第二話
最初は伊織視点です。後から瑠依視点に戻ります。
ばたん、とドアが閉まる。
妹の瑠依は一度も俺に視線を向けず、部屋へ入っていった。
「ねぇ、あの子だれぇ?」
「…妹だよ」
「そうなんだー、あんまり似てないねぇ」
「…ほら、早く行こう」
「うん、わかったぁ」
そのまま、ゆみさんと一緒に外へ出る。
彼女は腕を俺に絡ませて歩く。
香水の匂いが鼻についた。
そういえばさっき、瑠依が目の前を通った一瞬違う香りがした。
瑠依も彼氏ができたのだろうか。
ちくり、と胸の奥が痛む。
その心に気づかないフリをして、家を出た。
*****
更新してあった小説を読んで、続きが気になる!と思いながら夕食を作るために1階へ降りる。
いつのまにか兄は家を出たようで家の中には誰もいない。
冷蔵庫にある食材で夕食を作って食べた。
しーんとした家で食べるのはまぁ、仕方ないと諦めている。
いつものことだ。
両親は多忙で夜遅くまで仕事をしたり、海外へ出張に行ったりしている。
私が小学生のときはまだ兄も一緒にいたが、中学生になったら家にいないことがほとんどだ。
あの容姿では相手に困ることはまずないだろうといえる。
まぁ、兄のことなんていい。
課題でも終わらせようと席を立った。
*****
「朝はよくも無視したわね!!」
「瑠依、この子誰?」
「えーと…」
「知らない奴か?」
「いや、知ってる」
――なんで私が兄の面倒ごとに巻き込まれなきゃならないんだ。
このとき、私は朝の自分を呪いたくなった。
「ふぁ…」
時計を確認すると、ジャスト5時。
よし、時間ぴったり。
すみやかに支度し、朝食と弁当を作る。
6時に家を出て、いつもの駅へと急ぐ。
「ねぇ、」
後ろから声が聞こえた。
…私に言ってるわけじゃないだろう。
「ちょっと!!」
今度はブレザーを引っ張られた。
嫌な予感しかしない。
ゆっくり振り向くとそこにいたのはこの辺では唯一の女子高の制服をきた女子生徒だった。
彼女は私をまっすぐ見つめてきている。
これは私に言ってるよね。
「好きなのよ!――伊織君のことが!だから、きょうりょ「断ります」」
またか…。
これは前にもあった。
そのときは、まだ私も面倒だと思いながら協力したのだ。
だが、兄はその子からの告白を断った。
その子は、私のせいで断られたんだと言って私を悪者にした。
なんでわざわざ協力したのに、文句いわれなきゃいけないの。
そう思って私は同じ失敗をしないため、兄への告白を手伝わないことにしたのだ。
「な、なんでよ!私が言ってるのよ!手伝いなさいよ!!」
あぁ、もう。嫌になる。
なんで兄の近くにはこういう人が多いのだろうか。
自分がなんでも一番じゃないと、気がすまない人。
無視していいかな。うん、いいよね。
電車に遅れるし。
そう納得して、駅へ向かう。
「あ、ちょっと!どこ行くのよ!!」
今日の時間割は何だっけ。
「待ちなさいよ!」
洋子の授業があったらいやだな…。
「学校まで行くわよ!?」
あー、そういえば今日部活ないんだ。
早めに帰ってこれるな。
そんなことを考えながら、ふと気が付くと駅に着いていた。
改札もとっくに過ぎていて、電車を待っている状態だ。
そういえば、いつの間にか声が聞こえなくなってた。
学校まで行くとか言ってたような気がする。
よし、授業が終わったら即行で家に帰ろう。
*****
そう思ってたのに…。
「瑠依と一緒にどこか行ったことなかったし、行こうよー!」
「やだ、帰る」
「そんなこと言わずにさー!」
柳井が放課後、部活もないし一緒にどこか行こうと誘ってきたのだ。
嫌だ、早く家に帰って小説みたい。
今日、もしかしたらお気に入りの人のが更新されているかもしれないし。
「何やってるんだ、裕」
山縣が柳井に話しかける。
「あ、龍!瑠依と一緒にデートしようって言ってたのー」
「デートって…」
何言ってるんだ、柳井は。
「そうか…、なら俺も一緒に言っていいか?」
「龍もー?仕方ないなー、今回だけだよー?」
「勝手に話を進めないで。行くなんて言ってない」
「瑠依、俺も言っていい?」
「…部長」
なんでここに、高科先輩がいるんだ…。
学校の有名人〈イケメン〉が3人も揃って、女子たちがきゃー!と歓声を上げた。
「瑠依、だめかな?」
部長に言われれば、引き下がるしかなかった。
「…今回だけ、ですよ」
「やったー!どこ行く?」
「スポーツ用品店があるところがいい」
疲れた…。
休み時間内に寝ようと、また机に頭をつけた。
*****
「朝はよくも無視したわね!!」
やっぱり、居たか…。
「瑠依、この子誰?」
「えーと…」
「知らない奴か?」
「いや、知ってる」
柳井と山縣と一緒に校門を出ると、やはりそこには朝の女子生徒がいた。
「この私を無視するなんて!!ほんっとうにありえないわ!!」
「うわぁ、痛い子…」
ぼそりと柳井が呟く。
すごい、出会って数秒で柳井に痛い子認定された。
彼女はじろりと私を睨みつけ、私の両隣にいる柳井と山縣を見た。
「平凡顔の癖に、どうやってたぶらかしたわけ!?それとも、お金かしら?あら、お金もなかったわね?」
もう一回、無視しようかなぁ…。
ここって校門前だから目立つんだよね。
辺りには人が集まり始めている。
「瑠依、何かあった?」
玄関から少し遅れて、部長が出てくる。
部長は私たちを見た後、女子生徒に視線を向けた。
「この学校の人じゃ、ないよね」
「はい。兄のことが好きなようで、私に協力して欲しいようです」
「なるほどね」
兄と友人である部長はすぐに納得した。
「なによ」
「君、伊織に告白を断られたでしょ」
一瞬、彼女は驚いた顔を見せたが、すぐに取り繕う。
「そんなわけないでしょ!?何言ってるのよ!」
「それでも、諦められないから瑠依に協力してもらって、うまくいかなかったら、瑠依を使って伊織を脅そうとしてたでしょ」
「い、意味わかんないわ!そんなことするはずないじゃない!」
怯えたように部長を見る女子生徒に、部長はゆっくり近づいた。
そして、彼女(女子生徒)だけになにかを言うと彼女はすぐに走り去って行った。
「逃がしていいんですか?」
「うん、もう伊織と瑠依には近づかないだろうからね。ほら、行こうか」
部長はそう言って歩き始める。
「むー、僕の出番なかったー」
「しょうがないだろ、ほら行くぞ」
「待ってー、龍!」
4人で歩き始めると、周りの集まっていた生徒たちもそれぞれ動き始める。
「どこに行くか決まった?」
「ショッピングモールです。…あの、本屋に行きたいんですが」
「瑠依が行きたいならいいよー!」
「あぁ」
皆の許可をもらって、今月の新刊を頭に思い浮かべる。
無駄に疲れる日だったけど、本を買えるならいいか。
零「瑠依を危険に晒すなら、いくら伊織でも許せないな」
瑠「何か言いました?」
零「何でもないよ」
―そのころの伊織
伊「うっ、なんか寒気が…」