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十二話 橋の上



ネイ達は夕飯を食べた後に宿に戻り、術で生み出した水で交互に身体を清め部屋で待機をしていた。ネイは寝台に寝そべりながら、一日を振り返る。


 ──何だか濃い一日だったな。


ラルサルトを旅立ち、新しい出会い。道中は賊に襲われそうになるが、逃げ切れた。そんな賊達も顔見知りの騎士達に捕まっていた。

貴族・騎士の威厳には驚きを隠せなかった。市井の皆が称賛の声を送り、子供達は憧れの眼差しを向けていた。

自分が飛び出してきた世界とは違う社会的階級と容姿・外見が違う者達。

どうしてこんなにも同じ人なのに違いがあるのだろうか。


ぼんやりとそんな事を考えていると、階段の木床が軋む音が耳に入る。ガシャガシャと鉄同士が擦り当たる音が近づくにつれ、マリアが来たと確信し、扉を開けて廊下の様子を見る。


キョロキョロと周りを見渡す女騎士はネイを見ると軽く手を振りながら此方まで歩みを進める。


「騎士って、意外と市井の憧れなんですね」


「当然だ。クレモルト王国で平民が高尚な身分となれる唯一方法だから、憧れる人は多いであろう。一代限りの栄誉でもあるが、死ぬまで準貴族だ。まあ、代々貴族に支えてきた我が一家は永年騎士家となっているがな」


ネイの揶揄いを褒め言葉だと捉え、鼻息を荒げながら自慢するマリアの顔にネイは面白味を覚える。


「それはご立派で」

「むっ。其方、少々我を揶揄っておるな」


「そんなことしませんよ、それより用件は何でしょう」


「それは…」

マリアの目線が、ベッド横に佇むエシェに向けられる。


「彼女は僕の…仲間みたいなものなので大丈夫ですよ。てか、そんなに内密な用件なんですか?

関わりたくないんですけど」


「そんなこと言うな。まだ、話してもなかろう」



三者の沈黙により、外周の雑音が耳に届く。目を俯き、意を決したようにマリアは真っ直ぐにネイを見つめる。


「ネイ。単刀直入に言おう。其方にオルブライト伯爵様に暫し協力してはくれないか?謝礼は勿論いたそう」


「協力?」


「体良く言うと協力だが、暫し共に戦ってくれはしないか?」


「…。僕は戦事は好まない性分なので…」


「そうか。無理にとは言わないが。ここで再会できたのも縁かと考えてな。我らが王都に向かっているのは王命を拝受してのことだが、おそらく、北の国の戦準備が報告されたためだ。冬前にはオルブライト伯爵領の国境付近で戦になるだろう。王もそれを踏まえて、予備戦略として近衛軍団を派遣してくださる手筈になっている。呼び出された理由はそんなとこだ」


「なら戦力は十分じゃないですか」


「いや、この戦は臭う。」

「臭う?」

「ああ、北の奴らは馬鹿だが、間抜けではない。戦力差は明らかなのは理解している。情報を取りたいが、すでに鎖国中だ。20年戦を仕掛けなかった北のワルガドニアだ。新たな王になったからとて、実績欲しさに戦を起こすか。そんな愚王なら楽なのだがな。まあ、何かがある、わからないがな」


「考えすぎ…ではなさそうですね」

「ああ、伯爵様も同様なご意見だそうだ」

「そうですか」

「まあ、無理にとは言わない。ネイには恩もある。話を聞いてくれただけで十分だ。ありがとう。戦に参加せずとも、従軍治癒師は足りておらんから、気が変わったらオルブライトに来るといい」


「...」

「それでは私は次期領主の馬鹿長男の警護に戻らねば、またな」



マリアが部屋から去った後にエシェと夕食をとり、一息ついた時にネイは頭にマリアの顔が過ぎる。


 ──戦か。

王都に向かい、南方へ向かう旅程を変更して、治癒師として戦に参加することを想像するが、間接的に死人の数を増やすことになることではないかと考える。

 

 ネイの治癒術は術師としての腕前だけではなく、医学的な人体への理解と高度な薬学により、ある程度の傷・怪我などは一瞬で治してしまう。それは怪我人を幾度となく戦地に送り返してしまうことに繋がる。

 龍山街に伝わる昔話では、下山した龍の民が戦に治癒術師として参加し、大量の怪我人を治療したことで、敵国から集中的に魔術を放たれ、戦終了後には鎖に繋がれそうになったとのことだ。

以降、暗黙の掟で治癒術を戦に使ってはならないとなった。


 そのような建前的な理由もあるが、ネイは単純にマリア達の厄介ごとに巻き込まれることを危惧していた。


知人の話を拒むことに良心の呵責が苛まれながらも、そのことを忘れるように眠りにつく。


 翌朝、ネイとエシェは夜明け目前にカタロガの街を出る。カタロガから王都までは馬車で約半日過ぎ。

 宿の女将によると、この時期は昼前に正道が馬車で混み合い、渋滞に巻き込まれ、深夜に王都に到着することになる。

徒歩の場合は1日半から2日は覚悟した方がよいとのことだ。

 渋滞の原因は冬前に商売人達が各地で集めた商品を王都に持ち込むのだが、道中にあるラタンジェロ橋が狭く、橋幅が馬車1台分となり橋前で渋滞となる。橋前では宿場町があり、王都へ向かうものは利用するものが多い。


ネイ達は時間短縮のために正道を利用せず、ラタンジェロ橋まで森を徒歩で突っ切る。森も浅層であるため、危険は少ない。何より観測術師の2人旅だ。正道で人に絡まれるより、気は楽なのである。


朝霧に包まれた森の中を地道に歩き続けると、同じ考えをしているの冒険者か傭兵らしき何組かが先行していた。ネイ達は明らかに面倒な彼らを観測し、避けながら半日過ぎ。昼過ぎにはラタンジェロ橋近辺に到着する。


ネイは大木の枝上から橋には眼科には2町程になる9つの連続した石造りアーチ状の橋を眺める。

大河から橋床までの高さは中々であり、幅は話通り、馬車1台分である。


通行する者を注視すると橋を渡ろうとする商人の馬車の次に甲冑の集団を目にする。オルブライト伯爵軍団の列だ。

先頭集団を騎馬隊、次に馬車を護衛する歩兵と馬車、最後尾は歩兵隊と少数の騎馬隊となっていた。


ネイは視点を変えて王都側の橋門を眺める。

反対側の橋門は歴史を感じた。側壁の巨大な紋様から推測するにクレモルト・カザビナの前身である旧アルカンタラ時代の城壁の遺構の様に思えた。


「この行軍を終えたら僕達も橋を渡ろう。幸い伯爵軍団以外は待ちはないようだね」


2人は枝上から隙を潰す様に行軍を眺めていると、エシェが違和感を感じる。


「ネイ、行軍の前を行く馬車から僅かながら魔力が漏れています」

「魔力?」


ネイはこの距離からだと観測は難しいため、確認はできない。

 2人が違和感を勘づいた時、商売人の馬車は渡り切るも橋門前で急停車した。馬車から出てきた行商人と騎士が口論をし始めた時、ラタンジェロ橋の橋先から巨大な音共に火柱があがる。橋が王都側から爆破し始めたのだ。橋床はオルブライト伯爵軍団諸共崩落し、落下した石材が川の水飛沫と粉塵をあげる。

ネイ達はその光景に一瞬思考が停止するが、気を取り戻す。


「エシェ、橋に向かうよ!生存者を観測してくれ!」

「はい!爆破した商人は離脱を始めました!」

「そっちは無視でいい、急ぐよ」



************************

マリア視点


マリアはラタンジェロ橋を馬で渡り行軍を背後から見守りながらも、橋門の奥に見える王都の城壁に安堵していた。


オルブライト伯爵軍団は領土を出発してから、王都に急行していた。

 近づきつつある北の軍団に対し、国王からの勅令。それは王都からの増援を頂くための王への謁見であった。王都への到着は短い期間の行軍の折り返しを意味する。

 行軍出発当初は副団長として役目を重荷に感じていた。

東の森からルルカナ様を無事に連れ戻すと副団長を任命される。副団長として初の任務であり、それが王に謁見することとなるとマリアも不安があった。


 さらに、御当主様は病床に伏せておられるため、オルブライト家長男アーネスト様にご同行いただいた。

 マリアの中でアーネストは馬鹿な長男坊であった。しかし、御当主様が病で実務をこなせないこともあり、アーネストは代理で実務を行い、次第跡取りとしての自覚ができてきた。

 行軍中にも、現在のアーネストであったら王への謁見だとしても失礼はないだろうと考えていた。到着地を目前としたカタロガの街で我慢できずに兵を連れて娼館に向かったことは些か頭を痛めたが、以前に比べたら比較にならない程の成長である。

以前のアーネストはマリアを見る度に前身を舐め回す様に視線を浴びせてきたものだ。

マリアはそんなことを思い出し、全身に鳥肌が立ち、震わせる。


 そんなことを考えていると、行軍が急停止する。マリアは伝令係の歩兵が後ろに向かってることに気づく。

「どうした。前でなにかあったか?」

「はっ!報告します。行軍を先行している商人の馬車の車輪が壊れた様です。行軍は一時停止します。」

「橋の上でか?」

「はい。その様に伺っております」

「橋の上はならん。後退す『ドォォォーーン』


マリアが発言を終える前に、大きく連続的な爆裂音と共に橋全体が先頭から崩壊し始める。

マリアは咄嗟に下馬し、脱出を試みるが、崩壊した床にバランスを崩した騎馬隊の馬が倒れたことにより転び、橋床の石材と共に橋から落下するのであった。



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