アークライト
デモリッシャーの味方は一瞬、驚いた表情を浮かべたが、優里の真剣な瞳に気圧されるように、少し考えた後で頷いた。
「た、多分…いけると思います!」
「よし、ならこうするわ」
優里は簡潔に次の戦術を説明し、手際よく拠点から弾薬と爆薬などの装備を補充する。その様子は冷静そのもので、迷いが感じられなかった。
一通りの説明を聞いたデモリッシャーの味方は、自分の役割を理解して考え込む。
「これって…つまり、ボクが囮になれってことですか?」
デモリッシャーが少し不安げに問いかけると、優里はすまなさそうに眉を下げながらも真剣な声で応えた。
「ごめん。不安だよね。でも、あんたが動いてくれなければ、この局面は打開できない」
その声には、冷静さと揺るぎない自信が宿っていた。
「…わかりました!やります!」
デモリッシャーは覚悟を決めたように拳を握りしめた。
「自分、アークライトって言います! フレイヤさん、頼りにしてるっす!」
その名乗りに、優里も静かに頷く。
「こっちこそ、よろしくね。アークライト」
そんな中、リスポーンを終えた敵チームが再び集結し始めた。ミーミルの指揮のもと、統率の取れた動きで占領エリアに向かってくる。
「みんな、次は気を抜かないで!相手は戦火の皇女。今度は私がきっちり仕留めるから!」
ミーミルの明るく弾む声が戦場に響く。配信の視聴者たちもチャット欄で「本気のミーミルが見られる!」「次は絶対勝つ!」と盛り上がっていた。
優里はミーミルの動きをモニター越しに見つめながら、深く息を吐いた。
「相手が優勢に見えても、一瞬の隙があれば覆せる…。これは…アイツが教えてくれたことね」
かつてナイファーとの戦闘で学んだ経験が蘇り、優里の胸に自信を灯した。彼女は小さく微笑むと、改めてマウスを握り直す。
「よし、作戦開始。アークライト、任せたわ」
「了解!」
アークライトは優里の指示通り、エリアから勢いよく飛び出した。
「いたぞ!あのデモリッシャーだ!」
敵が気づき、アークライトを追撃し始める。
「うわっ、来た来た!追いかけてきてる!」
敵チームの何人かが完全にアークライトの動きに引き寄せられ、占領エリアから離れていく。その光景を確認した優里は静かに笑みを浮かべた。
「いいわね。ミーミル以外を散らしてくれれば、私が動ける」
し かし、ミーミルは追撃を一瞬迷う素振りを見せた後、すぐに状況を察知して立ち止まった。
「これは囮だね。彼女は別の動きをしているはず」
ミーミルは周囲を警戒し始める。その鋭い判断力を見て、優里は小さく呟いた。
「さすが。だけど、それを逆手に取るのよ」
優里はフレイヤを操作し、気配を消しながらエリア周辺を回り込む。ミーミルが警戒を強めている間に、別のルートから敵の隙を突くタイミングを計った。
「ミーミルチャンネルの配信、よく見てたからね…。彼女は卓越した戦闘スキルを持ってるけど、すべての戦闘で単独行動が多い。それが勝機になる」
通信でアークライトから連絡が入る。
「十分引き付けました!そろそろ良いですか?」
「いいわ、予定通り起動して!」
「了解! あとは任せました!」
その瞬間、アークライトが逃げた先で爆風が巻き起こった。モニター越しにも感じられる衝撃に、ミーミルが驚いた表情を浮かべる。
「えっ!?なになに!?」
配信を見ていた視聴者たちも動揺し、チャット欄が騒然となる。
爆風の中心には、追撃していた4人の敵が完全に吹き飛ばされていた。
「じ、自爆!?」
ミーミルはわずかに顔を歪める。自爆戦術はミーミルにとって美学に反するものであり、彼女のプライドを揺さぶった。
「自爆なんて…美しくない。出てきなさい、戦火の皇女!」
怒りを露わにしたミーミルが叫ぶ中、優里は物陰からグレネードランチャーを撃ち放った。
「ちっ!卑怯者!」
ミーミルは即座に弾道を読んでかわし、優里の位置を突き止める。
「さて、これで1対1のイーブンに持ち込めた…あとはフィジカルで勝負ね」
優里は少し震える手を抑えながら、自分を奮い立たせた。
「どうした、優里…。怯えてる?でも、ナイファーの時のほうがもっと怖かった」
過去の経験を思い出し、優里は自分を落ち着かせた。いよいよ正面からの勝負が始まろうとしていた――。
「戦火の皇女!」
ミーミルの鋭い叫び声が響き渡った瞬間、先に動いたのは彼女だった。壁際に手榴弾を素早く投げ込み、優里が潜む場所を爆風で無理やり炙り出そうとする。その動きには一瞬の迷いもなく、まるで初めから勝利の一手を確信しているかのようだ。
「この場面、普通は避けるしかない…」
優里の頭に即座に計算が巡る。
「でもミーミルは、その『普通』を読んでる。爆発を避けた次の瞬間、射線に私を捉えて撃ち抜く気だ…狙撃手の彼女なら確実に!」
「なら…やるしかない!」
優里の目が鋭く光り、咄嗟に手榴弾へと手を伸ばす。落ちる寸前のそれを拾い上げ、ミーミルの方へ全力で投げ返した。
「投げ返し!?」
驚きの声を上げたのはミーミルだ。空中で回転する手榴弾が自分の方へ迫ってくるのを確認すると、その動きは一瞬にして回避に切り替わる。
「エインヘリヤル!」
ミーミルは咄嗟の判断でゲージが溜まっていた「エインヘリヤル」を発動させた。赤紫のオーラがキャラクターを包み込み、爆風の中心を突き抜けるように飛び出す。その姿はまるで爆発そのものを力で押し返しているかのようだった。
「さすが、これがガルムのトップメンバー…!」
優里は内心で舌を巻きながらも、次の一手にすぐさま移る。 「だけど、私だって――!」
「エインヘリヤル、発動!」
優里のキャラクター「フレイヤ」もまた赤いオーラを纏い、火花を散らすように輝き始める。全身から溢れる力が画面越しにも伝わり、ミーミルの視線が鋭くこちらを捉えた。
「当たれぇええええ!」
フレイヤが構えたM4から、赤く輝く弾丸が怒涛の勢いで放たれる。一発一発がエインヘリヤルの力を宿し、通常弾ではありえない破壊力を帯びてミーミルへと迫る。
「ちっ…避けきれない!」
ミーミルが回避動作を取ろうとするが、間一髪間に合わず、弾丸がその身体を貫いた。直撃したオーラ弾が防御力を無視してミーミルの体力ゲージを一気に削り取り、彼女のキャラクターはその場に膝をつく。
「や、やられた…?」
ミーミルの声が配信中に響く。普段は冷静な彼女も、今回は動揺を隠せない。
キャラクターが倒れ込むと同時に、ミーミルチャンネルの視聴者たちも言葉を失ったようだった。コメント欄は「え?」「嘘だろ…」「ミーミルが負けるなんて!」と驚きの言葉で埋まっていく。
「…ごめん、みんな」
リスポーン画面に切り替わったミーミルは、視聴者に向けて悔しげな笑顔を見せた。その瞳には怒りと悔しさが滲んでいる。
「ちょっと約束破るね」
低い声でそう呟いたミーミルの顔は、可愛さを装ったいつもの表情とは違い、完全に「戦士」のそれに変わっていた。
一方で優里は、モニター越しにミーミルのキャラクターが倒れる瞬間を静かに見届けると、小さく息を吐いた。
「…これで仕留めた。でも、まだ戦いは終わってない。こっから相手は本気で来る」
彼女の手は震えながらも、再びマウスを握り直す。その瞳には、次なる戦いへの覚悟が宿っていた――。
ドラクエ3が終わったので戻ります。




