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EPISODE4-2

「あの・・・考え直したりと言うことは・・・」

 

 琥珀が最後の希望にすがりつくように放つ一言に、

 

『それはない!!』

 

 と教室中の反論を喰らうことになった。

 事の発端は10分程前になる。

 

「じゃあ何か案のある人。」

 

 一応学園のことをよく知っている委員長が議長となって話は進められていた。

 そしてそこで出された、

 

「やっぱり劇がいいと思います。」

 

 東高の生徒の一人が手を挙げながら言う。

 そこまではまだまだ普通だったので、琥珀はなんら文句はなかった。

 

「ならさ、魔法使った劇だよな。」

 

 違う生徒がさっきの意見に付け足す。

 ここまでも文句はなかった。

 

「でもそれだと普通過ぎてつまらないよね。」

 

 この一言が今になってしてみれば余計だったのだと琥珀の中に思い出される。

 そして最も不必要な事を言ったのは、

 

「なら男女配役を入れ替えたら面白そうじゃない?」

 

 よりにもよって双樹だった。

 明るい彼女はクラスの人気者ですぐにその案が承認されたことは説明するまでもない。

 

「それじゃあ具体的な劇の内容を決めましょうか。」

 

 琥珀はあくまでも耳を貸す程度にしか聞いていなかった。

 そして内容は決まり、肝心の配役へと移る。

 内容は良くある話だった。さらわれた国の姫を助けるために、各国の国の国王が姫を助けに行く。

 けれども途中に出る魔物や敵のために一人また一人とやられていく・・・

 とまぁ最後を省いてもよいほど良くある話だ。

 琥珀がぼんやりとしている間に配役はどんどんと決められていく。

 

「なら国王は神崎さんね。」

 

 姫を助け出す役、つまりはメインキャストに双樹が選ばれていた。

 まぁ似合っているかもと琥珀は思いながら、大道具に立候補しようとすると、

 

「あの!!」

 

 双樹の突然あげた声に一瞬止まった琥珀、今思うとあれがいけなかったと琥珀は考え着いた。

 そして自分を取り戻す前に双樹がとんでもないことを口にする。

 

「お姫様を冴原琥珀くんにやってほしいです。」

 

 向き直って言う彼女の顔は本気で、琥珀は一瞬何と答えるべきかと悩んだ。

 そうこうしている内に事は更に最悪な方向へと突き進む。

 

「面白そうだな。」

 

「そうだねー、見てみたいかも。」

 

 明と東条だった。

 この時ほど二人を恨んだことはないと琥珀は、はっきりと断言できるだろう。

 

 そして連れてこられたのは同じ階にある空き教室。

 今から行われるのはテストと称した余興、つまりは琥珀のお姫様姿は見るに堪えるのかを確認する作業

 平たくいえば琥珀に女装させようということだった。

 教室には双樹と東条、双樹の友達2人とクラスメイトと女子が数人、琥珀を取り囲んでいる。

 一様に笑顔・・・というか楽しそうな顔をしている。

 止める琥珀の言葉を聞かずに、唐突に詠唱されて琥珀の意識は刈り取られた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ん・・・あ、れ。」

 

 意識を取り戻した琥珀を見つめる顔はみな呆然としている。

 そして考えるヒマもなく東条と双樹に腕を取られて教室まで引きずられていった。

 その間も琥珀を見てはうなだれるクラスメイトに琥珀は止めるように言いつづけたが、ついにその願いも虚しく教室のドアを開けられた。

 きっとその時の教室中の表情を琥珀が忘れる日が来るとは思えないだろう。

 

 

『・・・』

 

 こういう沈黙は漫画とかそういう話の中だけでのことだと思っていた琥珀は戸惑うばかりだった。

 何秒かたった後にポツポツと誰かが何かを呟く声が聞こえはじめた。

 主に男子生徒の声が

 

「うっそ・・・」

 

 とか

 

「いや、良く考えろよ。

 別人ってこともありえるだろ。」

 

「ちょっと待て!!明!!何で鼻血出してんだ。」

 

 琥珀に言われて初めて気が付いた明は咄嗟に背を向けて鼻に手を持っていく。

 そして手についた血を見て慌てて袖で拭き取っていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「どうしたって・・・いや、オマエその格好・・・」

 

 明に言われて自信の格好を見た琥珀は・・・

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「人として大事なものを無くした気がする・・・」

 

 あれからすぐに着替えて顔を洗った琥珀は教室の隅にいた。

 予想を反して琥珀の女装には人気が出ていた。

 

「私よりかわいかったよ。」

 

 意地悪そうな顔で東条が琥珀の前の席に座った。

 

「・・・うれしくない。」

 

 あれから琥珀の機嫌は目に見えて悪くなった。

 結局役は琥珀に決まり、相手役は双樹に決まった。

 そろそろ歓迎会もお開きになるだろうと、琥珀は帰る準備を始める。

 

「まぁまぁ、そんなに怒らないでよ。」

 

 なだめるつもりならそのニヤニヤした笑いをやめてくれ、と思いながら琥珀は東条を無視する。

 そんなことを気にもしない東条も帰る準備をし終わると明と3人で教室を出た。

 いつものように3人校門で空たちを待っていると、そこに双樹とその友達が通り掛かった。

 

「(確か、チカとミチルだったかな。)」

 

 曖昧な記憶を改めて思い返して、大量の情報の中から2人の名前を拾い上げる。

 チカと思われる子の特徴は、長い髪を後ろで1つくくりにしている、いわゆるポニーテールがポイントだ。

 一方のミチルの方は、下手をすると小学生と間違われるほどの身長の低さと、あどけない顔立ち。

 

「あれ?どうしたんですか?」先に教室を出た琥珀達が校門で待っている姿を見た双樹が3人に声をかけた。

 

「友達待ってるんだよー。」

 

 答えたのは東条。

 と、そこへ空、泉、要の3人がやってきた。

 

「ごめんごめん。っとそっちの人は?」

 

 人懐っこい空は双樹の姿を見てすぐに尋ねてきた。

 

「あっ、私は東高の神崎双樹です。

 それと、チカちゃんとミチルちゃんです。」

 

 2人の紹介も双樹が済ませてしまって、名前を呼ばれた後に2人は頭を下げていた。

 チカのポニーテールがぴょんと跳ねた後に空達も順に自己紹介をしていた。

 

「それで、何で琥珀は不機嫌なの?

 それに明くんも鼻にティッシュなんか詰めて喧嘩でもしたの?」

 

「・・・」

 

「いや俺のはその・・・なんて言うか・・・」

 

「ぷっ・・・くくっ・・・」

 

 必死で笑いを堪える東条

 気まずそうに笑みを浮かべる双樹、チカ、ミチルの3人

 そして再び詰めたティッシュを赤く染める明

 不機嫌に拍車がかかる琥珀

 

「えーっと・・・」

 

 さすがに聞いた空も戸惑うほどにみんなの様子はおかしかった。

 それが判明したのは双樹たちもいれて琥珀の家に着いたあとだった。

 

「何で俺の家?」

 

「気にするなよ。

 何か最近ずっとそうだったからよぉ。」

 

 慣れたものでみんなぞろぞろと入っていく。

 それでも常識的な要と泉は、おじゃましますと一言かけて入って行った。

 

「?、神崎さんたちもどうぞ。」

 

 玄関で止まっていた双樹に琥珀が声をかける。

 何となく新鮮な反応だな、と思いながら靴を脱いで家にあがった。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「双樹、チャンスだよ!!」

 

 私以上に気合いの入っているチカちゃんと、よく見るとミチルちゃんも何となく目が輝いている。

 ミチルちゃんはあんまり感情出さないからよくわからないけど。

 

「ち、チャンスって言っても・・・」

 

「何言ってんのよ〜。

 琥珀くんのこと気になってるんでしょ?」

 

 うっ、やっぱりチカちゃんは鋭いなぁ。

 ってことはミチルちゃんも気付いてるんだよね。

 

「それは、そう、だけど・・・」

 

「私は空さんも琥珀さんのこと好きなんじゃないかなって思います。」

 

「やっぱりミチルもそう思う?

 ほら、双樹も頑張らないと取られちゃうよ?」

 

 それは―――――やだな・・・

 

「でもでも、琥珀くんにもう彼女がいるかも・・・」

 

『それはない。』

 

 私が言い切る前に2人がきっぱりと言い張る。

 ちょっと琥珀くんかわいそうだな。

 

「えっ?どうして?」

 

「そんなの見てればわかるよー。」

 

 これでもチカちゃんの勘は割とよく当たる。

 それに私よりもいっぱい恋をしてるみたいだし。

 

「ミチルちゃんもそう思う?」

 

「ん、おそらくいない。」

 

「よーし。

 じゃあその辺の事も今日しっかり調べちゃおう。」

 

 と、当の本人をそっちのけでチカちゃんとミチルちゃんが盛り上がっている。

 あぁ、どうなっちゃうんだろ私・・・


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