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チャプター 26:「エピローグ」

「何だか、落ち着かないよ」

 赤い絨毯を踏みしめながら、ハルとエディは王宮の廊下を歩いていた。二人はメイジ用

の礼装を身につけており、初めて袖を通すハルは、その着心地に違和感を覚え、身をよじ

る。

 エディも似た衣装を身につけていたが、左胸にはいくつかの勲章が光っていた。

 エディが苦笑する。

「我慢しろ。あたしだって好きじゃない」

 足を止め、肩を竦めるハルだが、頭に乗せられたのはエディの右手だった。いつもの調

子で髪を掻き乱される。

「それにな。今日は罰を受ける為に来たわけじゃないんだ。胸を張れ」

「…………うん」

 再び歩き始めたエディに続き、宮殿の廊下を進んでゆく。

 突き当たりの扉が近づくにつれ、ハルの緊張は高まって行く。アルストロメリアの女王

がどんな人間なのか想像もできず、難しい人間ではないか、粗相をしないか不安で仕方が

なかった。

 扉の前に辿り着くと、待機していた侍女に向き直るエディ。

「エディ・シャムロック、ハル・エリオット、勲章の授与に参上いたしました」

「エディ様、ハル様、お待ちしておりました。どうぞ」

 扉を開け、入室を促す侍女。

 ハルは習った通りに、目を伏せエディに続く。視界の外、突き当たりには二人の気配が

あった。

 エディが立ち止まり、跪いた横へ並び、同じように跪く。

「よく、来てくれましたね。アルストロメリアを守りし英雄達よ。顔を上げなさい」

 女王らしき女性の声が聞こえた瞬間、ハルは息を呑む。それは、この場所にいる筈のな

い人間の声。ゆっくりと、恐る恐る顔を上げる。

「シェリー、さん?」

 ハルも、目を合わせた相手も動揺が目に映る。

「あ、貴方は…………」

 お互いに顔を赤らめ、視線を落とす。

「おや…………陛下のもう一つの顔を知っておりましたか」

 オットーはさも楽しそうな笑いを漏らし、二人を交互に見た。

「それはさておき。エディ・シャムロック、ハル・エリオット両名の活躍により我が国は

危機を回避する事ができた。この功績は計り知れないものだ。よって、アルストロメリア

における最高の栄誉、黄花章を授ける。立ちたまえ」

 立ち上がり、エディと同じように敬礼を行う。視線を落としていたシェリルだが、大臣

に促され、侍女の持つ朱色の布から勲章を取り上げると、二人への授与を行った。

 シェリルは息がかかる程近づき、ハルの胸に勲章を留める。心臓は今にも破裂しそうな

程激しく脈打っていた。

 再び跪き、頭を垂れるハルとエディ。

 気を落ち着かせる為か、シェリルは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

「先に大臣が口にした通り、エディ、ハル両名の活躍はとても大きい。領民の命は、貴方

達を始めとした空軍が護ったと言っても過言ではありません。代表として、改めてお礼を

言わせて頂戴。本当にありがとう」

「恐縮です」

 慣れた様子で受け答えするエディとは対照的に、ハルは緊張の為口を動かす事もできな

かった。

「国として金貨の褒章は勿論の事。けれど、それとは別に、私財を以って貴方達にお礼を

したいわ。何か、望むものは?」

 想定外の出来事に、ハルは真っ先にエディを見た。何かを思案する素振りを見せ、考え

が纏まったのか、シェリルへ顔を上げる。

「大変恐縮ですが、彼の部屋を用意して頂けませんか。宿舎に空きがなく、私と同室のま

まなのです」

 エディの要求に、シェリルは微笑を浮かべ頷いた。

「わかりました。宿舎の増築を行う事を約束しましょう」

「ありがとうございます」

 次にシェリルが顔を向けたのはハルだった。

「貴方…………ハルは、何かほしいものがある?」

 名前を呼ばれ、弾かれたように顔を上げるハル。

 お互いに見つめ合ったまま、金縛りにあったかのように硬直する二人。その頬は、目に

見えて赤くなっていった。

 遂に耐え切れなくなった相手が先に目を伏せると、遅れてハルも視線を落とす。シェリ

ルが女王だった事は予想外ではあったものの、きらびやかな衣装に身を包んだ彼女はやは

りハルの知るシェリーであり、それが緊張を和らげて行く。

 気持ちが落ち着き思考の余裕が出た所で、改めて自分の欲するものを思案する。しかし、

母や友人は既に救われており、憂う事もなく、自室までも用意される事になっている。

 真剣に悩んだ末、ふと、シェリルが広場に来ていた、最後のお触れの日を思い出す。ハ

ルは、自分の為に願いを使ってくれたエディに、大好きな食べ物を紹介したくなった。

「一つ、あります」

「何?」

 優しく尋ねるシェリルに、ハルははにかみながら静かに顔を上げた。

「籠一杯の、ビスケットを」

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