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ベーコンレタスな旦那様  作者:
公爵家編
3/8

3



食べ終わった主菜の皿に残ったソースをフォークで弄びながら、フェノリアンは弟の婚約者をちらりと見た。

東朝王家に多く見られる透き通るように美しい蜂蜜色の髪に濃紺の瞳のコントラストがなかなかそそる。

妹姫たちと比べると格段に地味な顔だが、健康的体つきでスタイルが良い。


ベッドに連れ込んだら、どんな顔するんだろーなー。


女好きの第二王子は、まだ日が沈みきっていないうちからそんなことを考える。ちなみに、西領は冬以外日が長く、八時過ぎまで夕焼けが見える。

しかし、流石に弟の婚約者と火遊びをするのはまずいだろう。

フェノリアンはソースのついたフォークを唇に触れさせる。

第三王子のトゥーファイズは自分の弟とは思えないほど堅物だ。

兄である第一王子とは一人の女をめぐって争ったこともある。結果的に兄が勝ったが、数カ月で飽きて袖にしていた。

しかし、トゥーファイズとはそうもいくまい。

不器用なこともあるが、彼は自分の兄たちに心酔しきっている。あっさりと自分に婚約者を譲ってしまうだろう。

そうなったら、火遊びではすまない。

面倒だもんなー、と思いながらアルサンドラを見ると、父王に色々と質問をされていた。

一方、婚約者であるはずのトゥーファイズは全く話していない。

食べ終わった皿に行儀よくナイフとフォークを並べ、窓の外を凝視している。

何かあるのだろうか、とフェノリアンもそちらを見てみたが、特に何もない。

隣の視線に気づいたのか、トゥーファイズがこちらを見る。


「何か?」

「いやー、別にィ。ただ、アルサンドラ姫と話さなくていいのかなってさ」

「さっき話したので別に構わない。話す必要性は特にない」


素っ気なくトゥーファイズがいう。


「カノジョ、こちらに慣れてないから不安なんじゃない? お前が話しかけた方がいいでしょ」

「俺が話しかけたところで寛げるとは思わない」


つまんないやつだなー、と溜息を吐く。

アルサンドラは先ほどから緊張した

苦笑いばかり浮かべている。


「随分と萎縮しているようだな」


トゥーファイズとは逆の隣から声がする。


「エーゼも話しかけたげたほうがいいと思うよねェ?」

「さあな。私の婚約者ではないからな」


第一王子エーゼワルドは頓珍漢な答えを返す。

これで女性にモテるのだからずるい、とフェノリアンは思う。自分は結構な努力をしているのに、エーゼワルドと言い寄られる女性の数は大して変わらない。


「それよりもフェノン兄上、行儀が悪いからフォークは置け。エーゼ兄上も……何やってるんだ」


トゥーファイズが呆れた声を出す。

エーゼワルドの皿を見れば、ソースで何か落書きがしてあった。


「一国の王子がこれでは呆れる」

「今日は身内だけだから構わんだろう」


エーゼワルドが憮然として答える。

兄と弟はどうしようもないやつらようだ。

自分のことを棚に上げて、フェノリアンはフォークを置くと、声を張った。


「アルサンドラ姫、トゥーファとはどのような話をなさったのですか?」


いつも女性に向けている甘い笑顔を浮かべると、アルサンドラは少し安堵したようにこちらを向いた。


「トゥーファイズ様とは……」


安心したのも束の間、口籠って視線を彷徨わせる。


「特別には何も話しておりません……」


気遣って話しかけられたのだと分かっているのだろう。それ以上会話が続かなかったことに申し訳なさそうな顔をする。

仕方ない、トゥーファを巻き込むか。


「トゥーファ、お前、アルサンドラ姫と何話したの? 彼女は緊張してあまり覚えてなかったみたいだけど」


トゥーファイズはたっぷりと間をとって、ようやく口を開く。


「……髪の色の話をした」


いきなり、初対面の女性にそんな重いトラウマ話をしたのかっ。

思わずツッコミそうになるのを抑えた。

アルサンドラはこんな重い話しかしていないから、気を遣って、何も話していないと言ったのだろう。


「そ、そうか」

「彼女も公爵令嬢なのに王族の色を継いでいて、やっかみを買ったそうだ」


どうやら、身の上話をするくらいには弟が嫌われていないようで安心する。

アルサンドラも初対面で生まれの話ができるくらいなので、あまり生まれに関してコンプレックスを持っているような面倒な性格ではないのだろう。

期待が持てそうだ、とテーブルの上のワインに手を付ける。


「俺の髪の色も気にしていないそうだ」

「よかったな」

「それどころか、将来の頭皮の心配もしていた」


唐突なトゥーファイズの言葉にワインを吹き出す。


「は?」

「黒い髪だと頭皮が薄くなっても大丈夫そうだと、叔父上を見て思ったそうだ、カリシュード殿が」


アルサンドラの隣から派手に咳き込む音が聞こえてきた。

明るいヘーゼル色の頭が揺れる。


「カリシュード殿は壇上の叔父上が眩しかったそうだ」


一瞬、部屋がしんとした後に何人かの笑い声が響く。王とエーゼワルドと叔父、それに叔父の妻と子供たちだ。


「それはすまなかったな、カリシュード殿よ」


叔父が相変わらず頭を光らせて、カリシュードに謝る。


「失礼なことを……申し訳ありません」


カリシュードは頭を下げながら、アルサンドラを睨みつけているが、アルサンドラは明後日の方向を見ていた。


「気にしないでいい。陛下にもよくからかわれる」

「そうだぞ、むしろ眩しいなら申せばよいものを」


叔父と王が言い、エーゼワルドは隣でまだ笑っている。

トゥーファイズも表情が変わっていないように見えるが、目元に力が入っている。笑っている証拠だ。


カリシュードは義姉に軽く肘打ちを食らわせていた。

フェノリアンも笑いながら、今度は吹き出さないように慎重にワインを口に含んだ。


東領の王女と王子にとって、初めての西領での夜が更けてゆく。




西領王家(現時点で登場した人物)


ディエスタ・エク・ドゥール

……セラドゥール王国西朝の王


カザシル・エク・ドゥール

……王の弟。頭が寂しい。重臣の一人。


エーゼワルド・エク・ドゥール

……第一王子。


フェノリアン・エク・ドゥール

……第二王子。女好き。


トゥーファイズ・エク・ドゥール

……第三王子。不器用な堅物。

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