プロローグ:絶望のカウントダウン(Day -1)
2026年12月23日、23時00分。
極東の夜空は、一瞬にして人工の太陽に焼き尽くされた。
始まりは、中国沿海部に配置されたロケット軍の弾道ミサイル陣地が一斉に火を噴いたことだった。
第一列島線を無力化すべく放たれたのは、最新鋭の極超音速滑空兵器(HGV)と巡航ミサイルの混成飽和攻撃。標的となったのは、在日米軍の心臓部である沖縄・嘉手納基地、普天間飛行場、そして在韓米軍の烏山、群山基地だった。
マッハ5を超える速度で変則軌道を描きながら落下する無慈悲な質量は、既存のパトリオット(PAC-3)やイージス艦の防空網を文字通り食い破った。
ドォン、という地響きが嘉手納の夜を揺るがす。
滑走路はピンポイントでクレーターと化し、格納庫で待機していたF-35Aの群れは、離陸の機会すら与えられぬまま爆風に圧し潰された。弾薬庫と燃料貯蔵タンクが次々と誘爆を起こし、炎の柱が夜空を焦がす。
「全指揮通信不通! 司令部とのデータリンクが途絶しました!」
市ヶ谷の統合作戦司令部(JJOC)の大型スクリーンから、沖縄のレーダーサイトの信号が次々と消滅していく。わずか数十分の間に、極東における米軍の前方展開能力は、その翼を完全に捥がれる形となった。
しかし、これは悪夢のプロローグに過ぎなかった。
23時20分。
北緯38度線、静寂に包まれていた軍事境界線が突如として咆哮を上げる。
中国の電撃侵攻と完全に連動し、朝鮮民主主義人民共和国の長距離砲兵部隊が、一斉にソウルを射程に収める数千門の火砲を全門斉射した。
夜空を埋め尽くす曳光弾の雨。ソウルの高層ビル群に容赦なく重砲弾が着弾し、都市の灯りが次々と消えていく。
それと同時に、暗闇に乗じて数個師団に及ぶ北朝鮮の機甲部隊が、T-90系列の主戦車を先頭に、境界線を越えて南進を開始した。
「第2次朝鮮半島有事、勃発……!」
韓国軍、そして生き残った在韓米軍は、文字通り全戦力を投入してこの津波のような南侵を食い止めるべく防衛戦に突入せざるを得なくなった。自衛隊の一部戦力もまた、日本海側の警戒と対馬海峡の防備に割かれ、その意識を北へと釘付けにされる。
極東の米軍が麻痺し、半島に戦力が急吸い上げられていく。
それこそが、北京が描き、平壌が踊った最悪のシナリオだった。
23時55分。
台湾海峡。
制空権と制海権の70%をこの海域に集中させた中国人民解放軍の大艦隊が、漆黒の水平線を埋め尽くしていた。075型強襲揚陸艦の甲板からは攻撃ヘリが群れを成して飛び立ち、最新鋭第5世代戦闘機J-20が、完全にブラインドとなった台湾空域へ滑り込んでいく。
日本の太平洋側に展開する、改修を終えた空母「いずも」「かが」、そして新鋭の中型空母「あかぎ」「しなの」のCIC(戦闘指揮所)には、悲痛なアラートが鳴り響いていた。
防空の要たるF-35Bは、その優れた性能の裏で、極度の燃費の悪さと低い稼働率というアキレス腱を抱えている。この広大な絶望の空を、一体どれだけの時間支えられるか。
九州の地上基地で出撃を待つF-15Jのパイロットたちは、自らが「空飛ぶ弾薬庫」として、ステルス機の牙が狂い咲く地獄へ飛び込む覚悟を固めていた。
時計の針が、12月24日午前0時を指そうとしている。
台湾海峡が完全に激突するまで、あと5分。




