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渾沌のメシア-全てを識る為の物語-  作者: 翠雨
第四章「幻影巣食う霧の夢」
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#26「アポロンの因縁」

* ノア~???「???」にて~


その日の夜、私は自室でコーヒーを飲んでいた。

四角く切り取られた夜空を自室で見上げて、口内を苦味で満たす。外界の音を遮断した空間で思考を巡らせる。

オーラニアの戴冠式を中止させた。

ヒュドラの街のルミエラ信徒を手にかけ、ヒュドラ教会の神父を復興に回させてこちらへの介入を阻害。

オーラニアの王女の身柄の確保および監禁。

ハーランド修道院の修道女、子ども達の信仰弾圧。

そして、オーラニア王国の完全鎖国。

オーラニア王国は外国への干渉を完全に遮断している。オーランド王のしでかしそうなことは単純だ。おおむね自分の国の威厳を守らねば、他国に侵攻を許すことにも繋がりかねないからだろう。

しかし、鎖国は逆を言えば、王国で発生した事象についても他国に知れ渡る事がない。今回のような私達グリフォレイドの介入も、あのオーランド王はおそらく隠蔽した。

私達の存在を水面下に留めることは、私達グリフォレイドの計画を助長しているようなものだ。それをオーランド王は気づいていない。手のひらで転がされているとも知らずに。

先程シャドウが帰還した。王座に現れた『あの方』に報告をするシャドウの話を、私とリーシャ、ジンも共に聞き、共有を受けた。

報告によれば、勇者に新たに2人仲間が加わったらしい。

勇者に見習い魔導師、狩人、見習い剣士、傭兵。

計画は順調だ。下手に介入をされて計画を崩されては元も子もない。

新しい芽は早めに摘んでおくに越したことはないだろうが、どう動くのが最善か。

そんな事を考えながら夜空を見つめる。黒い空には満月が浮かび、静寂の中で白い光を灯している。

(そういえば『あの日』も綺麗な満月だったな)

私は過去に記憶を巡らせ、しばらく思考したのち再びコーヒーを口にする。

口に苦味が広がった時、ふいに扉の向こうから気配がした。

「ご機嫌いかが~ノア?」

扉の向こうにあったはずの気配は、次の瞬間には背中ごしに存在した。

気配の消し方、そしてこのふざけた声色との付き合いは長い。

振り返らずとも、その人物を予測するのは容易であった。

「……シャドウ。入る時はノックをしろといつも言っている」

「え~?そうだっけ。まぁいいでしょ、ノックをしないのなんて敵か僕くらいなんだからさ」

「……いつか間違って消されても文句を言うなよ」

「おぉ、怖い怖い。でもノアはそんな見極めミスなんてしないでしょ?最強の黒魔導師なんだからさ」

くすくすと笑ってシャドウは部屋のソファに腰掛ける。まるで自分の部屋のようにくつろぎ始めるのを一瞥し、再び背を向ける。

「……いつもの道化師の服装はどうした」

シャドウは今は道化師の恰好はしておらず、黒シャツのみでそこにいる。

顔の白塗りも無いその姿は、口さえ閉ざせばただの青年のように思える。

おおかた返り血で汚れたからなんて理由だろうが、普段の恰好が恰好なだけに、シャドウが軽装でいると妙な違和感を覚える。

「ん~?あ。これ?だってノア、汚れた服で部屋入ったら怒るでしょ?僕なりの配慮ってものさ♪」

「そもそも今回お前がやるべきことはハーランドのルミエラ教徒の弾圧だ。無駄に血を流したことについては説明はないんだな」

「あれ、ノアってばご立腹?僕の『これ』は今に始まった事ではないでしょ?」

「……そういう問題ではない」

「え~、なになに、そんな事言って……あ!そんなにいつもの僕の恰好が見たかった?」

俄然笑顔なシャドウを俺は振り返る。黒シャツ姿でこちらを見るそのシャドウを見て、私は無意識に口を閉ざした。

「……別に。……ただ……」

「ただ?」

「……いや。何でもない」

「えぇ~なに?気になるんだけど~?」

「それより。……修道女の惨殺、だったか。……お前は殺すことに躊躇が無いな」

「え~?そんなことないよぉ、子ども達のこともまとめてやっちゃいたかったのをぐっと堪えたんだからさ。僕ってばえら~い!ちゃあんと言われた通りにやる事やったし、『ゼディア』が増えるのも時間の問題かもね」

「子ども達全員が将来的な犯罪者……か」

「ん。なに?な~んか浮かない顔じゃない?」

「貴方がわざと殺さず、『ゼディア』を埋め込むこともせずに逃した子どもについて引っかかるんじゃない?」

扉の向こうからノックが2回。それと同時に、私の返答の代わりにシャドウへと返答する人物が現れた。

「……リーシャか」

「お邪魔するわね、ノア」

「あはっリーシャ♪久しぶりに帰って来たのに随分な言葉だね~?僕のこと嫌いなのかい?悲しいなぁ」

「よく言うわ。以前戦闘を離脱した私を煽ったのはどの口だったかしら」

「おや?根に持っているのかなリーシャ。ただ倒すだけじゃ勿体ないでしょ~?せっかく面白そうな事が始まりそうなんだよ。もっと強くなってもらわないと♪」

「……貴方を見ていると同情するわ、あの子に」

「敵に情なんて持ったところで、じゃない?優しいな~リーシャは」

「敵、……そうなのかしらね」

「なぁに?リーシャ、何か『疑問』にでも思っているの?」

シャドウがじっとリーシャを覗き込む。その目は閉ざされているはずなのに、確かな冷たさを感じる瞳をしているのが、傍からみているだけでも伝わってきた。

「……。……何でもないわ」

「え~?本当にそうかなぁ」

「よせ。時間の無駄だ」

リーシャとシャドウの言葉を私は断つ。

リーシャとシャドウは、どうも相性が悪い。話が長くなる前に二人のやり取りを打ち止めた。

「えぇ~?まだ話し始めたばかりだよノア?」

「そこから不毛な言い争いが始まるだろう。リーシャも暇じゃない。お前の茶化しには付き合ってられない」

「ふぅん。……ノアって妙にリーシャの肩を持つよねぇ」

「……」

「ま、いいや!ねぇ、そういやリーシャ、王女様は今どうなっているの?」

「……従順に食事を口にしてくれて今は眠っているわ。マリー王女の準備はできてる。あとは目覚めるのを待つだけ」

「順調だねぇ。あとは~……あれ?ジンはどこ?」

「知らない。どこかに出かけているんじゃない?」

「ジンはつい先刻出かけていった。帰路時間は不明だ」

「全く、自由な暗殺者だね~。命令もないのによくいなくなるよね。勝手になにかしてるのかな~」

「暗殺者という身だ。知らぬ間に帰ってきていても、気配がなく他人に姿を気づかせていないだけかもしれない」

「まぁいいんじゃない?やることはやっているんだし。『あの身』で『あの方』のお咎めがないって事は、怪しいことはしていないのでしょう」

「……そうだな」

私は無意識に胸に手を当てる。この『身体』である以上、下手な行動をすることは出来ない。

「ま、僕達は計画通りにやるだけだね」

「……私、戻るわ。王女の様子を見に行ってくる。お邪魔したわね、ノア」

「構わん。……シャドウも早いところ退出しろ」

「えぇ~。もうちょっとお話しようよぉ」

拗ねるものの依然としてソファから動く気配のないシャドウを尻目に、私は半ば諦心の思いで口にコーヒーを含んだ。


*ラルフ ~アルドニア王国「王都ハーランド・ハーランド修道院」にて~


俺達5人は、フィリアが呼んだアルドニア王宮の兵士たちの到着を待っていた。

報告だけならフィリアだけで出来るが、現場の一部始終を知っているのは俺達だ。

修道女達の死亡は、死体がない以上証明がつかない。子ども達も今朝普通に起き出し、普段となんら変わりの無い生活をしている。

現場を知らない人物が話を聞くだけでは、フィリアの話の信ぴょう性がほとんどない。

万が一にも備えて、俺達はフィリアの報告が済むまで出発を待つ事にしたのだ。

「アルドニア王宮からくる奴ってどんな奴なんだろうな。アルドニア王宮は王様が一切国民の前に姿を見せないんだったろ?王宮の人間って聞くと身構えちまうんだけど……」

「ふふっ。ラルフってば王宮の人達にあんまりいい思い出ないんだもんね?」

「えっそうなの!?なになに、追われ者にでもなったことがあるとか?」

「そんな食いつくなサーシャ!ちょっと濡れ衣着せられて王宮に連れてかれただけだよ。すぐに助けてくれた人がいたからなんとかなったけど……つか、それに限らず怖ぇ人ばっかいた記憶があるからな。レイヴァスの団長さんとか……王様も威厳ありまくりだったし……」

「レイヴァスって王宮兵士だろう?王女の誘拐があったんだ、そりゃぴりぴりもするだろうさ。王国の統治に関わる人間なんてそんなものだよ。僕が関わりのある昔のアポロンもそうだった」

「わわ、ラルフもサーシャも……ハクも王宮の人と関わりがあるなんてすごいや」

ソルトがごく……と息を呑んでいる。純粋なその反応に俺はつられて笑う。

そんな話をしていると、遠くから馬のひづめの音が近づいてくるのが聞こえてくる。

「来ましたか。お迎えにあがりましょう」

フィリアが立ち上がり、玄関の方へと赴く。

俺達もそれに続くようにして、フィリアと一緒に外に出た。

外に出ると、馬に乗っている人物たちがちょうど門の前に来ていた。

野次馬精神でこちらを覗き見る町の人々の視線を気にも留めず、先頭にいた一人の大柄な弓兵が降りてくる。

「アルドニア王宮兵士アポロン、只今参上した。我が王宮に遣い鳥を交わしたハーランド修道院の修道女は誰だ」

「私です。はるばるいらしてくださり、感謝いたします」

フィリアが一歩、歩み出る。

「貴様か。私はアポロン団長のオウル=ドムルだ。貴様も名を申せ」

「修道院長のフィリア=ミスティと申します。私が貴方がたをお呼びした理由は……遣い鳥に交わした通りです」

オウル、と名乗った男はフィリアを見、そして後ろにいる俺達にも視線を向ける。

ハクの姿を見た途端、ぎろりと目の色が変わった。

「っ!貴様……」

「御無沙汰しているよ、オウル団長」

睨まれた途端、ハクはにこやかに手を振る。

「……え。おじさん達知り合い……?」

今にも掴みかかりそうな声色を発するオウルを見て、ソルトは尻込みする。

そんなソルトの様子を見てか、オウルはぎこちない笑みを浮かべて目を細めた。

「ちょーっと昔の繋がりがあってね。ごめんねボク?怖がらせたかな」

「い、いえ。……僕は……別に……」

「まあいい、今は話を聞きに来たのだ。……中に通してもらえるか?」

「はい。こちらへ」

オウルはすっと無表情に戻ると、フィリアの案内に従って中へと入る。

残りのアポロン達も、ハクを一瞥した後オウルに続くように中へと入っていった。

「……おい。アポロンの因縁は時効だったんじゃないのか?」

「はは、『王様』とはね!アポロン自体のメンバーは変わってないから、勝手に団を裏切って抜けた僕は目の敵だと思うよ」

「あはは!ハクってばなに、なーんかやばいエピソードでもある感じ!?」

「ちょ、ちょっとサーシャってば冷やかさないで」

「えっと。は、早く行こ!」

アポロンの兵士たちの反応とは裏腹に、にこやかな雰囲気を漂わせるハクに虚をつかれつつ。

俺達も話を聞くべく、中へと戻っていくのであった。


*ラルフ ~アルドニア王国「ハーランド修道院・応接間」にて~


フィリアはアポロンを応接間に通した。

応接間の椅子に並んで座る7人のアポロン達。その正面に向かい合わせになるように、俺達6人は座っていた。

フィリアが一連の事件の全貌を話し、アポロンの中心に座るオウルが時折相槌を打つ。

隣に座る兵士が手記に何かを書き記している。偵察記録でもしているのだろうか。

「ふむ、ハーランドの幼子達の謎の失踪事件の全貌、そして修道女の大量虐殺事件。その流れは理解が出来た。して、その幼子と修道女達は?」

「子ども達は……1名が死亡。その他全員が昨夜誘拐され、一夜のうちに帰還しました。『肉体面』は無事です。何の問題もありません」

フィリアの報告に俺は目を伏せた。

この件をアポロンに報告する際、フィリアは子ども達が『ゼディア』を埋め込まれたことを自らは明かさないらしい。

というのも、アポロンは精神干渉をする禁忌魔術を解けるほどの精鋭はいない。

もしも過去誘拐された子ども達がいずれ殺人を起こすような可能性を起こすと知られたら、悪意の芽を摘むのを優先して大量処刑の手段に出られる可能性がある。

だから、あくまで『肉体的には』無事。嘘は吐いていない。


―――もし子ども達が悪意に染まった時には、その時はどうするんだ?

―――その時は……殺人鬼、と言われた私がこの手で殺します。

―――勿論、子ども達に悪い事には手を染めさせません。内に潜む『ゼディア』も出来る限り抑えて、解術する方法も探すつもりです。……けれど、最悪の場合は……王宮に真実を報告しなかった私が責任を取ります。


―――この事、ソルトに聞かれたらまた怒られてしまうかもしれませんね。


数十分前のフィリアとの切迫したやり取りを、俺はふいに思い出す。

「ほう?無事なのか。その幼子達は今どうしている」

「普段通りの生活をしています。今朝もいつも通りに食事をして、今は自由な時を過ごしています。この後も眠り、そして次の朝を迎えるでしょう。こちらは私が責任をもって経過観察をするつもりです。……それよりも、オウル様方をお呼びした理由は、別にあるのです」

「『修道女』の件か?」

「さようでございます。当ハーランド修道院の修道女の虐殺は南西の海底洞窟で行われました。しかし次に見た時、数時間もしないうちに、血痕すら残さず死体の影は一切消えてしまったのです」

「奇怪だな。黒魔術が関与しているとしか思えん。再び見に行ったとは、貴様が?」

「いえ。私ではなく、この子が。彼はこの修道院に住む私の家族です。彼は唯一誘拐を免れ、仲間を想い洞窟を調査したのです」

「ほう。貴様の名は?」

「そ、ソルトです!!」

「ソルトか。……ふん。勇敢なる少年だ。しかしこうした調査は我々の仕事だ。その勇気、棒に振るなよ」

「は、……はい!!」

「状況は把握した。……報告ご苦労。海底洞窟、あそこの調査は我々が執り行う」

「……その御心に感謝いたします」

オウルの返答にフィリアはほっと息をつく。フィリアが頭を下げるのを見た後、「……さて」と呟き、オウルは再びハクの方を見た。

「それで?貴様がなぜここに存在するのかを説明してもらおうか、『ジェイド』」

ジェイド。ハクのアポロン時代の偽名か何かだろうか。

「相変わらずの人相だね、オウル団長。なぜと言われても、旅をしていたらちょうど王都に来る予定が出来たからとしか言いようがないな。まだ団長してたんだね」

「ふん。貴様誰に口をきいている?貴様が以前どこに所属していて、何をして王宮を去ったのかを忘れたのか」

「なんにもしてないよ。アルドニアの騎士団としてアポロンに所属させてもらったのは事実だけど、アポロンでいる利益がなくなったから脱退させてもらっただけさ。あの時の王様も、民主主義というより野望家だったし。高額な動物売却の取引も良しとしていて、あんまり好きじゃなかったんだよね」

「貴様、よくアポロンの前でその口が聞けたな。王宮への冒涜として今この場で処刑をしてもいいんだぞ」

「できないでしょう?『アルドニア王』は3年前に代わっているんだ。以前の王様なら勝手な処刑も国のためなら許しただろうけど、今の『アルドニア王』はそんな勝手を許すのかな?」

「……ふん。アルドニア王の御慈悲に感謝するんだな」

言いようのないほどの悪い空気に俺は思わず息をのむ。

おい、ハク。周りを見ろ。ソルトとアイリスが肩並べて引いてるぞ。

サーシャだけはなぜか面白いものを観戦しているかのように笑いをこらえてはいるのだが。

俺はフィリアと苦笑いを浮かべあった後、その二人の会話を断ち切るように「あの!」と声を発した。

声の主を探すように視線を滑らせた後、オウルは俺を見ると見定めるように言う。

「そこの貴様らは?」

「オーラニア王国から来ました、剣士のラルフです。こっちは俺の旅の仲間達。……あの!!海底洞窟の調査、よろしくお願いします!!」

「ほう、……貴様、オーラニアの剣士か。珍しいな、今時のオーラニアに剣士なんて」

オウルはアポロンの団長なだけあって、妙な威厳がある。レイヴァスのエイン団長もかなり威厳ある奴だったが、オウルはそれと同等、もしくはそれ以上かもしれない。

「珍しい……そうなんですか?」

「魔法扱う奴らが増えてる今、わざわざ剣を使う必要もないという考えの奴らが貴様の国じゃほとんどなのだろう?」

そ、そうなのだろうか。たしかに王宮じゃほとんど杖を持つ奴らしかいなかったが……。

「……しかし、そうか。そうなると貴様らは、このフィリア殿の言う『一連の事件』の関連者でもあるのだな」

「は、はい。そういうことになります」

「それなら話は早い。……剣士ラルフ。お前達に我が女王が相まみえたいとのお達しを受けている。アルドニア王宮に向かうがいい」

「っ!女王様が……ですか?」

オウルの言葉に俺は目を瞬かせる。今のアルドニア王は、国民に姿を一切見せたことがないのではなかったか。そんな女王が一介の剣士である俺に姿を見せる?そんなことがあるのだろうか。

「お言葉だけどオウル団長」

「ふん。ジェイド、貴様に団長と呼ばれる筋合いはもうないわ」

「それなら、オウル。アルドニア王は人の目にさらされるのを激しく嫌う方なんじゃないのか?そんな方がラルフに会いたがっているというのか?」

「女王の考えまでは我々も知るところではない。そもそもそこの剣士が王宮に足を運べば、貴様もついていくということだろう?我々アポロンとしては、得体の知れない貴様に王宮に土足で入り込ませるのは反対なのだ」

「でも女王の言葉には逆らえないってわけだね。全く、アポロンの忠誠心は昔も今も変わらないね。『どんな命令であっても従う』。僕の肌にはいささか合わないや」

「貴様、どこまでも口が……」

「ま、まぁまぁまぁ!!」

険悪になりかける空気を俺は再びぶった切った。

「とりあえず、アポロンの方々は海底洞窟を調査していただけるんですよね?ありがとうございます。そんで、俺達はアルドニア王宮に向かう。それでいいですよね?」

「あぁ。それでよろしく頼む。……フィリア殿。修道院の中の調査も兼ねてここをしばらく拠点とさせていただくぞ」

「構いません。では、早速子ども達の様子も見ていただきますね」

フィリアが席を立ち、それを合図にアポロン達も立ち上がる。

フィリアに誘導されるがままにアポロンは応接間を出て庭園に向かう。今は自由時間。子ども達の遊んでいるところから見てもらうのだろう。

俺達もアルドニア王宮に向かうべく、席を立つ。庭園に向かうアポロンに背を向け、真逆にある玄関へと足を運んだ。

「ラルフさん。サーシャさん、アイリスさん、ハクさん」

外に出る前に、フィリアが俺達を引き留めた。

「ソルトをどうか頼みます。どうか、御武運を」

「あぁ。フィリアも頑張れよ」

「勿論です。……ソルト」

フィリアはソルトを見て微笑んだ。

「行ってらっしゃい。気を付けて」

まるで遊びに出かける子どもの帰りを待つ母親のように。

「!……うん!行ってきます!」

それにソルトは応える。

まるで我が家で待つ、母親の笑顔に安心する子どものように。

名残惜しそうに何度も振り返っては手を振り、ソルトは俺達の背中を追いかけた。


「……お前、ソルトのこの純情さ見習えよ」

「先に吹っ掛けてきたのはあっちだよ。仕方ない事だね」

怒っているのか心から笑っているのか分からないハクの笑顔に、俺は若干の悪寒を感じるのであった。



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