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10 美味しい卵焼き

「こんにちは」


「は、はい。こんにちは」


 目の奪われるような美少年がミクに声をかける。


『どこかで見たような・・・』


「僕は五十嵐遥、由美姉の弟です。姉さんから聞いてたんでご挨拶しとかなきゃと思って」


 思わず納得するミク。


「初めまして、お姉さんの由美さんにはお世話になってます。西園寺ミクです、よろしく」


 クラスの女子のざわめきがレイジの耳に届く。


「レイジ君とはやはりお知り合いなんですか」


 レイジの背中に抱き着く遥。


「まあそうだな、知り合いだと思う。こっちに来てから色々世話になったこともあるし」


 遥かに抱きしめられ、うっとうしそうに答えるレイジ。


 微妙に悩ましい顔の遥が、レイジの弁当箱から卵焼きをつまむ。


「おいおい俺の弁当」


「おいしい!さすがレイジだね」


 ちょっとムカッとなったレイジだったが『旨い』といわれて嬉しかったりもする。


「いいなあ、私も早く同性の友達ほしいわあ」


 ちょっと関西弁のイントネーションが混じる言葉で、可愛く話しながらレイジの弁当箱の卵焼きをつまむミク。


「ほんと、美味しい!レイジ君、食費渡すから私の分もお願いできるー」


 すでに卵焼きがなくなっている弁当箱を眺めながら、肩を竦めるレイジ。でも些細なことでも認められることがうれしい年ごろである。


「ああ、2つ作るのも3つ作るのも手間はかわらないからね。材料余らして悩むよりいいかな」


「ずるい!レイジ、僕の時は断ったくせにー」


「なんで男の為に弁当作んなきゃいけないんだよ、それに遥は由美先輩に作ってもらってるじゃん」


 そこへ弁当を食べ終わった女子と学食から帰ってきた女子が遥かめがけて突撃してくる。レイジは弁当箱を、ミクは食べ終わったパンの袋を持ってそろそろと教室を後にする。


「凄い人気ね、そんじょそこらのアイドル顔負けじゃない」


 黙り込むレイジ。


「どうしたのよ」


「いや、なんでもないよ。それよか今度の土曜日に牧さんに会うことになってるけど予定空いてるよね」


「うん、どこまで牧さんという人の話が生かせるかわからないけど、此処まで来たんだもん。やるしかないでしょ」


 ミクは、レイジと一緒に弁当箱を洗いながら答えた。



放課後


「じゃあここで、気をつけてな」


「ありがとうレイジ、遥君も。また明日ね」


 途中までミクを送っていき、レイジと遥が肩を並べて歩く。レイジの歩幅が広いので遥は小走りになる。


「可愛いねミクさん」


「ああ、可愛いといえば可愛いと思う」


 荒んでいたころの詩を知っているレイジ。

 わがままお嬢様であることを知っているレイジ。


「ところでさあ、レイジって姉さんのバンドに入ったんだよね」


「ああ、ドラマー候補なんだ。もうちょっとしたら由美先輩の居る軽音楽部に行って練習始めるんだけど、ちょっと自信がない」


「僕も入れてもらおうかなー」


「いいんじゃないか、俺も素人だしそのほうが気が楽かな」


 由美もミクもギターの腕前は相当なものだと、ちょっと前に知って愕然としたレイジは不安で仕方がなかったが、同じ素人の遥が入れば少し安心できると思った。

 ササっとレイジの前に出るとくるっと振り返る遥。姉の由美と仕草がそっくりである。遥はレイジの手を握りにこりと笑う。


 レイジは気づいた、遥の指の皮が固いことに。


「お前、なんかやってんの」


「ちょっとねー」


 これはまずいと冷や汗が流れるレイジ。あの姉の元で何もしていない訳がないと、今更気づく。


「大丈夫、僕も色々助けてあげられると思うから。友達でしょ僕たち」


「あ、ありがとう。助かるよ」


 あれ、いつから友達になったんだっけと思うが、細かいことだと忘れることにした。


「ねえ、マンションまでおぶってってくれる」


「いやだよ」


「えええええ、最初のころはおぶってくれたのにー」


「そりゃ、お前があんなかっこして倒れてたから勘違いしたんだよ!!」


 何度も何度も騙されたレイジであった。



 


 

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