第五話【共鳴】
西暦2053年6月15日
東京第三区画
黒い雨が降っていた。
正確には雨ではない。
COLONY TYPE-01――レオン・ハワードの身体から放出されたMARS粒子。
通常の感染体とは比較にならない密度。
近くにいるだけで、人体を侵食する危険な存在。
俺の周囲を、白銀のGAIA装甲が覆う。
「父さん」
目の前の怪物を見る。
「戻ってこい」
返事はない。
巨大な腕が振り下ろされる。
俺は受け止める。
だが、力の差は明らかだった。
進化個体。
それは通常のMARS感染体とは別物。
宿主の肉体。
MARSの能力。
そして、人間の知能。
すべてを持っている。
「……強すぎる」
俺は後退する。
その瞬間。
GAIAが反応した。
『接触』
『情報共有』
「何だ?」
白銀の粒子が、黒いMARS粒子へ触れる。
一瞬。
俺の頭の中に映像が流れ込んできた。
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西暦2048年5月6日
地球帰還施設
父の記憶。
いや。
MARSが記録した情報。
火星から帰還した日。
父は最初から戦っていた。
身体の中へ侵入したMARS。
それは、ただ肉体を奪うだけではなかった。
父の記憶。
感情。
知識。
すべてを読み取っていた。
しかし。
父もまた、MARSを理解しようとしていた。
「お前は……何だ?」
父の声。
MARSは答えた。
『生存』
『適応』
『進化』
父は気づいた。
こいつらには憎しみがない。
ただ、生きるために行動している。
人間と同じように。
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西暦2053年6月15日
東京第三区画
俺は現実へ戻る。
「父さん……」
分かった。
父は最初から完全に消えていたわけじゃない。
ずっと中で戦っていた。
「レン」
父の声が聞こえる。
「聞いてくれ」
怪物の動きが止まる。
「MARSは止まらない」
「奴らは地球を奪いたいんじゃない」
「生き残りたいだけだ」
俺は拳を握る。
「だからって、人間を犠牲にしていい理由にはならない」
父は答えなかった。
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西暦2053年6月15日
対MARS特殊研究施設
千尋は解析結果を見ていた。
GAIAとMARS。
構造。
細胞反応。
エネルギー循環。
「似ている……」
しかし。
完全に同じではない。
MARSは侵食。
GAIAは共生。
同じ生命系統でも、進化の方向が違う。
「レンは……」
千尋は画面を見る。
「この二つの生命の境界にいる」
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東京第三区画
COLONY TYPE-01が再び動く。
しかし。
先ほどとは違う。
黒い粒子が一点に集中している。
父の意識が抵抗している。
「レン……」
「今なら」
「俺ごと倒せる」
俺は首を振る。
「できない」
「俺は父さんを殺すために戦ってるんじゃない」
GAIAが輝く。
「救うために戦っている」
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その時。
空から巨大な輸送機が現れた。
対MARS部隊。
武装した兵士たち。
「対象を確認」
「COLONY TYPE-01」
「処理を開始する」
俺は驚く。
「待て!」
だが、遅かった。
兵器が発射される。
狙いは父。
ではない。
俺と父。
両方だった。
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爆発。
黒煙。
瓦礫が舞う。
通信から千尋の声。
「レン!」
「政府が判断した……」
「進化個体は危険すぎる」
「あなたも同じ対象として処理される」
俺は立ち上がる。
敵はMARSだけではない。
人類もまた、未知の力を恐れている。
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煙の中。
父が立っていた。
俺を守るように。
巨大なMARSの腕で、攻撃を防いでいる。
「父さん……」
レオンの声。
「レン」
「人間を頼む」
黒い粒子がさらに広がる。
しかし、その中に確かな意思があった。
「俺は……まだ父親だ」
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その日。
人類は初めて知った。
MARS感染体の中には。
人間の心を残した存在がいることを。
そして。
レン・ハワードは決断する。
MARSを倒すだけではない。
この戦争の本当の理由を探すことを。
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─COLONY─




