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EPISODE4-7

「ふう~っ。」


 肺に入っていた空気と共に白煙が空中に舞う。

 体に悪いと何度か禁煙したものの、結局今のところ辞める予定はない。

 こういう仕事をしている人間はどうにも喫煙率が高いらしい、職場には匂いが染みついている。

 榊俊彦さかきとしひこはデスクチェアに腰掛けながら煙草をふかしていた。


「いい加減にしないと本当に早死にしますよ?」


 榊に辛辣な言葉をかけたのは彼の補佐役である二宮だ。

 少し前に派遣されたにも関わらず、すでにこれほどまでに先輩を敬わないというのは如何なものかとも思いながら榊は肺に空気を送り込んだ。

 先端が赤く光り、二宮が諦めたように溜息をもらした。


「彼らのデータですか?」


 榊のデスクにあるデータを見ながら二宮はコーヒーを啜った。

 榊は目を向けずに軽くうなずいた。


「この冴原琥珀についての記載が極端にすくないですね。

 どういうことです?」


「ああ、まあ仕方ないんだよ。

 コイツに関しては・・・な。」


 再び煙草をふかした後に、それを灰皿に押しつけた。

 さっき捨てたばかりの灰皿に新たに追加された吸殻は、細い煙を上げながら榊と二宮の間を漂った。

 ポツポツと話し始めた榊の言葉を聞くために、二宮は手近な椅子に腰を下ろした。


「あいつに初めて会ったのは3年前だ。」


 ~~~~~~~~~~


 ―――――!!


「緊急事態、船橋ホテルビルにて災害発生!!

 特殊対策室は緊急出動せよ。

 繰り返す―――――。」


 フロアに響く盛大なアラーム音に眠りかかっていた脳が強制起動させられた。

 このところ大した事件もなく、気が緩みきっていたことは否定できない。

 それにしてもこの異常なまでの状況はなんだ?何が起きたんだ?

 ・・・・・

 ・・・

 ・


「な、なんだ・・・これ。」


 俺が現場に着いたときに見たのはまぎれもなく惨状と言えるものだった。

 ホテルは原型もとどめないほどに倒壊していた。

 さらに俺たちを驚かしたのは


「榊さん!!」


 当時俺の補佐をしていた後輩が現場に先着していた部隊から報告を持ってきた。


「何かわかったのか?

 それと負傷者はどうした?さっきから救急隊員は何をしてるんだ?」


 瓦礫を見たまま放心している隊員に目を向けながら補佐に聞いた。

 しかし、ソイツの顔はお化けでも見たような顔をしていた。


「そ、それが・・・

 2人だけなんです、負傷者。

 それ以外はけが人どころか死体すら出てきていないそうなんです・・・」


「おい、どういうことだ!?」


「わ、わかりません。

 ・・・ただ事件の目撃者から取れた情報だと、ビルの崩壊の少し前にビルを取り囲むように何か文字のようなものが目撃されています。」


「文字?

 魔法か?」


 現場の状況から言ってもまず間違いなく魔法が関わっていることは間違いない。

 だが、俺はこんな状況を作り出す魔法なんか聞いたことがなかった。


「わかりません。

 ただ状況からの判断ではそうとしか考えられません。」


「そうか、何かわかったら教えてくれ。

 それとその2人の生存者はどこだ?」


「それなら先ほど病院の方へ。

 それと未確認情報ですが、どうも崩落の際に強い発光現象もされたようでそのおかげで2人は助かったみたいです。」


 一通りの報告を受けると、俺は早速病院へと赴いた。

 先に意識が戻った一条空という少女から話を聞いた。


「覚えている範囲でいいから、何が起こったか話してくれないか?」


 腕と頭に包帯を巻いただけの軽傷の少女は少しずつ当時のことを話し出した。

 あれだけの惨状にいて、これだけの怪我、疑わずにはいられなかったさ。


 ~~~~~~~~~~


「そうか、ありがとう。」


 肝心な部分はわからなかったが、大まかなところは掴めた。

 崩壊の寸前に現れたのはまぎれもなく魔法陣だったこと

 ただそれは見たこともなく、現代の魔法とは異質なものだったこと

 そして、少女を救ったのは一緒に助け出された冴原琥珀という少年だということ

 ただ俺が冴原琥珀と面会できたのはそれから数日たった後のことだった。


「始めまして、まあケイサツだな。」


「・・・」


 少し濁した言い方にも少年の反応は薄かった。

 いや、なかったとも言える。


「いきなりで悪いけど、事件当時のことを聞きたいんだ。

 覚えている範囲でいいから教えてくれないか?」


「・・・ない。」


「えっ?」


 聞き取れないほどの声で呟いた少年は、目を合わせることなく窓から外を見ていた。

 桜が花びらを咲かせ、スズメが鳴いている。


「覚えてない。」


「覚えてない?」


 そう言った少年の瞳にはそとの桜もスズメも映っていなかった。

 ただその目は外に向いていただけだった。

 そのあと聞いた話だと過剰な魔法行使による副作用で記憶自体が消失してしまっていたらしい。

 ただこんな症状は医師も今まで出会ったこともなく、それ以上の診断は不可能だった。


「ああ。」


「何も?」


「全部、事件とやらも、自分の名前さえも覚えていない。」


「・・・!?」


「ただ一つ覚えているのは―――――」


 そう言って冴原琥珀は右手を耳に持っていった。

 そして数秒たった。


 ゾワッ―――――!!


 病室の空気が一変した。

 冷たく張りつめた空気と満ち満ちた殺気が


「―――――ッ!!」


「これだけです。」


 再び手を持っていくと、辺りの空気が急速に萎んでいった。

 背中と額には冷や汗が浮き上がりそうになっていた。

 ただの魔力の放出でこれほどまでの・・・


「ねえ君―――――」


 ~~~~~~~~~~


「まぁそんな感じだ。」


 二宮は最後まで何も話すことはなく、黙って聞いていた。


「じゃあ冴原くんは榊さんがスカウトしたってことですか。」


「まぁそういうことになるね。

 ただあの時は彼のことを危険視していたということもあったよ。

 何しろあれほどの力だ、悪用されでもしたらと考えるとね。」


 苦笑いをした榊は話を終わらせるかのように一口コーヒーを飲むと、デスクの上の資料に再び目を向けた。

 先日の騒ぎのことだ。


「二宮、お前先日の事どう思う?」


 視線はデスクに釘付けのまま言葉だけを向けた。


「ああ、あの事件ですか。

 そうですね、明らかにおかしいですよね。

 あれだけのコトをした割に要求は大したことはなかった。」


「そうだな。

 何か裏があるはずなんだが・・・」


 電子ペーパーに映された膨大なデータ

 事件の詳細な場所や時刻がびっしりと表示されていた。


「さ、無駄話もほどほどに仕事やるか。」


「そうですね。」


 カップの中の液体を二宮は一気に飲み干すと、少し離れたところにある自分のデスクへと戻って行った。

あけましておめでとうございます。

今回は割とサイドストーリーな感じです。

違うパターンの没ネタもあったんですが・・・

何となく年が明けて恋愛ネタの小説も書いてみたいです。

案外これが今年の目標かも。

まあダラダラと書きましたが、今後もお付き合いお願いします。

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