうっすらと気づき始めていた。気づかないフリをしているだけで。
「では、お見せしましょう。私、星野コウタの真の実力を」
スラスターを吹かし、カグツチはドリフターへと向かって飛び立った。
軌道はギクシャクとしている。まるで酔っ払いの千鳥足だ。速度も遅い。正規パイロットなら十秒で到達する距離を、三十秒かけている。
「……やはり雑魚ですわね」
「き、聞こえてますからね少尉!」
「わざと言っておりますの」
艦橋でアイリはモニターを見つめていた。その手は、祈るように握りしめられている。
「……大丈夫ですわ。アイリちゃん」
ユズハがそっと言った。
「コウタくん、帰ってくるよ。なんとなくだけど」
「……艦長の『なんとなく』は、たまに外れますわよ」
「今回は当たるよ。ユズハ、わかるもん」
アイリは小さくため息をついた。
「……そう願いますわ」
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4
ドリフターが動いた。
虹色の触手が、ゆっくりとコウタの機体に向かって伸びる。それ自体に攻撃力はない。しかし、触れたものを高次元へと引きずり込む性質がある。
「ふっ……甘いですな!」
コウタは操縦桿を倒した。機体が急旋回する。はずだった。
「……あれ?」
機体はほとんど動かなかった。スラスターの出力が足りない。いや、そもそも彼は急旋回の操作を知らなかった。教科書で読んだだけで、やったことがない。
「星野訓練生! 右の触手が接近! 回避なさい!」
「わ、わかっております!」
わかっていない。コウタは適当にボタンを押した。機体が変な方向に回転する。
「な、なぜだ……! 私の計算では完璧な回避軌道のはず……!」
「貴方の計算はいつも間違ってますわ! 左です左! いえ、貴方から見て右!」
「どっちですかな!?」
「もう遅い!」
触手がカグツチをかすめた。機体が激しく揺れる。警報が鳴り響く。
「くっ……! ふっ……これしきのこと……!」
コウタは必死に操縦桿を握り直した。視界がぼやける。Gで体が押しつぶされそうだ。
「コウタくーん!」
通信からユズハの声が飛び込んできた。
「艦長……!?」
「大丈夫! ユズハがついてるから! 右! 今すぐ右!」
「しかし右には別の触手が……!」
「なんとなく! ユズハを信じて!」
コウタは一瞬迷った。そして、目を閉じた。
「……了解」
機体を右に傾けた。触手が目の前をかすめる。しかし、その先に――頭頂部への道が開けていた。
「これですわ!」
アイリの声が通信に割り込む。
「そのまま直進! 頭頂部まであと五百! 電磁パルス、スタンバイ!」
「ふっ……当然の結果です」
震える手で、トリガーを握る。頭頂部が近づく。虹色の光が、コックピットを包み込む。
「星野訓練生……生きて帰ってきなさい」
アイリの声が、ほんの少しだけ震えていたような気がした。
「言われずとも」
コウタはトリガーを引いた。
電磁パルスがドリフターの頭頂部を貫いた。瞬間、空間が歪み、ドリフターの巨体が大きくしゃっくりをしたように震えた。そして、ゆっくりと後退していく。
「……やった、のか?」
コウタはモニターを見つめた。ドリフターは次元の裂け目に消えていく。
「成功ですわ……! 星野訓練生、貴方……!」
アイリの声が弾んだ。しかし、次の瞬間。
「警告。機体損傷。エネルギー残量、五パーセント。生命維持装置、機能低下中」
無機質な合成音声がコックピットに響いた。
「……ふっ。計算通りですな」
計算通りなわけがない。コウタは操縦桿にもたれかかった。視界が暗くなる。
「星野訓練生! しっかりなさい! すぐに回収に向かいます!」
「コウタくん! コウタくん!」
二人の声が、遠くなっていく。
「……ふっ。二人とも、うるさいですな」
コウタは薄く笑った。
「私は……孤高の戦士……女など……」
そこで、彼の意識は途切れた。
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医務室。
コウタが目を覚ました時、最初に見えたのは天井だった。白くて、無機質で、とても退屈な天井。
「……ここは」
「コウタくん!」
ユズハが飛び込んできた。そのままベッドに突進し、コウタに抱きつく。
「ぐえっ……! か、艦長……! お離しください……!」
「やだ! ユズハ、ずっと待ってたんだから! コウタくんが目を覚ますまで、ずっとずっと!」
「ふ、ふっ……私は孤高の戦士。女に抱きつかれるなど……」
ユズハは顔を上げ、涙で濡れた目でコウタを見つめた。
「コウタくん、生きててよかった……ユズハ、コウタくんがいないとダメなんだから……」
「…………」
コウタは何も言えなくなった。気取った台詞も、「ふっ……」も出てこない。
「……星野訓練生」
ドアのところに、アイリが立っていた。腕を組み、いつものように冷たい表情。でも、その目が少し赤いような気がした。
「……少尉」
「目が覚めたようですわね。機体は大破。貴方の操縦ミスですわ」
「ふっ……機体など飾りです。パイロットの魂こそが」
「魂だけで戦えますの? この雑魚」
「……ぐ」
アイリはゆっくりと歩み寄り、ベッドの横の椅子に座った。
「でも……まあ」
「……?」
「生きて帰ってきたことだけは、評価して差し上げますわ」
「ふっ……当然です。私が敗れるはずが」
言い終わる前に、アイリがコウタの額を指で弾いた。
「いっ……!?」
「調子に乗るな、雑魚」
「……少尉、貴女は本当に私に厳しいですな」
「当然ですわ。貴方は私の……いいえ、なんでもありません」
アイリは顔を背けた。耳が赤い。
ユズハはそんなアイリを見て、ニヤリと笑った。
「アイリちゃん、顔赤いよー」
「う、うるさいですわ! これは艦内の温度調整が不適切なだけで……!」
「ふーん? じゃあなんでコウタくんが起きた時だけ、いつも赤くなるのかなー?」
「…………艦長、後でじっくりお話ししましょうか」
「ひゃっ! ごめんなさい!」
二人のやり取りを見ながら、コウタは小さくため息をついた。
(……女とは、よくわからんものですな)
でも、まあ。
(……悪くない)
心の中でそう呟いて、彼はそっと目を閉じた。
ユズハの手が、まだ自分の腕に絡みついている。アイリがそっと、テーブルに新しいチョコレートを置いた。
「……ふっ」
コウタは、誰にも聞こえない声で呟いた。
「私も、まあ……その……悪くない気分です」
それは、彼が初めて口にした、気取りのない、素直な言葉だった。




