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本性

 ミーミルはリスポーン画面から復帰すると、視聴者に向けていつもの可愛い声で微笑むかと思いきや、その瞳は冷たく鋭い光を放っていた。画面越しに映る彼女のキャラクターが再び動き出す。


「…みんな、ちょっと静かにしてくれる?」

 ミーミルは一瞬視聴者に語りかけたが、声色には明らかな違いがあった。そのいつもの陽気さや愛嬌は消え去り、彼女の真剣な声にチャット欄は次第に静まり始める。


「次はやる。私一人で仕留めるから。他の人、手を出さないで」

 ミーミルは配信を見ていることも忘れたかのように、強い口調で敵味方に指示を出した。


「スナイパーライフル、貸して」

 彼女の視線が自軍の狙撃手に向けられると、チームメイトの一人が一瞬戸惑いながらも彼女に武器を差し出した。画面上のキャラクターがスナイパーライフルを構えた瞬間、周囲に緊張が走る。


 一方で、舞香とフェンリルは優里の勝利に驚きつつも、画面に映るミーミルの異様な雰囲気に気づいていた。普段なら場を和ませる彼女の態度が完全に変わり、彼らは自分達ガルムと共に戦うときの目になっていたことが分かった。


「あの子…配信中ってこと、忘れてるのかしら?」

舞香が画面を見つめながら呟く。その言葉にフェンリルも眉をひそめた。


「…彼女、完全に勝負に集中してますね。こうなると手がつけられない」

「このままじゃ炎上するわね。フェンリル、今すぐミーミルの配信を止めて」

「承知しました」


 フェンリルは素早く端末を操作し、ミーミルの配信を一時停止した。その間もミーミルはスナイパーライフルを手に、敵陣に向かって歩を進めている。視聴者たちは突然配信が止まったことに困惑していたが、ミーミル本人はもうそんなことを気にしていなかった。


「優里ちゃん…油断しちゃだめよ。今のミーミルは、本気よ」

 舞香は静かにそう言いながら、優里たちを見守っていた。


 優里とアークライトは占領エリアを守りつつ、計画通りに動いていた。敵陣からリスポーンしたミーミルがまだ来ていないことを確認し、優里は一息つく。


「よし、これで逆転のチャンスを作れる」

 優里は冷静に状況を整理しながら、陣地の制圧に集中する。

 リスポーンから合流したアークライトも満足げに頷いた。

「これで現状は逆転ですね!あとは時間を稼ぐか、もう一拠点取れば勝利っす!」

「そう…でも、そう簡単にミーミルが諦めるとは思えない。補給を済ませて、次の動きに備えよう」

 優里は立ち上がり、拠点から物資の補充に向かう。そのとき、アークライトがふと目を細め、遠くで反射する光に気づいた。


「危ない!」


 反射光がフレイヤを狙うスナイパーの照準だと直感したアークライトは、咄嗟に優里を突き飛ばした。


「えっ!?」


 驚く優里の目の前で、アークライトのキャラクターが一撃で撃ち抜かれる。フレイヤを救ったアークライトの体が倒れると同時に、画面にはスナイパーライフルを構えるミーミルの姿が映し出された。


「あれは…本気のミーミル…」

 優里の胸が強く波打つ。物陰に隠れたまま、モニター越しにミーミルのキャラクターがスナイパーライフルを構えている姿を確認する。鋭い視線で索敵するその動きはまるで狙撃手の鏡だった。


「ちっ…メインを仕留められなかったか…まあいいや」


 ミーミルは呟きながら、再びスナイパーライフルに弾を装填する。小柄なキャラクターに似つかわしくない巨大なスナイパーライフルが、画面越しに威圧感を放っていた。


「ほぼ敵はリスポーン地点付近か。推定距離1000メートル以上…一撃必殺となると、あれは間違いなく対物ライフル…。掠っただけでも致命傷よ」


 優里は冷静さを取り戻すために深呼吸をしたが、その射程と威力に戦慄しながらも次の一手を考える。ミーミルはゆっくりと占領エリアへと近づいていた。


「もう逃げられないよ、フレイヤちゃん。さあ、あなたが頭出した瞬間、撃ち抜いてあげる」


挿絵(By みてみん)


 その声を聞きながら、優里は頭の中で戦術を組み立てる。物陰から一歩でも出ればスナイパーライフルの射程内だ。だがこのまま隠れていれば、敵の狙撃能力に負けてしまう。


「どうする…どうするの…」


 優里の脳裏に、かつてのナイファーとの戦いが浮かぶ。


「この状況、あいつならどうする?」


 彼女の手が再びマウスを握りしめる。震えを抑え、覚悟を決めた優里は呟いた。


「一か八か…決めるか」


 優里は冷静にモニターを見つめながら、ミーミルの狙いを外す方法を模索していた。

 スナイパーライフルの射線から逃れるには、単に動くだけでは限界がある。

 狙撃手としてのミーミルの精度は絶対的だと分かっていた。


「…だったら、その精度を下げるしかないか。これならどう?」

 優里はグレネードランチャーを地面に向けて発射する。

 低弾道で放たれたグレネードが爆発し、周囲の地面を激しく揺るがすと同時に、砂煙が一面に広がった。


「視界が…!」

 ミーミルは一瞬、狙いがつけられなくなり、スコープを外して素早く状況を確認する。

 しかし、砂煙に包まれた優里のフレイヤの姿を捉えることはできなかった。


「これならいける!」

 優里は砂煙の中を疾走し、一気にミーミルとの距離を詰める。狙撃が封じられたミーミルにとって、近距離戦は不利になるはずだと確信していた。


「なるほどね…近接戦に持ち込むつもりか」

 ミーミルは砂煙越しに近づいてくるフレイヤの影を感じ取り、少し微笑んだ。

 その笑みは冷静さを保ちながらも挑発的で、どこか余裕すら感じさせた。


 優里は砂煙を突き抜け、目の前にいるミーミルの姿を捉える。ライフルの引き金を構えながら、フレイヤはまっすぐミーミルに突進していく。


「これで終わりよ!」

 優里はそのまま引き金を引こうとした瞬間、ミーミルが小さく呟いた。


「私、受けた借りは必ず返すタイプなのよ」


 その言葉と同時に、優里の視界に映ったのはフレイヤの足元に仕掛けられていた地雷の赤い点滅だった。


「えっ…!」

 優里が驚きに息を呑む間もなく、地雷が爆発し、フレイヤのキャラクターは大きく吹き飛ばされた。画面に激しい閃光と爆発音が響き渡る。


「ざまあみろ」

 ミーミルのキャラクターが静かにスナイパーライフルを下ろし、冷たい微笑みを浮かべながら立っていた。彼女の足元には、地雷を仕掛けた形跡がはっきりと残っている。


「確かに砂煙の作戦は良かった。でも、スナイパーライフルを回避する事しか頭になかったみたいね」


 ミーミルはスナイパーライフルを構えたまま、静かに倒れたフレイヤに近づいていく。その瞳には勝利の余韻と、どこか冷酷な光が宿っていた。スコープ越しに優里のキャラクターが倒れ込む姿を捉えながら、ミーミルは小さく鼻で笑った。


「何が戦火の皇女よ。 大したことないじゃない」

 ミーミルは一度スナイパーライフルを下ろしたが、その直後、まるで怒りの矛先をぶつけるかのように再びフレイヤの倒れた体に銃口を向けた。


「こんな!もんで!私の怒りが収まると思ってる!?」

 そう叫ぶと、彼女はスナイパーライフルでフレイヤの倒れた体に連射を浴びせ始めた。無抵抗のキャラクターに容赦なく弾が当たり、画面越しに銃声と衝撃が響き渡る。


「ちょっと上手い素人が粋がってんじゃねえ!」

 ミーミルは悪態をつきながら、さらに何発も銃弾を撃ち込む。その一方で、彼女の指先には怒りとも苛立ちとも取れる力が込められていた。


 その様子を別画面で見ていた舞香とフェンリルは、ミーミルの様子に呆れると同時に頭を抱えた。


「やっぱりこうなったわ…」

 舞香は額に手を当て、深い溜息をついた。


「完全に切れてるな…。配信止めて正解だった」

 フェンリルも眼鏡を押さえながら苦々しい顔をして画面を見つめる。


「このまま配信してたら、間違いなく炎上案件よ。死体撃ちなんて、ストリーマーとして絶対にやっちゃいけないことだもの」

 舞香は冷静に状況を分析しつつ、肩をすくめて言った。


「彼女、今はそんなこと気にしてる余裕なさそうですね…。これ、後でどうフォローするつもりです?」

 フェンリルが舞香に尋ねると、舞香はもう一度深い溜息をついた。


「とりあえず、優里ちゃんに謝る準備をしないといけないわね。ミーミルにも説教確定よ」

 舞香の声にはどこか諦めと、後の処理を考える冷静さが混ざっていた。


 一方で、優里はモニター越しにフレイヤが執拗に撃たれる様子を見ていた。ミーミルでの配信とは違う言動に少し恐怖を感じてしまうが、それと同時に悔しさがこみ上げてくる。

 優里は歯を食いしばりながら、自分のキャラクターが無残に扱われるのを見ていた。しかし、その光景は彼女の心に火をつけるきっかけにもなった。


「次は、必ず勝つ」

 優里は静かに呟きながら、再びマウスを握りしめた。

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