第40話 『噂の特産品 その1』 (▼アテナpart)
私達の次なる目的地は、ガンロック王国と決まった。
このクラインベルト王国の南東に位置するガンロック王国へ行く為には、当たり前だけど、まず国境へ向かわなければならない。
実は、私がこの国を出た事は、過去に1度だけ…………幼い頃に一度だけ出た事がある。――――かなり昔の思い出。
だから今はもう、これから私を待ち受けているだろう未知なる冒険の事を考えると、胸の鼓動が止まらない。知らない土地でキャンプする事だって、想像すると興奮してくる。
「なあ、アテナ。次の行先だけど……ガンロック王国へ向かっているんだよな。この道であっているのか?」
「うん。大丈夫だよ。とりあえず、今日のところはトロフの森って所へ行くけどね」
ルシエルに答えた。ルシエルは、ふーんっといった感じでちらりと後方を確認する。
後ろには、ルキアとカルビがトコトコとついてきている。ルシエルとカルビの出会った経緯は、もう聞いたけど…………カルビはもうすっかり人間を見ても動じなくなっていた。いい事だね。
道中、人とすれ違っても、もう変に吠えたり警戒したりもしない。使い魔として…………同じパーティーの仲間としてこれから上手くやっていけそうだ。フフフ。
「何を笑っているのですか? アテナ。何か良い事でもあったのでしょうか?」
可愛い猫娘が顔を覗き込んできた。
「フッフッフー。なんでもないよーー」
「んーー?」
微笑みかけると、ルキアは不思議そうな顔をした。
「それはそうと、そろそろ昼飯にしないか? なあ?」
「そうね。確かにそろそろお昼位ね」
ニガッタ村からだいぶ歩いた。ルシエルが言っているように、もうすぐ昼になる。確かにお腹も減って来たし…………と考えながら行く先を見ると、森が見える。どうやら、あれがトロフの森。このまま進む。
「森が見えるわね。このままもう少し歩いて、森に入ったらキャンプできる場所を探そう」
それを聞いて、ルシエルが意外な顔をする。
「え? キャンプ? 昼飯をとって休憩するだけだろ?」
「いいえ。キャンプするわ。ちょっとやりたい事があってね。ガンロック王国に行くっていっても急いでいる訳でもないし…………私たちは冒険者なのだから、冒険者として旅を楽しもうよ」
「…………なるほど。じゃあ、キャンパーとしてもだな!」
ルシエルがニコっと笑った。
――――森に入り、少し進むと小さな橋が見えて来た。小川がある。
「よし。あの橋の少し先…………道からちょい外れた所でキャンプしよう!」
「はいっ!」
「おう!」
ワオンっ!
全員が返事。ルキアとカルビが先にその場所へ走っていく。はしゃいでいるなあ。全く、可愛いコンビ。見ていて微笑ましい。
キャンプする場所に着くと早速、テントの設営と焚火の準備にとりかかる。同じく作業に取り掛かろうとした二人を呼び止めた。そして、周辺で手ごろな長い枝を2本見つけてルシエルとルキアに手渡した。
「ん? 何これ? 単なる長い枝だけど?」
「この枝は何かに使うのですか?」
キョトンとしている二人に言った。
「はいっ! これから二人には、極めて重要な任務を発表します」
その言葉に背筋をビンっとして直立するルキアと、はあ? って顔をしてだらけるルシエル。
「はい! これから二人は、魚を釣って来てください! 釣ってくる数は、多いにこしたことはないけど…………最低、人数分……4匹は釣って来てね」
「え? オレが? …………食糧が必要なのか? あれならなんか、魚でなくても肉を調達してくるけど…………。その辺でちょちょっと狩りをしてくるし」
顔を左右に振って見せる。
「いいの!! 魚がいいの!! 魚を釣って来て!!」
「アテナ。私、お魚釣りなんてしたことがないです。お父さんと畑仕事や、お母さんとお裁縫はしたことがあるけど。任されても、上手に釣れるか心配です。だから…………」
ザックから釣り道具を取り出し、二人に押し付けて背中を押した。
「はいはいはい!! つべこべ言わずに行って来てくださーーい。私は、私でご飯の準備しなくちゃだから。だから、何がなんでもお魚をゲットしてきてね。ルキアも釣りなんて、簡単だから頑張ってやってみて。チャレンジよ、チャレンジ。わからなければ、ルシエルに聞けばいいしね。なんでも、トライよ!!」
「ちょ…………ちょまてよ、ちょまてよ!」
…………また、どっかで聞いたフレーズ…………
「なによ?」
「ちょっと休憩を…………ずっと、歩き詰めだからちょっと休憩してからでも……いいだろ? …………な?」
「はーーい、はいはいはい。いってらっしゃーーい」
そう言って、強引にルシエルを押し出して、二人を魚釣りの任務へ派遣した。
「ふうーーー。じゃあ、二人が帰ってくる前に準備をしなくちゃね」
キャンプに残ったカルビにウインクして、小川へ水を汲みに行く。するとぴったりとカルビが付いてきた。
「可愛いな、君は。こんな場所じゃ、魔物が現れたりもするだろうから、ツーマンセルで行動中よ。二人が帰ってくるまで、私の相棒はあなただから」
ワオンッ
「しかし、子供とは言え野生のウルフがこんなに懐くなんてね。使い魔は、過去に何回か王宮にやってきた魔法使いや、賢者なんかが連れているのを見た事があるけど……カルビには、その才能があるんだね」
そう言って、カルビの鼻の頭を人差し指で触った。カルビは、触られた鼻をペロっと舐めるとワオンっと返事した。
汲んできた水は、鍋に入れて火にかける。湯を作っておけば、お茶でも珈琲でも飲める。ザックからメスティンを取り出して、そこへニガッタ村で入手したライスを入れる。再び、小川へ行きメスティンに入れたライスを何度か洗った後、再びメスティンへ水を足した。
「メスティンにライスと水を入れた状態で、暫く放置。ライスを浸しておくと、美味しくできあがるんだよね。1時間程したら、メスティンを火にかけてライスを炊き上げる。はーーーーーーっ。ヤバイ。ライスを食べる何て暫くぶりだから、考えるだけでよだれが……」
グーーーーーー
お腹が鳴った。その音にカルビが一瞬、ビクっとなったが知らないふりをした。だって、一応乙女ですから。
「さあ、二人が何匹お魚を釣り上げてくるか、楽しみだねー」
次は、鍋を取り出してスープの準備をし始めた。買った野菜は、晩御飯に使用するつもりなので、ランチに食べるスープの具は、その辺で食べられる野草を調達しよう。
「あまり、キャンプから離れるとあれだから、サッと行って探して採って帰ってこようか」
ワオンッ
カルビが付いてきた。…………っぷ。
「しかし、カルビって名前…………」
ガルウウウ
急に、そう思って笑ってしまったら、それに気づいたのかカルビが怒ったので謝った。
「ごめんごめん。素敵な名前だよ。カルビ」
ワオンッ
カルビが、少し得意げな表情をしたように見えた。
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〚下記備考欄〛
〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。趣味は、旅と食事とキャンプ。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。ニガッタ村で念願のライスを入手し、早速何か作ろうとトロフの森へやってきた。行動する仲間も増えて、実はテンションがあがっている。一人旅は一人旅の良さもあったけど、気が許せる仲間と一緒にいるのは楽しい。そして、寂しさを感じない。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。アテナに作法などで注意される事が多々あるので、いつか自分がアテナを叱ってぎゃふんと言わせてやろうと奮闘中。ルキアやカルビという可愛らしい仲間が加わり、アテナともどもテンションが上昇中。
〇ルキア 種別:獣人
Fランク冒険者。猫の獣人。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気遣いのできる優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンからもらった大きなナイフを武器にする。アテナ、ルシエルの仲間になり、早くもカルビという後輩ができてしまった。その可愛らしい容姿からカルビと、セットにされる事もしばしば。
〇カルビ 種別:魔物
子ウルフ。アテナと別行動していたルシエルが出会った子ウルフ。ニガッタ村での騒動を経て、アテナのパーティーの正式な4人目の仲間となる。(※あえて匹ではなく4人とカウント。)ルシエルの思い付きでカルビという美味しそうな名前を名付けられてルシエルの使い魔とされるが、カルビ自身は意外と自分の名前を気に入っているようだ。
〇クラインベルト王国 種別:ロケーション
アテナ一行が現在、旅を続けている国。アテナはこの国の第二王女だった。因みにアテナ、ルキア、カルビはこの国の出身だがルシエルの生まれ育ったエルフの里のある場所はクラインベルトではない。
〇ガンロック王国 種別:ロケーション
アテナがリンド・バーロックという昔いたキャンパーの書いた本を読んで影響を受け、次に行ってみたいと思い向かおうとしている国。荒野が広がり大地が焼けて渇く痩せた土地のようで、緑が多く豊かなクラインベルトとは対照的な世界のようだ。
〇トロフの森
クラインベルト王国にあり、ニガッタ村近くにあるという森。アテナ一行の現在地。ここで、アテナ一行は新しい仲間が増えたことも記念してキャンプをする。




