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渾沌のメシア-全てを識る為の物語-  作者: 翠雨
第四章「幻影巣食う霧の夢」
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#28「サーシャのスペシャル強化訓練」

*ハク ~アルドニア王国「アルドニア王宮」にて~


大広間を出て、僕は小声でストールに隠れているニアに話しかけた。

「ニア、大丈夫だったか?」

―――大丈夫!でもドキドキした~。まさかシンシャに見つかるなんて!

ニアは少し疲れた様子だった。無理もない。王宮では常に警戒を怠れないからだ。

「心配かけたね。でももう大丈夫。ここからは安全だ」

―――そうだね。でも、まだ王都だもん。気を付けるよ

ニアはそう言いながら声を潜める。

―――それにしても、シンシャってすごいわね。僕のことよく分かったなって思うよ

「あの人勘が良いからな。王宮に行くのは博打だったかも」

―――ほんとだよ。シンシャが横暴な女王様だったら、それこそ追われ者の君は殺されてただろうね。全く、無茶するったらありゃしない!

「ハラハラさせてすまないね。……まぁ、その分収穫はあった。王宮への侵入が数年ぶりに成果が実った気分だ」

―――シンシャ、ザルクが流した『青いコマドリ』の噂を無かった事にするって言ってたね。そんなこと出来るのかな

「一度流れた噂を消すのは難しいよ。高額取引のための乱獲は王宮が法令を出せば無くしていけると思うけど。それでも今までで失われてきた動物達。……王宮に放たれて死んでいった『青いコマドリ』は……」

―――……帰ってはこない、もんね

「……『エネミー』ですらない動物は殺される理由がない。……シンシャの発令で、今後のアルドニアの貿易商法は大きく変わってくるだろうね」

僕はニアの頭を優しく撫でた。

「でも、しばらくはまだ気が抜けない。アルドニアに滞在している間は、もう少しだけ隠れておいてくれるかい」

―――勿論だよ。僕もうっかりどこの奴ともしらない商人に売られるなんてごめんだしね

「そうしてくれ。さ、行こうか。ラルフたちが待っている」

僕たちは再び歩き始める。

王宮を出てしばらく歩くと、門の外でラルフたちが待っているのが見えた。

「ハク、遅かったな。シンシャ様と何かあったのか?」

ラルフが心配そうに聞いてきた。

「ああ、少し話していただけだ。心配ない」

「ふうん……そうなのか?何もねぇならいいんだが」

「もう~!遅いよハク!!ほら、早く行こ!色々収穫はあったんだ。話しながら王都を出て、今後についてもゆっくり話していこうじゃないか」

「うん。早く行こう。僕も旅が楽しみだ、……ちょっとだけ」

ソルトが朗らかに笑うのを見て、僕もふ、と息を漏らした。

「そうだね。待たせてすまない。早くいこうか」

ラルフ達の後を追うように、僕は一歩後ろを歩く。

ふと、口数の少ないアイリスに視線が止まった。

「……」

「アイリス?」

「……えっなに!?」

僕に声をかけられてアイリスがはっとしたように顔をあげる。顔色に変化は見られない。単にぼうっとしていただけだろうか。

「どうしたの?何か考え事でもしてた?」

「う、……うん!なんでもない!そんなとこ!……あ!見て見てあのお店なんだろ!気になる~!」

アイリスがラルフを抜かして最前線に走っていく。

「お!なんだなんだアイリス!何見つけたんだ!?」

ラルフも張り合うように前に出ていく。そうしてにぎやかなやり取りをし始める2人に僕は若干戸惑った。

―――ハクってばあしらわれてる~

「うるさいよニア」

―――なにかアイリスに気になることでもあったの?

「いや、……うーん……」

ニアに問われて僕はアイリスを再び見る。しかしアイリスの様子は普段と変わらず、僕は小さく首を振った。

「……いや、大丈夫。僕達も置いてかれないように行こうか」

先頭のラルフとアイリスが店に吸い寄せられていき、サーシャとソルトもそれにならって走り出す。出遅れた僕も4人の姿を見失わないよう、ゆったりとその背中を追うのだった。


*ラルフ ~アルドニア王国「荒野」にて~


足を踏み入れるたびに、砂が靴底に絡みつく。

木陰一つない荒野には砂が吹き荒れるばかりで、体が直接陽の光の熱を吸収する。

遥か彼方に見えるグル岩山を遠目に、一歩、また一歩と、重い足を引きずりながら、俺達は荒野を歩き続けていた。

先頭を行くのは俺、勇者ラルフ。

太陽が照りつける荒野の熱を感じながらも、俺は仲間達との会話を弾ませながら歩く。

その後ろには、見習い魔導師のアイリスが続く。

可憐な笑顔を振りまきながら、魔法の杖を手に軽やかに歩いている。

知的な狩人のハクは、周囲の気配に気を配りながら歩いている。

エネミーの出現が無いよう、持ち前の観察眼で警戒してくれているのだ。

陽気な傭兵のサーシャは、浮かれた様子で歩いている。

俺達との会話もこの先の冒険にも胸を躍らせているらしい。

見習い剣士のソルトは、少し緊張した面持ちでサーシャの後ろを歩いている。

普段はおとなしいが、勇敢な少年だ。

そのソルトは額に汗を浮かべながら、段々と口数が減ってきている。

「アイリス。方向はこっちで合ってるか?」

「うん。この荒野をひたすらまっすぐ進めば、またレノンが見えてくるはずだよ」

アイリスの魔法『星の羅針盤』。

必要な時に杖に魔力を送り込む事で、星の位置から時刻や自分の今いる座標を割り出して、俺達が向かうべき場所を指し示す事が出来る……と、いう魔法。

この旅が始まってから何度かお世話になっている魔法だ。時々失敗もするため正確性があるかと言われると……微妙なところではあるが、成功するとかなり便利な魔法だ。

アイリスの杖が指し示す方向によれば、俺達が歩いている方向をひたすらまっすぐ行けばレノンの街並みが再び見えてくるらしい。

「一度通った道と言えど、荒野は目印が少ない分方向が分からなくなりやすいから……方向を指し示してくれる魔法はかなり助かるね」

「いやぁ面白いね!アイリスのその『星の羅針盤』って魔法?万能な魔法の話を聞くとアタシもやってみたくなるよ」

「一番魔法に程遠そうだけどなサーシャは」

「ふふん!アタシにはこの短剣があるからね!」

ハクの感心、サーシャの得意気な口ぶりを適当に受け流しつつ、俺はちらりとソルトを見る。

王都ハーランドを出た直後こそ声を弾ませていたソルトの声は、だんだんとトーンが落ちていき、今や口数がほぼなくなってしまっている。

俺はソルトを気にかけるように顔を覗き込んだ。

「……ソルト。疲れてるか?」

「!……ううん、大丈夫です」

分かりやすく目をそらすソルトの反応に俺は確信した。

これは……気を遣っているな。

「ソルト。疲れた時は素直にそう言っていいんだぞ。俺達は別にそんなんで嫌がったりしないし」

「そうだよソルト。無理していざ戦闘になった時にそれこそやられちまうからな。休める時に休むが吉だ」

「でも……」

ソルトは言葉に詰まる。ソルトは自分が幼い分、他人への気も多く遣おうとしている。

自分が旅についていくと決めた手前、迷惑をかけるわけにいかないとでも考えているのだろう。

「ふ~~ん……」

アイリスがじーっとソルトを見つめると、「うん!」と何かを決めたように手をあげた。

「はいはーい!そうだよ!私も疲れた!休憩しよ!!」

「アイリスに賛成〜!!お腹空いて力が出ない〜」

アイリスとサーシャが口を揃えてへたり込んでみせる。

いや、サーシャに関しては本心から言ってるんだろうが。

「王都を出発してかなり時間が経つからね。それならそろそろ休憩にしようか」

「だな。ソルトも!俺も疲れちまったからさ~。それでいいよな?」

俺はソルトに笑顔を向ける。ソルトは「あ……」と一度言いよどむが、頬を少々赤くして頷いた。

「う、ん。……えっと、僕もお腹空きました」

「よし!決まりだな。え~っと、それじゃ早速場所を……」

「あそこなんてどうだい。周囲がよく見渡せる場所だ」

ハクは小高い丘を見つけて指をさす。

「お、いいとこじゃん。よし、休憩休憩!俺も腹減ったわ」

俺は率先して丘にのぼる。丘にはくだびれてはいるものの、まだ散りきっていない茶色の葉をつけた木々が辛うじて木陰を作り出している。

「レノンで買った食料はまだ残っているよな。今日は何食う?」

俺は木陰に腰を下ろすと、鞄から食料を取り出した。

アルマドに勧められて買った『ニール』の鞄。盗賊が使っていたと噂されるものだけに、収納が多く深さもあって使いやすい。

「私これ使ってほしい!さっき王都で買ったやつ!」

アイリスがわくわくした様子で鞄に手を入れる。取り出したのは『コニャック』という万能料理の素。

薬草を調理用に加工したものらしく、水で抽出すると旨味が出る人気商品らしい。

これひとつでスープの出汁、紅茶、スイーツの隠し味……と、なんにでも使えてしまうとのことだった。魔法みたいな万能アイテムにサーシャとアイリスが目を輝かせていたのは言うまでもない。

ハクもそわそわしていたのも気のせいではなかったように思う。

ハクが食材を吟味すると、使いたいものだけを選別していく。

「野菜をそろそろ使ってしまいたいね。今日はスープにしようか」

「やった!ハクの作る特製スープ楽しみ〜!」

俺とアイリスとハクのやり取りを聞いて、ソルトが目をぱちくりさせる。

「ハクはお料理が出来るんですか?」

「すげぇんだぜハク。さすが旅人ってところだよな」

「旅をしていると自ずと備わってくるスキルだよ。とはいえ、僕の料理を好んでくれるのは嬉しい限りだね」

「へぇ〜!気になる気になるぅ!早く作ってよハク!」

サーシャが興味深々でハクに詰め寄る。それに応えるようにハクがにこりと微笑んだ。

「そのためには準備が必要なんだ。君達も手伝ってくれるかい?火をおこすために荒野に落ちている枝を集めてほしい」

「っしゃ!任せろ。おいお前ら!誰が一番集められるか競争な!」

「負けないからね!よーい…ドン!」

「!ぼ、僕も負けませんっ」

「あー!ずるいフライング!!……よぉ〜っし!アタシが一番になるんだーっ!!」

「やれやれ。競争が好きな人達が多いね」

枝を集めて回る俺達を横目に、ハクは食材の下ごしらえを始めるのだった。


*****************


「出来たよ。今日のメニューは僕特製の野菜スープだ」

ハクは大きな鍋からスープをよそいながら言う。あたりにはほのかな野菜の香りが漂い、俺達の腹の虫がことごとくくすぐられる。

「おお~! 待ってました!」

「いただきま~す!」

サーシャと俺は我先にと器を受け取ると、口の中に熱々の野菜を躍らせながら咀嚼する。

「~~~、うめぇ!!」

「あぁ~~!!!体に染みるねぇ」

「この薬草は疲労回復に効果があるんだ。美味しく疲れが取れるのがいいよね」

ハクはスープの材料である薬草についてにこやかに説明している。

ソルトはハクの説明に興味津々でスープの中身を覗き見ている。

「へえ~、すごいや。えっと、いただきます」

「あ!私も!」

ソルトとアイリスもおそるおそる口にすると、目を瞬かせてハクを見る。

「おいしいっ!」

「えっ……すごい……おいしい……」

俺も熱々のスープをすすりながら聞いている。

「な!すげぇ美味いわ。 冒険の疲れも吹っ飛ぶな」

「そうだろう?お気に召してもらえてよかったよ」

ハクは自分の作ったスープが褒められてご満悦だ。

ハクの旅人としてのスキルには頭があがらない。長い旅をしてくると、こうした野宿のノウハウも身に付くのだろうか。

「あ!ねぇねぇついでに今後の話もしちゃおうよ」

「お、そうだな。アイリスの杖がさす方向で進んできてて、たぶん順調にレノンに近づいてはいると思うんだけど」

俺達が向かっている幻影海里。そこは南の海に属する孤島であり、船に乗る事が求められることになる。

そのため船着き場のある場所に向かう必要があるのだが……それで思いついた先が、俺達が以前いたレノンの端に属する海岸、ハンネ海岸だったというわけだ。

「しかしどうやって向かおうね。幻影海里って陸離れした孤島だって話だろう?海と言えばハンネ海岸!ってことで戻って来たけど、当てはあるの?」

「南にある孤島なんだよね。レノンに戻れば海岸まですぐだってことで戻って来たけど……ハンネ海岸から船が出ていたはず、なんだよね?」

「あぁ、レノンの岬のすぐそこだな。アルマドさんがおかしくなった時に戦った時の……」

俺は苦笑いをしながら思い出す。あの時は暗かったのと必死だったのでよく見えなかったが、あの海岸は船着き場でもあるらしい。

「船があったとして、まずは船を操縦できる人を探さないといけないだろうね」

「それはまたついた時にでも考えよう。船があるなら船乗りもいるだろ」

「ついでに買い物もまた済ませておきたいね。食料調達だ」

「またお買い物できるの?やった~!」

アイリスがわかりやすくはしゃぎ倒す。もはや買い物が旅の醍醐味にいなっているらしい。

「ひとまずレノンについたら船乗りを探す、……だね。うんうん!方向性は固まった!」

サーシャは頷き、再びスープを啜る。ふと思いついたように、咀嚼を終えると再び話し出す。

「ねぇねぇところでさ!君たちの戦闘経験ってどんなもの?」

「戦闘経験?」

「そう!ほら、今までどれだけ戦闘してきたかってやつ。アタシ達旅の理由はそれぞれだったわけだし、旅の長さが違えばそれだけ戦闘経験にも差があるわけ。ハクはそれなりにありそうだな~って思ってるけど」

「僕は旅自体は数年単位だね。狩猟者の家の生まれなのもあるから、エネミーとの戦闘はそれなりに経験積んでるよ」

「ふんふん。さすがだねぁ。ソルトは言うまでもないよね。ラルフとアイリスは?」

「私はミカエルを捜し始めて……そっからだけど、あんまり戦いにならないように逃げてきたからそんなに。魔法がもうちょっとうまく行ったらいいんだけど……」

「俺はそれこそオーラニア王国の一件があってからだな。戦闘経験はそれこそグリフォレイドとの因縁で色々やり始めたくらい、だと思う。記憶曖昧だからなんともだけど……俺に戦闘経験ありまくるとは想像つかねぇわ」

「へぇ~なるほどねぇ……ふんふん……」

サーシャが何やら考えるようにうんうんと頷く。少ししてスープを一気飲みすると、パァン!!と自分の膝を叩いて立ち上がった。

「ぶあっかもーんっ!!!」

「……はっ?」

「戦闘経験そんななのにな~にそんな呑気でいるのさ!!今から行くとこわかってる?幻影海里だよ?これからゼディア関連のやべぇやつに会うかもってのに大丈夫!?ラルフとハクは怪我もしているのに?」

「え、えっと。いやそんなのは実際に戦ってみないとわからないっていうか」

「無鉄砲にもほどがあるでしょ~!最悪死ぬかもしれない戦闘なんてこの先いくらでもあるよ!こうなったら~……修行だよ、修行!!」

「修行っ?」

「そう!名付けてスペシャル強化訓練!!」

サーシャが拳を突き上げる。サーシャの高らかな宣言に俺は目を瞬かせる。

「そ、それってサーシャが俺達を鍛えるってことか?」

「そういうこと!アタシが戦闘のノウハウってものを教えてやろうって言ってるんだよ。なーに、どうせレノンまでは道程は長いんだ。ここは広くて人通りも少ない。修行にはもってこいだと思うよ?」

「修行……!」

動揺する俺とは裏腹、待ってましたとばかりにソルトが目を輝かせる。

それを見てサーシャが満足気に笑いかけた。

「決まりだね。じゃ、ご飯食べ終わったら特訓と行こうか。諸君!」


*****************


食事を終えた俺達は、サーシャの思い付きによる修行が急遽開催された。

アイリスとハクは拠点を移動するために、丘に広げた物を鞄にしまいこんで後片付けにまわってくれている。

俺とソルトは自分の剣を片手に、緊張した面持ちでサーシャの前に立っている。

俺とソルトの準備が万端なことを確認すると、サーシャは得意気にはにかんだ。

「まずは持ち方からだね。……ソルトにラルフ、短剣の構え方には基本が3つあるんだ。今日はその中でも一番汎用性の高い構えを教えるよ」

「よ、……よろしくお願いします!!」

ソルトが緊張した面持ちで頭を下げる。ソルトの緊張っぷりに、俺もつられて背筋が伸びた。

「まずは基本中の基本、『中央構え』だ。足を肩幅に開いて、片足を少し前に出す。短剣を持つ腕を軽く曲げて、短剣が体の中心、みぞおちのあたりにくるように構えるのさ。やってみて」

「こ、こう?」

「そう!いいね。刃先は相手の顔に向けるのがポイントだ。肘は体につけすぎず、少し空間を作ると動きやすくなる。それじゃ締めすぎだな、もうちょっとリラックスして。利き手と反対の腕は、体の前で軽く構えて、相手の攻撃を防御する準備を整えるのさ」

俺は言われた通りに剣を構えてみせる。いつも実践を先にしていたから、基礎の動きをするのはちょっと新鮮だな。

「よし!次行くよ。名付けて『攻撃は最大の防御』!中央構えから刃先を少し下げて、相手の胸あたりに向けるのをイメージするんだ。重心を少し前にかけるといつでも素早く攻撃に移れるからおすすめだよ」

「重心を少し前に……」

「そうそう!ソルトの構えいい感じだ。ラルフ!傾きすぎ!もうちょっと身体を引いて!力入り過ぎてるよ!」

「す、すんません!」

「すごいね。本格的なアドバイスだ」

「流石傭兵ってところかな。戦闘のノウハウはばっちりみたいだ」

後片付けをしながら、アイリスとハクが感心したようにこちらを伺ってくる。

「前のめりになりすぎないのがなんで必要なのか分かるかい?」

「あー……いざ攻撃を受けた時に対処できないから、か?」

「その通り!いくら攻撃は最大の防御と言っても、相手に攻撃の隙を与えちゃ意味無いんだ。相手が攻撃してきたら、中央構えに戻して防御!攻撃のチャンスが来たら、一気に間合いを詰めて攻撃!これポイントね」

「じゃあ、守る時はどうしたらいいの?」

「よくぞ聞いてくれたね。それじゃ『防御』の仕方も教えとこうかな。今短剣を持っている方の腕あるだろ?その腕を体の前でクロスさせて、刃先を自分に向けるんだ。相手の攻撃を腕で全力で受け止めたら、すぐに中央構えに戻して反撃のチャンスを伺う!戦闘は攻撃と防御の繰り返しだ。この基礎をローテーションすることでちょっとした戦闘ではまず自分のヘマで負けることは無い」

「攻撃と防御のローテーション……」

「だからってその考えに固執しすぎるのもよくないけどね!知能のある相手は目の前の敵を打ち倒すならどんな手段も用いてくる。そうなった時はこちらも臨機応変に対応していくしかない。まぁアタシもいるし?戦闘経験もあるハクもいるから早々うっかり死ぬなんてことはないと思うけど。ね!ハク!」

「ははは。シャドウで死にかけたけどね」

目が笑ってねぇぞ、ハク。

「まぁ慣れるまでは色々な構えを試して、自分に合った構えを見つけるのが手っ取り早いと思うよ。そのためには……」

「そのためには?」

「実践!だね!!」

サーシャがウインクして自分の剣を抜き出し、構える。かと思うと地面を蹴り上げ、虚空に向かって次々と剣を振り回し、身を翻し、攻撃をかわしたような素振りをした後着地した。

「おぉ~……すげぇ……」

俺は思わず感嘆の息をもらした。

「ふふん!ざっとこんなものさ。さ!ラルフとソルトも。実際に短剣を持ったまま、色々な角度から素振りしてごらん。最初はゆっくりとした動作から始めて徐々にスピードを上げていくんだ」

「よし!やってやろうぜ、ソルト!」

「うん!重心を前に、中央で構えて力を入れ過ぎない……」

教えてもらったことをもとに、俺とソルトは素振りを始める。

サーシャは満足そうにうなずくと、俺達を見守っていたハクとアイリスの方を見て手招きした。

「ほら!二人も。修行するなら今だよ」

「え。僕達も?」

「アタシは2人を仲間外れにするつもりないよ~?剣術以外は教えられないけど、いざという時の戦い方はハクもアイリスも知っておいた方がいいだろう?ほら、長物は『正規の方法』で使うだけじゃない。ほら、構えた構えた!」

「構え……、……」

アイリスが杖を剣のように構えてみせる。ハクもアイリスを見てサーシャの言葉の意図に気が付いたのか、苦笑して弓を構えてみせた。

「まぁ、やれと言うなら断る義理はないかな」

「お!素直なのアタシだーいすき!……よし!それじゃ~……サーシャ先生の熱血指導で、君も一人前の短剣使いを目指せっ!!

決まった!とでもいうようにサーシャがばちばちのキメ顔をしている。

思わずそれに噴き出すソルトとアイリスに、俺やハクもつられて口元が緩んだ。


サーシャによる熱血指導は、日が傾くまで続いた。


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