表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/1340

第38話 『再会を祝して…… その3』






 ――――男が、子ウルフ目がけてナイフを振りおろした。


 やめろ!!!!


 オレは、喉が張り裂けそうな位、大声で叫んだ。



「やめろおおおお!!!! やめてくれえええ!!!!」



 だが無情にも鋭く輝くナイフが子ウルフ目がけて、振り下ろされる。子ウルフは、抑えつけられて身動きできず、自分の死を覚悟したのか両眼を瞑った。


 だめだ! オレには、子ウルフを助ける事ができない! そう思った。

 

 すると、僅かな時間ではあったけれど、子ウルフとの色々あった出会いを思い出す。

 

 襲ってきた子ウルフを、軽くあしらったり一緒にサンドイッチを食べたり……テントで共に眠った。その記憶が頭の中を過る。その時だった。


 

 キーーンッ!



 ――刹那、火花が飛んだ。子ウルフを突き刺そうとしたナイフは、その火花と共に弾き飛んだ。



「えっ⁉」


「許さない。こんな事は、絶対許さない!!」



 アテナだった。アテナが、子ウルフに振り下ろされるナイフ目がけて、持っていたナイフを投げて弾いたのだ。果実を剥いたり調理する時に、よく使っているナイフ。


 その状況に、エギーデの顔はみるみる赤くなる。



「小娘ぇぇぇ!!!! これは、重罪だぞ!! 人を襲う魔物を庇い、ギルドに刃を向けるとは!! 正気の沙汰とは思えん! こうなったら、貴様ら全員を逮捕してやる!!」


 

 ニガッタ村のギルドの連中を怒らせた。もはや、敵として認識されている。


 まずいぞ! アテナ! このままじゃ………… 


 いや、まてよ…………アテナの事だ。とりあえず、この場は拘束されといて……事が収まった後で、王国の王女である事を伝えて、解決させる気かもしれない。それなら上手くいく。


 だが、アテナは淡々とした口調で言った。



「いいわ。かかってくればいい」



 アテナは、剣を構えた。その様子は、怒っているように見える。


 おい⁉ ひょっとして、アテナは捕まる気はないのか⁉ 


 まあでも……アテナがそういうつもりなら、しょうがない。オレも腹をくくるしかない。


 弓矢を構える。するとそれを見て、ルキアもナイフを構えた。ハルは、ちょっとちょっとと言ってエギーデを止めようとしているが、エギーデもギルドの連中も、完全に頭に血がのぼっているようだ。止められない。



「ウルフは、抑えて置け! まず、こいつらを拘束するぞ! 抵抗するなら斬ってもいい!!」



 エギーデ達も剣をこちらへ向けてきた。戦闘になる。オレは、ルキアに言った。



「無理するな。ここは、アテナとオレに任せてさがっていろ」



 しかし、ルキアはナイフをしっかりと構え、顔を左右へブンブン振って拒んだ。身体は震えている。



「私も仲間です!! 一緒に戦います!!」



 アテナがこんな獣人の子供を連れてきて、これから一緒に旅する仲間だと言った時は、大丈夫かと思ったのだが…………なるほど。理解した。



「覚悟はいいな! かかれええ!!」



 エギーデがそう叫んだ。アテナが剣を構え、走る。オレも弓矢を構え、狙いをつける。狙いは、手か足。同じ、冒険者ギルドの者だから、できるだけ怪我はさせたくない。


 アテナの剣と、エギーデの剣が重なり弾ける。オレも弓矢を引き絞った。


 ――――そこへ唐突にな雄叫び。



「やめろおおおお!!!! 双方とも、一旦剣を収めろ!!」



 その大声にオレもアテナも、エギーデ達や他の成り行きを見守る人たちも固まった。


 しかもこの雄叫びは、聞いたことのある声。


 あ…………ああ!! やっぱりそうだ! ダルカン!! ダルカンの声だ!!



「聞こえないか⁉ 双方争いをやめろと言っている!! でなければ、しかたがない。俺達はそっちのハイエルフの方へ加勢するぞ!!」



 俺達? あっ! ダルカンと共に、アレアスとミリスもいる。ミリスは、満面の笑みでオレの方へ手を振っている。そして、こっちへ駆け寄ってきた。


 エギーデは、剣をダルカン達にも向けた。



「いい度胸だ!! おまえらも魔物を庇いだてする、イカれたやつらか!」


「イカてるのは、どっちだ? これを見てからものを言え!!」



 アレアスは、そう言うとダルカンと共に背負っていた大きな袋をその場に投げだした。血のニオイがする。



「なんだこれは?」



 エギーデの質問に、アレアスが即答する。



「ウルフの首だ。今、このニガッタ村の冒険者ギルドの依頼で、俺達のパーティーは、何十頭もウルフを討伐してきたところだ。だからそれは、報酬を貰う証拠品として、証明できる物…………ウルフどもの首だよ。今から、これをギルドへ届けて報酬をもらうんだ」



 エギーデが怪訝な表情をとる。



「だから、俺達はウルフを討伐している者だって事を言いたいんだよ。おい。わかるか?」



 ん? どういうつもりなんだ? アレアス達に何か考えがあるのか? 


 ミリスが、オレの前まで来てオレの両手を握り、優しい声で耳打ちした。



「私達に任せてちょうだい」



 エギーデが、剣をアレアスに突きつける。



「それで? なんだ? 答えろ?」


「おい! 剣をしまえ! 今から、説明するが…………そうすると今、俺達に剣を向けているアンタが困ることになるぞ」



 アレアスがそういうと、エギーデ以外の他のギルドの者達は顔を見合わせ、構えていた剣をおろした。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。アテナと再会、ルキアという新しい可愛い仲間を加え旅立つ。冒険を再開するぞと思った所で、道中知り合った子ウルフと再会する。ルシエルはなんとか子ウルフを助けようとするが……


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。趣味は、旅と食事とキャンプ。腰には二振りの『ツインブレイド』という剣を吊っていて、二刀流使いでもある。ニガッタ村で仕入れたライスで、アレも作ろうコレも作ろうと意気込んでいる。ニガッタ村を出た所で子ウルフが騒ぎを起こしている所に遭遇するも、その子ウルフがルシエルの知っている子だと知るやいなやルシエルに加勢。


〇ルキア 種別:獣人

Fランク冒険者。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気遣いのできる優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンからもらった大きなナイフを武器にする。アテナ、ルシエルと共に新たな冒険に出発するべくニガッタ村を出ようとしたが子ウルフの騒動に遭遇する。子ウルフがルシエルの知り合いだと解ると、ルシエルに味方した。しかも、この時ルキアは初めて武器を人に向けたので手も足も震えていた。


〇ハル 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【シーフ】。気さくで優しい性格。最近はニガッタ村を拠点にして、周辺を荒らす魔物の討伐などを請け負っている。気ままな生活が好きで、1人で行動しているがアテナやルキアと知り合い、一時的に行動を共にする。ニガッタ村を出る時に子ウルフが騒ぎを起こしていたが、そこに現れたギルド関係者エギーデとは、顔見知りのようだ。


〇エギーデ・ロドヴィン 種別:ヒューム

ニガッタ村の冒険者ギルドの責任者でBランク冒険者。ニガッタ村は、特産品があり商人も多く行きかい賑わっている。よって、冒険者ギルドや自警団が村の警備を行っている。常に誰か問題を起こさないかと見張っているが、特に魔物に対しての目は厳しいようでルシエルが助けようとする子ウルフについても、例外ではないようだ。


〇ミリス 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【プリースト】。リオリヨンの街で活動していたが、ウルフ討伐の噂を聞きつけニガッタ村へウルフ討伐にやってきた冒険者。アレアス、ダルカンとパーティーを組んでいるが、本作31話でルシエルを気に入り仲間にならないかと誘った。回復魔法が得意だが、実は補助魔法などバッファー的な役割も得意。


〇アレアス 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【ソードマン】。リオリヨンの街で活動していたが、ウルフ討伐の噂を聞きつけニガッタ村へウルフ討伐にやってきた冒険者。ミリス、アレアスとパーティーを組んでいて、一応リーダー。チームでは盾役もこなす。本作31話に登場。ルシエルに助力する為、エギーデに対抗する。


〇ダルカン 種別:ヒューム

Dランク冒険者。クラスは【ウォーリアー】。リオリヨンの街で活動していたが、ウルフ討伐の噂を聞きつけニガッタ村へウルフ討伐にやってきた冒険者。ミリス、アレアスとパーティーを組んでいる。斧が得意なパワー型。本作31話に登場。


〇子ウルフ 種別:魔物

狼の魔物。エスカルテの街からニガッタ村へ旅するルシエルと出会い、ついには懐いてしまった子ウルフ。最初は敵意剥き出しだったが、何度かルシエルとやり取りする間にルシエルの事が好きになった。それで、ニガッタ村の方まで来てしまったが、そこから騒動に発展する。


〇調理用ナイフ 種別:武器

別名、果物ナイフ。アテナのザックに何本か入っているが、実は何本か身にも着けており必要に応じて投げナイフ代わりに使用する場合もある。紛失する事も多々あるので、アテナは戦闘用よりも安価でよく斬れる調理用を持ち歩いている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ