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七話 温泉の町

 黒城は街の制圧を終えて、夕日に照らされ煙を上げるフベツの街を背景に、のんびりと高級宿ムッシュの温泉につかっていた。


「ふぅ……気持ちいい。ああ、街を制圧した後の温泉はいいなぁ」


 黒城ら魔王軍は魔王城の復活後から数ヶ月、次々と街を襲撃し、制圧と魔族の解放を繰り返した。

 その全てがユルハリのごとく、特に何の障害もなく成し遂げられ黒城は満足であった。

 そして今、火山と温泉の街であるフベツを制圧した黒城たちは軍を一時休めるために温泉宿で休養していた。


「ああ……しかし、一人で広々とした風呂を使うのは最高だ」


 本来なら大人数で入るのであろう広々とした大露天風呂を独占する愉悦を黒城は味わっていた――まさに、王だと。

 しずかに流れる時間、白い湯気、どこからともなく聞こえてくる変な鳥の鳴き声、聞き覚えのある少女の声――


「えっ……」


 黒城は驚き、顔を真正面から逸らした。

 いつの間にか湯気の中から無邪気声をあげながら全裸の神崎が姿を現したからだ。


「魔王さまー、ねえねえ体洗ってあげるよ」

「ぶべら! 何いきなり入ってきてるんだよ。入り口には幽霊男爵を置いて立ち入り禁止に――」

「えっ、わたしと島村ちゃんは入って良いって――」

「あのおっさん幽霊め……って事は」


 言葉通り神崎に続き、全裸の島村も現れた。

 その体は胸が小さく、凹凸の少ない少女体型であったが、悪魔らしい謎の色気も持ち合わせていた。

 おそらく、彼女の裸体を見ればどんな熟女好きもロリへの道へと転がっていくだろう。


「えっ、ま、魔王様……ふ、ふふ、ふしゅー」


 島村の方は恥じらいの一つもない神崎とは対称的に、燃えている石炭のように顔が真っ赤になっていた。

 その体は大きくも小さくもない普通の胸と元お嬢様らしく綺麗な下半身で、それらをなんとか両手で隠そうとしていたのがよりエロティックであった。


「お、おわわわ……」


 どうして魔王チートの中に女耐性が無いのか――黒城は二人の裸を見て恥ずかしくなって、慌ててしまう自分を情けなく感じた。


「ま、魔王様。あまり恥ずかしがられると、こっちも……大体、あの時は触手で私を陵辱しようとなされていたのでは――」

「あの時は殺意のテンションだったから。ああ、あの時やってれば女耐性出来てたかもしれないのに!」

「魔王さま、もしかしてわたしの裸で? やったー、嬉しいよ」

 

 神崎が湯船の中で無邪気に飛び跳ねる。


「おい、やめろ、お湯が顔に。それに神崎みたいな幼女っぽい見た目の奴に興奮するなんて、犯罪……ああ、まあ常識を語って邪魔してくる奴は皆殺しにすればいいのか。はははは、そうだ我は魔王なのだ」


 黒城は恥ずかしさで何やらおかしなテンションになりつつあった。


「とにかくぼ、僕。じゃなくて、我はエロいことが嫌いではないが、今はそんな気分じゃない。外ではなく部屋でじっくりと遊ぶタイプだからな」

「うぅ……じゃあお風呂一緒に入るだけならいい?」

「あ、あ、ふふ……それにしても魔王様って綺麗な体。それに顔も可愛い……」

「あまり我が肉体をジロジロ見るな。恥ずかしいよ」

「い、いえ。何も見てません。魔王様にゴスロリを着せたら可愛いだろうなんて思ってません」

「お前ら…………まあいい。一緒に風呂はいるくらいなら」

「やったー、魔王様」

「う、うお」


 神崎が黒城に正面から抱き付き、その小さな胸とみずみずしい体の感触を黒城は全身で味わう。


「ふふ……流石、魔王様の使い魔……大胆」

「魔王さまの体、抱き心地いいよ。島村ちゃんもどう?」

「ふふ……私は人類唯一にして最強の闇の申し子。そ、そう安くない」

「ふ、ふはははは、我が名は魔王黒城。むはははは」


 恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら黒城は高笑いを続ける。


「やれやれ、こっちではまだ前魔王様には遠く及びませんな」


 黒城はその物陰からした小さな独り言を聞き逃さなかった。


「おい、こら、幽霊男爵。何覗いてるんだ。見張りは!」

「部下に任せておきましたのでご心配なく」

「いや、そもそも。風呂は一人でのんびりとだな」

「前魔王様は仰っておりました――乱入は定番だと」

「魔王さまー、って男爵。のぞいちゃ、いや!」

「ひっ……み、見ないで」

「おっと、これはマズイですね。魔王様のご様子を見に来たつもりが、お二人の裸も見ることになるとは。はっはっは、ごちそうさまです」


 悪びれなく笑う男爵。

 それに対し、三人は同時に大声で言い放った。


「出て行け!」



               ☆



 黒城は制圧したフベツ一の高級温泉宿であるムッシュの最上階にある貴族用の部屋で一人、物思いにふけっていた。


「ああ……それにしても、どうして神崎はどうしてナナに似ているんだ……」


 黒城は風呂での出来事をきっかけに、死んだ幼馴染の松永七海と風呂にはいった昔の事を思い出していた。

 そして、それと同時に七海と過ごした楽しき日々と――彼女の死が伝えられた絶望の日も。


「ああ、もう僕、じゃない我は魔王だ。そんな過去なんてどうでもいい。弱く惨めだった過去など、我には不要」


 我は最強の闇、魔王――その自負で黒城は何とか、記憶から這い出てくる懐かしさと悲しみを抑えこもうとする。


「魔王さまー、魔王さまー」


 そんな時、神崎の声が外から聞こえてきた。

 何とも言えないタイミングであるとは思ったが黒城は入室を許可した。


「ああ、神崎か。入っていいぞ」


 黒城が座ったまま魔法で鍵を開けると、すぐに神崎は部屋に入ってきた。


「うわぁ、すごい部屋……流石は魔王さま」

「まあ力づくで宿泊無料にしたおかげだけど。そういやお前は我の護衛だから一緒の部屋で寝るんだったな。まあ、それくらい裸に比べれば軽いものだね」

「えへへ、わたしの体良かった?」


 そう無邪気に可愛らしく笑いながら言った神崎の頬は温泉からあがったばかりだからだろうか、紅く頬が染まっていた。


「そうだね、エロいことはやりたくなったらやるよ」

「ねえねえ、次は何処へ行くの?」

「そうだな、次の近場で良さそうなのはイサカ。あそこは大きな商業都市だからね」

「温泉都市の次はお金いっぱいの商業都市なんて、やったー」

「まあ、たまたまだけど」


 そんな平凡な会話を黒城と神崎は交わす。

 特に特筆すべきこともない普通の会話。

 しかし、神崎が死んだ幼馴染に似ているからであろうか。

 先ほど押さえ込んだはずの懐かしさと悲しみが黒城の胸奥から再び噴出しそうになっていた。


「神崎、ところでお前は一体何者なんだ? 一体いつ、誰に、どうして生み出されたんだ?」


 それ故に――黒城は自然と口を開き、幼馴染との接点を探すための疑問を口にしていた。


「うーん、わたしはわたし? 前の魔王に作られた次の魔王のために作られた悪魔だよ」


 神崎はいつも通り、無邪気にそう答える。


「そうか、まあそうだよね」

 

 そして、当然のように死んだ幼馴染の接点など無いことを確認した黒城はどこか安心しながら席を立った。


「神崎、そろそろ晩餐の時間だ。ここの名料理人につくらせた寿司だから楽しみにしておくといいよ」

「はい、魔王さま」


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