EPISODE4-4
学園祭の準備が始まって2週間が過ぎた。
私たち東高の生徒は今日から夏休みに入る。
でも、学園の琥珀くん達はまだ8月に入るまでは今までと同じように午前中は授業で、午後からは学園祭の準備か、休みのどちらかになっているそうだ。
ちなみに今日は準備はなしで、私とチカちゃんミチルちゃんと買い物に来ている。
少し前に開店したショッピングモールは、元々は商店街だった場所をきれいに改装して、若者向けになっていた。
「へえ、綺麗になったね。」
チカちゃんは一目見てすぐに気に入っていた。
品ぞろえも中々よく、かわいい服も揃っている。
これからは夏ということもあり、水着が全面的に強調されている。
「水着か・・・みんなで海とか行きたいな。」
私が店先のショーケースに飾られているかわいい水着を見ながらつぶやく。
「ならみんな誘って行けばいい。」
それを聞いたミチルちゃんがいつものように静かな声で言うと、チカちゃんもそれには賛成のようで、
「それいい!!
じゃあさっそくみんなに連絡だー!!」
チカちゃんはカバンの中から携帯端末を見つけると、すぐに電話帳を開く。
何度かボタン操作をして、端末を顔の前に持っていく。
しばらく呼び出し音が流れた後に、一人の女の子と映像が空中に描き出された。
「あっ、美代ちゃん?」
「はいはーい、どうしたのチカちゃん。」
「実は今ショッピングモールに来てて、みんなで海に行きたいなって話をしてたんだ。」
「おー、それいいね。
で、私はほかのメンバーに声をかければいいわけだね?」
「さっすが、お願いできるかな?」
「もちろん、今ショッピングモールだっけ?
ちょうど授業も終わったことだし今からみんなで行くよ。
私も海に行くなら水着欲しいしね。」
「うん、わかった。
ならまた近くに来た時に呼び出してね。」
「了解しました。
では。」
あっという間に海に行くことが決定した。
っていうか、みんなの予定とか聞かなくてもよかったのかな?
「すこし時間かかりそうだから私たちはお昼にしようか。」
近くにあるファミレスを指さしながらチカちゃんが私とミチルちゃんの顔を見た。
そして3人で入口をくぐって中に入っていく。
ウェイトレスさんに禁煙の席に案内してもらって、席に座る。
独特の少し硬いソファーに、木のテーブル、その上には立体ホログラムの画面が映し出されていて、最近流行りの歌手のPVが流れている。
3人ともすぐにメニューが決まって、出来上がるまでの間の時間を話しながら待っていると、
「さて、それでは第一回双樹、琥珀くんらぶらぶカップル作戦会議を始めたいと思います。」
唐突に始まったわけのわからない会議に私はあせって飲んでいた水をチカちゃんに吹きかけてしまった。
それは見事にもう・・・
「な、な、な、なに言ってんの!?」
わかりやすいぐらい動揺してる私に、2人は意地の悪そうな顔で、いやミチルちゃんはいつもと変わらないかも、とりあえずそんな顔で私を見てくる。
そりゃ私だって琥珀くんと・・・その、少しぐらい・・・
「へへへっ、やっぱり双樹は琥珀くんにメロメロなんだね?」
「ち、チカちゃん!!」
「まぁまぁチカの古臭い言い方はともかく、それじゃあ作戦会議を始めるとしましょう。」
ミチルちゃんの一声で、私の意志を無視した形で開始された。
~~~~~~~~~~
「うわぁ、これかわいい!!」
作戦会議という名の私を弄る時間が過ぎ、琥珀くんたちがやってきた。
いまはみんなでショッピングモールの中で水着を見ていた。
琥珀くんと明くんは少し疲れた様子で、要くんは相変わらず爽やかな笑顔で私たちの買い物に付き合ってくれている。
「ごめんね、大丈夫?」
離れたところにいた琥珀くんのところに行って声をかける。
「ああ、大丈夫。
神崎さんはもう決めた?」
「あの、えっと。」
「?」
「こっちとこっち、どっちがいいかな?」
単純にどっちも可愛くて迷っていたということもあるけど、本音を言っちゃえば琥珀くんの好みの水着を着たかった。
両手にある水着を少し見たあとに、
「どっちも似合うと思うけど、こっちかな。」
と言って、右手に持っている方を指差した。
白を基調としたもので、左の胸元に少しデザインが施されたものだ。
ビキニを選ぶ辺り琥珀くんはやっぱり男の子なのかな?と思いながらも素直に選んでくれたものを購入した。
「じゃあ行く日は、今週の日曜日だからね。」
帰り際に美代ちゃんが私たち以外の5人に、日時と集合時間を告げた。
伝え終わると今日はモールで解散となった。
私はもう少し見て回ろうとみんなに声をかけてから再び店の並ぶ道を歩きだした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜♪
ポケットにある端末が呼び出し音を奏でる。
特にいじることもなく、初期設定のままの音はやけに質素に感じられるのは気のせいかもしれない。
そして、そう感じさせる一因ともなっているのは呼んでいる相手のせいでもあるに違いない。
―――――榊
ディスプレイに表示された名前を見て思わずため息が出た。
こんな時に限って呼び出しがかかる。
そう思っていても、出ないわけにもいかず、琥珀は渋々通話ボタンを押す。
「はい。」
榊は連絡の際、決して顔を表さない。
音声通話のみで、用件をつげてすぐに切るという徹底した秘密主義だ。
おそらくそれはお仕事上の防衛策なのだろう。
「あぁ、仕事だよ。」
「内容は?」
そのくせ口調はフランクである。
「うん。
今回はちょっと厄介で、誘拐立て篭もりなんだ。」
嫌な響きだと琥珀は再びため息を零す。
それは恐らく榊にも聞こえただろうが構わず続ける。
「最近リニューアルしたショッピングモールなんだ。」
「また何てタイミングで。
でも立て篭もりなら警察が動くべきでしょ?」
榊の言葉を聞いて、琥珀はさきほどまでいたショッピングモールを思い出す。
あと少し帰るのが遅くなっていたら誰かが巻き込まれていたかもしれない。
「まぁそうなんだけど、今回は少し事情があって警察の特殊部隊が突入できないんだよ。」
「事情、ですか。」
特殊部隊が突入出来ないようなところに行かされるのか、と頭を抱えたくなった琥珀にさらに榊が付け加える。
「正確には特殊部隊がそちらに行くことが出来ないんだ。」
「どういうことです?」
普通ならばそんなことは有り得ない。
常時3部隊を待機させているのだから。
「同時に10ヶ所だ。
君に行ってもらうモール以外にも、半径10キロ以内でだ。」
「!?」
そこまでの組織力に心当たりがない。
おそらくは近隣諸国、主に朝鮮半島か中華あたりのシンジケート、マフィアだろうと瞬時に思考を巡らせる。
「そこで、警察と合同で同時突入を敢行する。
ただ安心してくれ、君の素性については極秘扱いだから。
それにすでに現場は封鎖してある。」
それから琥珀は具体的な場所と作戦内容を聞いて携帯端末をポケットにしまい込んだ。
空たちは先を歩いている。
そこに歩いていき、急用をつげて琥珀は急いでショッピングモールの方へと戻って行った。
~~~~~~~~~~
「どうしたんだろ。」
みんなと別れてからしばらくモールをぶらぶらと歩いていたところ、もう帰ろうかと引き返してきた一角に大勢の人が集まっていた。
口々にみんな何か話している。
「―――――立てこもり―――――。」
「中にまだ客が―――――」
「―――――警察―――――」
そんな普段聞かないような単語が飛び交っている。
ただその現場はここからでは見えない。
どうも封鎖されているらしく、一般人はここから先へは行けない。
ただ私がいても事件が解決するわけでもないし、とりあえず私も事件に巻き込まれないように早く帰ることにした。
少し遠回りだが、手前にあった細い路地を迂回することにした。
「っと、ここか。」
聞きなれた声、私を助けてくれた人の声が聞こえた。
ぶっきらぼうそうだけど、本当はやさしい人。
その声に呼ばれるかのように足は勝手に声の聞こえたほうに向かっていった。