表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

2. ラッフェルガウの姫君

 その男を白馬の王子と呼ぶにはいささか抵抗のある厳つい容貌だった。

 だが、酔っ払いとはいえ商人の護衛を生業といているらしい大の男を、一瞬で二人も制圧した技量と度量は本物だ。

「レダ、こっちへ!」

 エリオットは残った酔っ払いの注意が逸れたのを機に、黒髪の女性の手を引いて白馬の王子の背後へと逃げおおせた。

「コッド、アラン。お嬢ちゃんたちを頼む」

 白金の短髪の厳つい王子が言うと、彼と同じ鎧を身につけた若者がエリオットとレダの肩を掴んで自らの背後へと匿った。酔っ払い男は完全に形勢を逆転されてしまっていた。

「わ、わるかったよ。俺たちだって、ば、馬鹿じゃねぇからよぉ……」

 そう言うと、意識を取り戻した仲間の手を借りて、未だにのびているもう一人を担いで一目散に逃げ去った。

 白金の短髪の男は大きく息を吐いて”だんびら”を再び腰に佩いた。そして振り返ると、何事もなかったかのような表情でエリオットとレダを視線で射た。とても弱者を助けたような人間がするような目ではなかった。

 レダは不安を隠さず、エリオットを横目で見る。

 少年は実にキラキラとした目で、白金短髪三白眼の男を見上げていた。

「ありがとう、騎士様!」

 エリオットが言った。



 薄暗い印象があった教会の中は意外と明るかったが、一堂に会した面々は暗く沈んだ顔をしていた。

 この日の朝早くに教会でただ一人の神官が連れ去られ、修道女たちは悲しみに暮れながら五人の訪問者を出迎えた。

 半刻が経っていた。

 エリオットにレダ、ペイバック、コッド、アランが神官の代わりに教会を預かる人物に面通しを願ってから、実に半刻が経っていた。

 小さな部屋をあてがわれ、そこで語られた教会補佐役の話は実に簡潔だった。

 赤に白一文字のマントの兵士が、女神官の公王に対する反逆罪の虞があるとして、彼女を連行して行ったのだと言う。罪状については事実無根で、ただ前の晩に「ラッフェルガウの領主が亡くなった今、スケアドの民としてお守りする義務がある」とおっしゃっていたと補佐役は付け加えた。

 スケアドというのは彼女たちが信奉する女神で、二百年ほど前に起きた二度目の魔人戦争において人間側に魔法をもたらし、魔人の使う魔法に対向できる手段を与えた救世主と伝えられている。無論、修道女たちは女神の加護を受けてか、一通りの魔法を行使することができた。街の癒し手として治療魔法に専念はしていたが。

 一方、エリオットとレダはペイバックら三人が街の治安を守る民兵であると紹介を受け、逆に自分たちの素性を聞かれて名だけを名乗り、それから口を閉ざしてしまったために半刻も過ぎてしまっていた。

 ペイバックは驚くほど微動だにせずに、鋭い三白眼でエリオットを睨みつける。

 コッドとアランは、エリオットより年長者であるレダが保護者であると考え、あの手この手で話を聞こうとするが、レダもペイバックよろしく微動だにせず無表情を貫いた。

 この状況で神官に用があったと告げるにはあまりに危険であると、エリオットの勘が働いていた。緊張と戸惑いが表情にも現れ、冷や汗がこめかみから顎に伝う。

 静寂を切ったのはペイバックだった。

「補佐役殿、席をはずしてもらえるかな? コッドにアラン。おまえたちもだ」

 驚いて顔を上げたエリオットの目がペイバックの射るような視線とぶつかる。

「俺だけが話を聞こう。事と次第によっては他言せぬよう配慮しよう」

 その言葉を聞いて、退室を促された三人は部屋を後にした。

 残されたエリオットとレダは安堵したように身じろぎをした。

 互いの頭数の差が心理的にも劣勢を強いることをペイバックはよく知っていた。だからこそ部下らを退室させる機転を利かせた。なによりこの少年には個人的にどうしても訊きたいことがあった。

 否、少年ではない、とペイバックは見抜いていた。

「エリオット。ひとつ君に聞いておこう」

 胸の前で腕を組み、ペイバックが薄い唇から低い声を紡いだ。

「君は俺を”騎士”だと言ったな。なぜだ?」

「あなたの見せた投げ技が騎士の習うそれだったからです」

 エリオットは即答した。これほど長く沈黙を保っていたというのに、ましてやペイバックの問いが二人の素性とはなんら関係のないものだったというのに、あらかじめ用意されていたかのように明快な答えだった。

「たったそれだけか?」

「いいえ、他にも。あなたに同行してた二人が細い棍棒であるのに、あなただけは佩刀していましたし、鎧の下にきちんと綿入れを着ています。この争い事と無縁な城砦で民兵が得られるものではないと感じました」

「なるほどな。君が何者なのかはっきりしたよ」

 エリオットはしくじったという顔で隣のレダに顔を向けたが、彼女は無表情のままその顔を逸らした。

 エリオットが向き直ると、ペイバックは一つ大きく息を吸って言葉にした。

「ラッフェルガウの姫君──」

 エリオットは観念した素振りで、首を縦に振った。

 少年だった顔つきは、柔らかな少女のそれになっていた。

「エリオット・ショー・ラッフェルガウ。城主にして城伯を賜る者です」

やっと主人公の紹介ができました。


文字数少な目ですが、キレのいいところにて。


※02070140 サブタイトルなおしました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ