プロローグ
死のうと思った。
理由は、自分でもよく分からない。
他人と関わることに疲れた。生きていることが辛かった。たぶん、そんなありふれた理由だったのだろう。
まぁ、なんと言うか、なんだかんだで死のうと思った。というわけで今、住んでいるアパートの屋上にいる。どうせなら落ちて死のう。最後に自分の体が地面に向かって落ちていく浮遊感を感じてみたい。そんな作ったような理由のためにこんな場所まで来た。
自殺志願者とか犯罪者にかける言葉でよくこんなものがある。
「家族が悲しむ」だとか「お前の帰りを待っている人がいる」というもの。
この言葉を投げかけられたら普通、逡巡するか、思いとどまるのだろう。
家族や待ち人の顔を思い浮かべて、怖くなって、屋上から離れるのだろう。少なくとも昔は私もそうだった。
けれど、今はもう何も感じなくなってしまった。迷うこともない。残念なことなのだろうか。
さて。
こんな感じにぼんやり考えることも無くなった。
もういっか。
そろそろ飛ぼう。
一歩、一歩と屋上の端へと近づく。
足が半分飛び出すくらいギリギリに立ち止まる。
見上げれば満天の星空。
月が綺麗に輝いている。
吹き抜ける夜風が気持ちいい。
腕を広げる。
そのまま前に倒れ込んだ。
目を閉じる。
奇妙な浮遊感だけが残る。
不思議と、心地よかった。
数秒もしないうちに、私の身体は地面に打ち付けられ、私は絶命した。
ーーと思っていた。いや、錯覚していたのかもしれない。
目が開く。体も動く。痛むところもない。が、なぜだろうか私が飛び降りた時間帯には似つかわしくないほどの光が充満していた。目が慣れるにつれ少しずつ様子がわかる。
「あ…え…?」
古くて湿ったカーペットの匂い。単調な黄色の壁と耳障りなハム音を響かせる蛍光灯が、どこまでも連続する。恐怖感と共に懐かしさをなぜか感じさせるような何も無い空っぽな部屋。
何もない。
何もないのに、どこかがおかしい。
そんな空間に、いつの間にか私は落ちていた。
「落迷」、プロローグ読んでいただきありがとうございました!ぜひ続きも読んでください!




